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コラム:「イエレン・コナンドラム」の正体=永井靖敏氏
2017年4月20日 / 04:22 / 5ヶ月前

コラム:「イエレン・コナンドラム」の正体=永井靖敏氏

[東京 20日] - 3月中旬以降、米長期金利は低下傾向をたどっている。低下の主因は、医療保険制度改革法(オバマケア)代替法案の失敗、つまりトランプ政権の政策運営に対する期待の剥落と筆者はみているが、米国の利上げが早すぎたと市場が解釈したためかもしれない。

米長期金利の先行きは、低下の主因や市場の注目点により異なるため、現状分析を行うことは、極めて重要だ。

振り返れば、2004年の利上げ局面でも、米長期金利は低下傾向をたどった。当時のグリーンスパン連邦準備理事会(FRB)議長が、そうした状況を「コナンドラム(謎)」と呼んだことが市場の注目を集めた。イエレン議長下の利上げ局面で進む今回の新たなコナンドラムの正体は何だろうか。

<政策期待剥落説だけなら低下一巡か>

まず、前者の政策期待剥落説についてみると、オバマケア代替法案の雲行きが怪しくなったのは、3月半ば頃という点で、米長期金利のピークの時期と重なる。ライアン下院議長が代替法案成立に向けて奔走したが、共和党の保守派メンバーで構成される「フリーダム・コーカス(下院自由議員連盟)」の反対により、目標としていた3月下旬の下院通過を断念。共和党が内部分裂している様子が鮮明になった。

この結果、市場が期待していた大規模減税やインフラ投資も実現困難との見方が強まり、米株式相場が下落。連れて米長期金利も低下傾向をたどった。この見方に異論を唱える人はいないと思われる。

政策期待剥落だけが理由なら、米長期金利の低下は一時的という結論になる。「トランプ期待」による米長期金利の上昇も一時的だった。もともと、トランプ大統領の掲げていた政策が実現すると本気で期待していた人は少ないだろう。政局関連のニュースはヘッドラインを飾りやすいため、日々の長期金利の動きに影響を与えるが、中長期的な方向性や水準を変える要因にはならないと筆者は考えている。

<早すぎた利上げが理由なら一段の低下も>

問題は、早すぎた利上げという見方との合わせ技の可能性がある点だ。米長期金利のピーク時期は、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げのタイミングとも一致する。3月の利上げについては、強引に、短い期間で利上げ地ならしを行ったと指摘する向きが多い。

2月上旬時点では、「3月の利上げはない」との見方が市場のコンセンサスだったが、複数のFRB高官の発言を受け、3月上旬には、利上げが確実視される状況に変化した。FOMC後の記者会見で、記者から、利上げの地ならしが遅すぎたのではないかとの質問も出た。

イエレンFRB議長は、質問に対し、情報発信にぶれがなかった点を強調。暗に、市場の受け止め方が遅かったと説明したが、結果として、長期金利の上昇・低下につながった可能性もある。すなわち、2月中旬頃から、市場が3月の利上げの可能性を意識し始めたことで、市場の関心は目先の経済・物価動向に集まった。この結果、長期金利は、FRB高官の景気に対する強気な発言に素直に反応し、上昇傾向をたどった。

ただ、利上げ実施後は、市場の関心は長期的な経済・物価動向に向かったとみられる。FRBが、利上げのペースが、極めて緩やかになる点を強調しているため、市場は「次回5月のFOMCでの利上げはない」ことを確信。この結果、当面の経済・物価動向よりも、構造問題に対する関心が高まりやすくなった。

特に3月の利上げは強引だったという印象を与えたため、「早めの利上げは、将来の景気・物価上昇抑制要因になる」との見方を強め、これが米長期金利の低下要因になった可能性がある。構造問題の注目度が高まることで、長期金利が一段と低下する可能性が生じる。

<米経済ファンダメンタルズは良好>

米長期金利の低下という市場からのメッセージに、謙虚に耳を傾ける必要はあるが、市場に「流される」のは危険だと筆者は考えている。金利が低下すると、長期停滞論の説得力は高まるが、いまさら感がある。

最近では、失業率が低下しても、賃金が伸び悩んでいることを理由に、失業率と賃金の関係が消滅したと指摘する向きもあるが、長期的には賃金上昇加速に結びついている。特に3月の失業率は4.5%と、米議会予算局が試算している自然失業率の4.7%を割り込んだ。

自然失業率は、幅を持ってみる必要があるが、過去、自然失業率を割り込んだ後、賃金の伸びが加速している。最近の米長期金利の低下を、構造変化で説明するのは場当たり的だと筆者は考えている。

当然のことながら、米長期金利の先行きをみる上で、客観的な景気分析が必要だ。足元の米経済指標を振り返ると、3月の非農業雇用者数、小売売上高など、弱い経済指標も出ているが、天候やガソリン価格の下落が影響している。ISM景気指数や消費者信頼感指数など、高水準を維持している指標も多く、総じてみれば、米景気は着実に回復していると評価できる。コア消費者物価指数が2010年1月以来の前月割れとなった点は気掛かりだが、携帯電話サービスの下ぶれという特殊要因がある。

先行きについても、米景気が目先腰折れする理由は見当たらない。自動車販売は、ピークアウトしつつあるが、可処分所得が着実に増加していることから、個人消費が腰折れする可能性は小さい。住宅投資についても、空室率が低下傾向をたどっているため、今後の一段の投資増が期待できる。設備投資については、循環的な下向き局面に入っているようだが、足元で企業のキャッシュフローが上向くなど、明るい兆しも出ている。

すでに計3回利上げが実施されたが、消費者物価も上昇しているため、実質金利でみた金融緩和度合いは高まっている。米長期金利は、目先一段と低下する可能性はあるが、早晩反発すると筆者は予想している。

*永井靖敏氏は、大和証券金融市場調査部のチーフエコノミスト。山一証券経済研究所、日本経済研究センター、大和総研、財務省で経済、市場動向を分析。1986年東京大学教養学部卒。2012年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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