Reuters logo
コラム:米国が見逃した「中国軟化」のシグナル
2014年7月14日 / 06:23 / 3年前

コラム:米国が見逃した「中国軟化」のシグナル

 7月11日、2日間の日程(9─10日)で北京で行われた米中戦略・経済対話で、オバマ米政権は、米中投資協定を前進させるチャンスを逃した。写真はケリー米国務長官(左)と中国の習近平国家主席(右)。10日撮影(2014年 ロイター/Jim Bourg)

[11日 ロイター] - 米国のケリー国務長官とルー財務長官は、米中戦略・経済対話のため2日間の日程(9─10日)で北京を訪れた。米中関係は過去10年で最も緊張が高まっているが、協議では双方ともに平静を装い、2国間に広がる大きな隔たりを取り繕うことはできた。しかし、安全保障面でも経済面でも、大きな成果は何もなかった。

残念なことにオバマ米政権は、米中投資協定(BIT)を前進させるチャンスを逃した。国境をまたぐ投資のルールを決める同協定が前進すれば、大きな経済的利益が生まれ、両国を悩ませる戦略的問題に対するポジティブな波及効果も期待できたかもしれない。しかし、双方に信頼関係がほとんどないことが浮き彫りとなった今、米中関係はさらなる緊張へのとば口に立っていると言える。 

1年前、オバマ大統領は中国の新指導者となった習近平国家主席をカリフォルニア州の保養地サニーランズに招き、首脳会談を行った。そこで両者は、サイバー攻撃問題での協議や北朝鮮への圧力強化など野心的な取り組みを掲げ、世界で最も重要な2国間関係の前向きな将来像を描いて見せた。

しかしながら、実際にはその後、米中関係を後戻りさせる多くの問題が起きた。東シナ海では日中の対立が激しさを増し、南シナ海では領有権問題がからむベトナム沖に中国が石油掘削装置を設置。米国家安全保障局(NSA)の元契約職員エドワード・スノーデン容疑者が米当局による情報収集活動を暴露した問題では、米中両政府が神経をとがらせた。

また米国は、サイバー攻撃によって米企業への産業スパイを行っていたとして、中国人民解放軍の関係者5人を起訴。貿易摩擦も続いており、最近の人民元下落や中国による外国人投資家への規制継続も、年間5000億ドル(約50兆7000億円)に上る両国の経済関係を弱体化させる恐れがある。米国は中国との関係を「協力と競争の微妙なバランス」と引き続き表現している一方、中国は自国の台頭を米国が「封じ込め」に動いているとの疑念を深めている。

繰り返しになるが、今年の米中戦略対話でオバマ政権は、米中投資協定(BIT)を前進させる大きなチャンスを見送った。対話の開幕式で習主席はBIT交渉「加速」への期待を公言していたが、最終的に発表された共同声明からは、米国が中国側の申し出に乗らなかったことは明らかだ。

なぜBITは重要なのか。BITが発効すれば、双方とも自国に進出する相手国企業の多くを自国企業と同様に扱わなくてはならなくなる。中国政府は、中国で事業展開する米国企業に技術移転を強制することはできなくなる。中国の国有企業は、競争力強化に政府の後ろ盾を使うことが制限されるようになるだろう。米国企業は、これまで外資参入が厳しく規制されてきた中国の保険や通信、銀行などへの投資拡大が認められるようになる。中国経済は、米国からの投資拡大と米国での投資拡大の双方から恩恵を受けることができる。

BIT交渉が初期段階から進んでいないのは、オバマ政権が中国との関係強化に前のめりと見られるのを嫌がっていることが理由にも見える。しかし、BIT交渉が進展しないと、中国側では、米国のアジアでの真の経済的優先課題は環太平洋連携協定(TPP)だけとの見方が強まるだけだ。中国はTPPを、米国による中国封じ込めの一環だと考えている。

戦略対話で米国は、オバマ大統領がホワイトハウスを去る前のBIT交渉妥結に向けた熱意を見せるべきだった。そうした姿勢を示せば、オバマ大統領が1年前の米中首脳会談での合意内容に今も真剣であるという強いメッセージを送れたはずだ。領有権をめぐる緊張や通貨操作や産業スパイの問題があっても、「米国は中国の平和的台頭を歓迎する」というものだ。

BIT交渉が進展しても、地域の緊張が消え去るわけではない。米国は、同盟国である日本や韓国、フィリピン、オーストラリアにとって極めて重要な海洋権益問題で強い姿勢を崩しておらず、今後も安全保障問題をめぐる緊張状態が続くだろう。海洋進出を強める中国に対して米国が断固たる姿勢を示すことは、武力衝突を抑止することになる。しかし同時に、こうした姿勢は避けがたく米中関係を緊張させる。

少なくともBITは、増え続ける安全保障上の懸念の一部を和らげる可能性はある。BITが締結すれば、2001年の中国の世界貿易機関(WTO)加盟をめぐる交渉以降では、米中間で初めての大きな合意となる。冷戦下の米国とソ連は、さまざまな戦略的かつ経済的問題で重要な合意を結び、それが両国関係の安全弁となっていた。BIT締結への努力は、米中間が難しい問題に手際よく対処する空気を醸成することにもつながるだろう。

領有権をめぐる中国政府の姿勢を軟化させる可能性が高いのは、米中双方にとってメリットのある協定を遅らせることより、経済的に大きな突破口を開けることではないだろうか。

*筆者は元米国務省高官で、現在は国際政治リスク分析を専門とするコンサルティング会社ユーラシアグループの会長兼調査責任者。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below