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コラム:国際収支が示す「円高サイン」=亀岡裕次氏
2015年10月23日 / 09:48 / 2年前

コラム:国際収支が示す「円高サイン」=亀岡裕次氏

[東京 23日] - 国際収支は、中長期的な為替動向を見通すうえでのヒントを与えてくれる。日本の経常収支(季節調整済)は、この半年ほどは小幅な変動にとどまっているが、黒字拡大基調にある。

その内訳をみると、貿易収支が小幅な赤字にある一方で、サービス収支が赤字から黒字に転換し、第1次所得収支の黒字が拡大している。サービス収支の改善は、海外からの旅行者数増加による旅行収支の改善(2015年8月までの年間収支は前年同期比でプラス1兆円)と、知的財産権等使用料収支の改善(同1兆円)が主因だ。第1次所得収支の改善には、直接投資収益収支の改善(同3.3兆円)と証券投資収益収支の改善(同1.5兆円)が寄与している。

円安もあって海外からの旅行者増は続きやすく、また対外純資産の拡大を背景に投資収益の受取増も続きやすいだろう。サービス収支と第1次所得収支の改善傾向が続くことにより、経常収支の改善傾向は持続するのではないだろうか。

<日米貿易収支が円高・ドル安基調入りを示唆>

貿易収支が4月以降にやや悪化したのは、中国など輸出向け先の需要が鈍化したことが原因とみられる。今後、世界的な景気減速を背景に貿易収支が悪化傾向をたどる可能性はある。

ただし、輸出が減れば国内生産や輸入も細りやすいうえ、これまでに進んだ円安が輸入に比べて輸出を増加しやすくする効果もあるので、貿易収支の悪化は大きなものとはなりにくいだろう。

日米の貿易収支を比較すると2014年4月以降、相対的に米国の貿易収支が悪化する傾向にある。その場合、過去には16カ月以内に円高・ドル安基調に転換してきたが、今回も16カ月後の2015年8月までに円高・ドル安が進み始めている。日米貿易収支の相対関係からみると、すでに円高・ドル安基調入りした可能性が高い。

<資本流出幅縮小と円安ピークアウトのタイミングが一致>

むろん、経常収支の黒字(資本流入)拡大だけでは円高基調になるとは言い難い。これまでは、金融収支の資本流出がそれ以上に大きかったからだ。

2015年8月までの年間収支でみると、経常収支が14兆円の資本流入、外貨準備増減を除く金融収支が17兆円の資本流出である。ただし、経常取引と金融取引では、外貨と円の転換を伴う割合が異なるので、単純に両者の規模を比較しただけでは、円高と円安どちらに向けた圧力が優勢かを判断できない。

重要なのは「収支バランスの変化」である。実は経常収支と金融収支を合わせると、2015年5月までの1年間で資本流出幅が6兆円まで拡大した後、6月から資本流出幅が縮小している。ドル円のピークは6月5日だが、月末ベースでは5月末だ。つまり、日本の国際収支における「資本流出幅の縮小」と「円安のピークアウト」が時を同じくしているのだ。

資本流出幅が縮小した原因は、金融収支に含まれる対外証券投資の動きにある。対外証券投資は2015年5月にかけて年間ベースの取得超過(資本流出)幅が拡大した後に縮小に転じた。ドル円が120円を顕著に超える円安水準となったことを受けて、対外証券投資が縮小したのだ。

その後、120円前後に戻ると対外証券投資は再び増えたが、5月までのペース並みにとどまっている。国内投資家は、円安進行とともに対外証券投資を増やし続ける「積極的な投資スタンス」から、一定水準よりも円安では投資を減らし、円高では投資を増やすような「機動的な投資スタンス」に変わったと言えそうだ。

対外債券投資による資本流出は、5月までの年間ペースに比べて明らかに少ない年間6兆円ペースにとどまっている。投資家部門別には、生損保や金融商品取引業者の対外証券投資が鈍化しており、対外債券投資が鈍化した要因になっているようだ。

ただし、一方で対外株式投資による資本流出は9月に年間14兆円ペースまで拡大し、その後もほとんど縮小していない。これは、公的年金などの運用委託先でもある銀行等信託勘定や投資信託委託・資産運用会社の対外証券投資が拡大してきたことと関係がありそうだ。

<円高リスクを意識して対外債券投資は縮小か>

株式は債券に比べて価格変動率が大きいので、外国証券の投資収益率に占める為替変動率の割合が比較的小さい。対外株式投資は対外債券投資に比べ、為替見通しに影響されにくく株価見通しに影響されやすいことが、堅調に推移してきた原因ではないか。

だが、米国株など外国株価指数は伸び悩んでおり、株価が上昇していかないと11月以降は前年比でマイナス状態が続きやすくなる。そうなると、株価見通しにも影響を与え始め、対外株式投資が鈍化する可能性が出てくる。

一方、外国債券の投資収益率に占める為替変動率の割合は大きいので、対外債券投資は為替見通しに影響されやすい。対外債券投資が5月以降に縮小したのは、円安が進んだことにより、外国債券の利益確定売りが出やすくなったこともあるが、それだけではないだろう。円安がさらに大きく「進む」という見方よりも「進まない」という見方が優勢となり、円高リスクへの警戒心が強まり始めたからではないか。

ただし、円安見通しに比べ円高見通しが強くなければ、円高が進んだ際に対外債券投資が増えやすくなるが、円高見通しが優勢となると、円高が進んでも対外債券投資が増えにくくなる。

<ヘッジコスト上昇も対外債券投資の抑制要因に>

さて、全米経済活動指数は、過去に米長期金利が持続的に上昇した局面の水準に達していない。株価下落による「逆資産効果」が米消費者マインドの悪化要因になっていることや、世界的に景況感が悪化する傾向にあることを鑑みると、米国経済の成長ペースが加速する可能性は低いだろう。

残存年限5年以上の米国債金利が7月から低下基調にあるだけでなく、9月以降は2年以下の米国債金利も低下している。景気が減速傾向となると日米金利差縮小やリスクオフが円高・ドル安リスクを高めるだけに、為替ヘッジをしないオープン外債への投資は抑制されやすいものとみられる。

一方、金利低下傾向ならば為替ヘッジをしたヘッジ付外債への投資は増えやすいが、問題もある。為替ヘッジコストのベースとなる日米金利差が拡大してきたうえ、通貨スワップを用いてドルを調達する場合に円調達に比べた追加的なコストが上昇している。

「ドルLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)と円LIBORの格差」と「ドルと円のスワップ・スプレッド」からすると、ドル調達サイドは円調達サイドに比べて1年物で1%以上も高いコストを支払う状況に至っているのだ。

日銀の量的緩和継続もあり、円に比べてドルの需給が相対的に引き締まっていることが原因だろう。もし米金利低下が進んで日米債券の運用利回り格差が縮小した場合には、ヘッジコストが重荷となってヘッジ付外債への投資も抑制されやすいものとみられる。

対外証券投資が為替相場に逆張りであるうちは、対外証券投資が縮小の一途をたどることはないだろう。しかし、対外証券投資が停滞すると、経常収支の改善から国際収支バランスが資本流出超過から流入超過に変化し、円高に働く可能性に留意すべきである。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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