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コラム:内憂外患の米中、「経済戦争」は宿命か=斉藤洋二氏
2017年1月22日 / 03:19 / 8ヶ月前

コラム:内憂外患の米中、「経済戦争」は宿命か=斉藤洋二氏

[東京 22日] - ドナルド・トランプ氏が20日、米国の第45代大統領に就任した。就任演説では「米国第一主義」が前面に打ち出され雇用の確保が期待されるものの、他方で大規模な反対デモが起こるなど社会の分断が強く意識される政権の発足となった。

とはいえ、すでに市場では11月の大統領選でのトランプ氏勝利以降、大型減税とインフラ投資を柱とする経済政策への期待を背景に、債券から株式への「グレートローテーション」の動きが強まっており、ニューヨークダウ平均株価は2万ドルに接近し、米10年国債利回りも一時2.6%水準へと跳ね上がった。

また、為替市場でもレーガン大統領時代の「強いドル」が連想され、ドル円相場は114―115円近辺で底堅い動きを続けている。年内に120円台に到達するとの予想も依然根強い。

このようなトランプ相場は、市場が持つ「期待を先取りする」という性格を反映したものであり、今後政権が打ち出す具体的施策を見るにつれて、その期待がしぼんでいく可能性は高い。

特に大規模なインフラ投資による財政規律の緩みや保護貿易主義による他国との摩擦など負の側面に留意しておく必要がある。ともかくトランプ大統領がこれまで選挙戦を通じさらにその後もツイッターなどで経済、外交各方面について奔放に意見を述べてきただけに、その政策実現に不確実性が伴うのは避けられない。

上院の指名承認公聴会では政権内の意見不一致が垣間見えた上に、議会共和党がトランプ大統領と一枚岩ではないこともあり、今後さまざまな局面で議会とホワイトハウスの間で軋轢が生じる可能性も否定できない。とりあえず主要な課題への具体的プランが明らかとなる政権発足直後の100日、つまり4月末までの期間がその試金石となるだろう。

トランプ政権は、外交方針の根幹に親ロシア、反中国を据えているように思える。また、メキシコ、日本とともに中国を「為替操作国」と名指しで批判していることからも、通商分野を中心に米中関係の行方が注目される。

これまでグローバリゼーションが進む中で、「世界の工場」として中国の貢献が一定程度評価されてきたものの、今後大きく批判の対象へと転換する可能性は高い。特に米通商代表部(USTR)代表と新設される国家通商会議(NTC)のトップにそれぞれロバート・ライトハイザー氏とピーター・ナバロ氏という対中強硬派が任命されたことからも、中国に対して厳しい政策が打ち出されるか注目されるところだ。

実際、トランプ大統領は選挙勝利後に台湾の蔡英文総統と電話会談し、「一つの中国」の原則に揺さぶりをかけている。また、国務長官に指名されたレックス・ティラーソン氏も中国の南シナ海の人工島へのアクセスを認めない姿勢を示すべきだと発言している。

しかし、中国は南シナ海や台湾を「核心的利益」としているだけに、これらの問題について一歩たりとも譲歩するとは考えにくい。その点でも米中間において通商分野、特に貿易不均衡問題と為替問題に火が付く可能性が高い。

<中国側の権力闘争が米中対立あおる可能性>

一方、中国側の動きについては、習近平国家主席が17日の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)開幕式で基調講演を行い、反グローバリズムの動きをけん制する発言で話題を集めた。

自由貿易主義のメリットと保護貿易主義のデメリットを説くその姿は、かつて「自由」を標榜する米国が「国内の論理」を押し通す中国を非難するという立場が逆転したかのような印象を与えるものだったが、ともかく習氏はトランプ政権の出方を静観し反撃の機会をうかがっているところだろう。

目下の中国は、共産党が設立された1921年から100周年にあたる2021年を前にして、20年には10年と比較して平均所得を倍増しようと当面6%台後半の経済成長率の達成に余念がない。しかし、16年の成長率は6.7%と26年ぶりの低水準にとどまり、17年の見通しも国際通貨基金(IMF)が6.5%と予測しているように20年の目標達成は微妙である。

このような環境下、2012年以降、習氏以下7人が共産党中央政治局常務委員会(事実上の最高指導部)を構成し政権を担ってきたが、権力闘争の激しさはこれまでと同じだ。

「虎もハエも同時に叩く」とのスローガンの下で繰り広げられた反腐敗闘争において、薄熙来・元重慶市党委書記や石油閥の周永康・元常務委員などの大物が追い落とされたのは記憶に新しいが、その結果、16年10月の第18期中央委員会第6回全体会議(6中全会)で習氏は、毛沢東、鄧小平、江沢民の3氏にしか使われなかった「核心」の指導者と呼ばれることになり、より強い権力を築くことに成功した。

しかし、その過程で、「権威人士」とのペンネームを有する習氏ブレーンと目される人物が、構造改革の徹底とL字型の経済成長を主張し、U字型やV字型の景気回復を優先させる李克強首相への批判を強めたと報じられている。このような経済論争の形をとった権力闘争に対し、李首相が江沢民派の常務委員らと連携して反発を強めているとの報道もあり、今後の権力の行方から目を離せない。

こうした状況で今秋に開催される5年に1度の共産党全国代表大会では、ポスト習体制をめぐって権力闘争が一層激化することは必至だ。「世代交代」が今年の中国の最大のテーマとなろう。

ちなみに、国内外の報道によれば、習氏らの世代(第5世代)を継ぐ第6世代のトップ候補として12年に同時に中央政治局委員になった胡春華・広東省党委書記(李首相と同じ共産主義青年団の出身)と孫政才・重慶市党委書記(江沢民派)が、今秋の共和党全国代表大会で常務委員に選ばれ、22年以降のポスト習体制を担う可能性が高いという。

確かに、現在のメンバーのうち習主席と李首相を除く残り5人の常務委員が党大会において68歳の定年を迎えることから、権力構造の激変は避けられない。ただ、その緩和措置として、反腐敗闘争で習氏を支えてきた王岐山・党中央規律検査委員会書記の定年を延長させる可能性や、習氏の最側近である栗戦書・党中央弁公庁主任を常務委員に抜擢して院政を目指し権力強化を図ることなども予測されており、その成り行きが注目される。

このように共産党指導部の権力闘争が激しく続く一方、現在の中国は国内に共産党・官僚の腐敗、民族問題、格差問題、環境悪化、国有企業のゾンビ化、人口問題を抱え、対外的には米国との軍事、貿易上の軋轢に直面している。権力闘争で勝ち残るためにも、特に対外問題での妥協は難しい局面だろう。

要するに、2017年の金融市場で最大の注目材料は米中対立の行方であり、特に貿易不均衡と為替問題が焦点になりそうだ。メディアなどから流れてくる発言を追うと、為替政策についてトランプ大統領とムニューチン財務長官候補の意見が一致しているようには思えないが、今後ドルの適正水準をめぐって人民元安がやり玉にあげられることは必至だ。

当然、円もその影響を受けることになるだろう。主要6通貨に対するドル指数が約14年ぶりの高水準で推移していることからも、今後のドル円の下げ余地が大きい点には警戒が必要だ。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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