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コラム:クロダノミクスの限界と円高転換リスク=斉藤洋二氏
2015年12月21日 / 00:10 / 2年前

コラム:クロダノミクスの限界と円高転換リスク=斉藤洋二氏

[東京 21日] - 2012年11月16日に民主党の野田佳彦首相(当時)が衆院を解散してから3年余りが経過した。その日を境に「株買い・円売り」のアベトレードが進んだが、15年も前年末(日経平均株価1万7450円)を上回り4年連続の株高が実現される見込みだ。

一方、円相場については前年末(119.79円)を更新し、4年連続のドル高・円安で越年する可能性が高い。

しかし、12―14年には各年とも年末比較で10―20%強の円安をたどっていたことと比べると、15年は現状と前年末比で1―2%程度の円安にとどまっているように、モメンタムが失われつつあることは明らかだ。そして、なによりもユーロや豪ドルなどクロス円についてはすでに円高が進行する1年となった。

16年の円相場は、引き続き日米の金融政策が注目され、特に日銀の追加緩和策への「期待」が市場をけん引することになるだろう。とはいえ、18日の日銀の金融緩和補完措置の発表後の乱高下に見られたように黒田東彦日銀総裁の「クロダ・マジック」もその効果は薄れてきており、これまでのように日銀頼みで円売りを行うのは要注意かもしれない。そろそろ「クロダノミクス」の賞味期限を見極めるべき時が来たのではないだろうか。

<円安地合いも曲がり角に>

そもそも、これまでの株高・円安はひとえに黒田日銀により市場そして国民の「期待」が大きく膨らんだ結果だ。つまり、アベノミクスの正体は「第1の矢」とされた日銀の金融政策であり、つまりクロダノミクスと言われる質的・量的緩和策(QQE)による「期待」への働きかけだったと言ってよいだろう。

そして、その「期待」を後押ししたのが、日本の企業や投資家らによる海外への直接投資や証券投資の増大であり、貿易収支の悪化による為替需給ひっ迫が円安に追い打ちをかけた。しかし、その主役の1つとしてポートフォリオリバランスを進めた年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)はすでに為替ヘッジを開始したとも一部で報じられている。このように市場の一部に円安達成感が広がりつつあるのは明らかで、これまでの一直線の円安地合いも曲がり角を迎えた観は拭えない。

つまり、円安相場を支えてきた「為替需給ひっ迫」や「期待」に一巡感がある現在、市場の「期待」を再度膨らませるのは黒田総裁にとっても至難の業となるのではないか。つまり、16年はクロダノミクスの限界が露呈され円高へ転換する年となる可能性を捨てきれない。

クロダノミクスの目標はインフレを2%に引き上げることにより経済成長を実現させることにあった。それでは現在の日本経済はと言えば、17年4月の消費税率再引き上げを前にしてその準備を進めるべき重要な時期にある。しかし、14年の消費税率引き上げを境に上昇力を失い、15年4―6月期国内総生産(GDP)がマイナスへ、そして7―9月期も1次速報値でマイナスそして2次速報値でようやくプラスに転換するなど低空飛行を余儀なくされている。

特に実質賃金の低下を受けて消費の落ち込みが景気の停滞感を強めている。このような状況を打開するために、株価下支えこそ内閣支持率を引き上げるとの思いが強い政府は、景気回復と株価つり上げを目的とした好循環作りへと傾斜している。再増税時のショックを緩和するために民間企業に対して賃金の引き上げや設備投資の増大を要請し、一方で軽減税率を導入しようとしている。

しかし、現在のように国内市場が縮小し生産拠点の海外シフトが進む中で国内の設備投資意欲を高めることは難しい。さらに、これまで低福祉・低負担路線をとり「小さな政府」に徹してきた日本において、ここにきてなりふり構わず民間へ介入する現政権の姿には違和感も残る。

換言すれば、財政赤字が膨らむ一方で低成長が続く環境下、アベノミクスが目標達成に向けての舵取りが一段と難しくなっているせいとも言えよう。つまり、今後は日銀の金融政策への依存度が高まりこそすれ減じることはないだろう。

<督促相場で白川日銀時代の二の舞か>

13年4月のQQE導入以来、日銀は金融市場において年間80兆円のマネタリーベースの増加を図り、償還分を含めると年間110兆円程度の国債を買い入れてきた。その対象は新規発行分と金融機関が保有する国債であり、実体は「財政ファイナンス」と言われても仕方のない状況だ。

しかし、2年8カ月にわたる日銀の大量購入により国債価格は高騰し、年限2―3年程度まではマイナス金利に転じるなど品薄状態になっている。そして、現状のペースでQQEが進めば、17年半ば頃には市場の国債は枯渇し、量的緩和策の続行は限界に達することも懸念され始めた。

つまり、クロダノミクスの中心に位置する「国債購入」も1年半後とおぼしき量的限界が見え隠れし、イエローランプが点滅し始めたのだ。

一方、現在のインフレ状況は、原油価格下落の影響もあり、生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)は8月以降、3カ月連続してマイナス圏で推移しており、2%目標の達成はほど遠い。また、達成時期も16年度後半頃へと再延長され、さらに先延ばしされる可能性も取りざたされる。

このように欧米など各国中銀と比較にならないほどに猛烈な勢いで量的緩和策を展開しているにもかかわらず、クロダノミクスは一時の神通力を失い手詰まり感が強まっている。18日の金融政策決定会合において日銀は上場投資信託(ETF)の追加購入枠設定や国債買い入れの平均残存期間の長期化などの補完措置を発表した。しかし、乱高下の後、株価が下落し、円高が進むなど市場の失望を誘うこととなった。

今後は白川方明日銀総裁時代と同様に、追加緩和策について次の一手を巡り市場から督促を受けては冷水を浴びせられる場面が増えることも懸念される。とはいえ、黒田総裁の手元にある緩和カードは少なくなり、またその規模と効果が限定されつつある。その結果、クロダノミクスの限界が露見すれば、否が応でも「期待」が収縮する可能性が高まるだろう。

すでに3年を超える円安に輸入物価上昇の影響を受けて食料品価格が上昇しつつあり、政府・日銀がこれまでのように積極的な円安政策を継続することは難しい。また、米国においてもドル高の影響を受けて製造業が低迷し消費が下押しされている。つまり、これ以上のドル高・円安を日米両国は望んでおらず、この点からも必然的にドル高(円安)の天井が形成されつつあると見てもよいだろう。

これまで述べたような状況下において、今後もドル買い・円売りの「順張り」が奏功すると考えるのは難しい。16年は過去4年間の経験にとらわれず「逆張り」、つまりドル売り・円買いへの戦略転換がよいのではないか。しょせん、相場は「上がれば下がる」ものであり、「山高ければ谷深し」を肝に銘じるのは上策ではないだろうか。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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