資産運用業界に再編の波、合従連衡で勢力図に変化も
大林 優香記者
[東京 14日 ロイター] 資産運用業界に再編の波が押し寄せている。金融危機を背景に欧米金融機関の合従連衡や資産子会社の分離が相次ぎ、日本でも拠点の統合や売却が進むことが主な要因。
昨秋以降の運用資産残高の落ち込みを受け、人員削減や戦略変更を余儀なくされた運用会社もあり、競争環境は既に変わりつつあるが、再編を機に運用業界の勢力図がさらに変化する可能性もある。ただ、異なる企業文化の運用会社が統合の果実を手にするには、運用やマーケティングなど広い分野で相乗効果を生むことが重要で、その成否によって明暗を分けそうだ。
<外資系運用会社の再編>
海外の再編の中でも業界への衝撃が大きかったのは、米運用大手ブラックロック(BLK.N: 株価, 企業情報, レポート)が6月発表した英銀バークレイズ(BARC.L: 株価, 企業情報, レポート)傘下のバークレイズ・グローバル・インベスターズ(BGI)の買収。債券と株式のアクティブ運用を主体とするブラックロックが、インデックス運用やETF(上場投資信託)事業に強みを持つBGIを傘下に収め、運用残高2.7兆ドル超の世界最大の運用会社に生まれ変わる。
日本法人ブラックロック・ジャパンの有田浩之社長は、先週開催されたロイター・インベストメント・サミットで、日本でのBGIとの統合について具体的な言及こそ控えたものの「一般論としてBGIの強みのインデックス運用などが加われば、顧客に対し、より幅広いソリューションを提供できる」とし、相互補完効果への期待を示した。
一方、米金融大手シティグループ(C.N: 株価, 企業情報, レポート)は傘下の日興アセットマネジメントの売却交渉を進めている。関係者によれば住友信託銀行(8403.T: 株価, ニュース, レポート)が有力候補で、買収が実現すれば住信・日興アセット組はブラックロック・BGI組とともに国内年金向け投資顧問受託残高が16兆円規模に膨らみ、3位以下のステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズや野村アセットマネジメントなどを大きく引き離す。また、長期的には個人マネーの流入が予想される投資信託市場でも成長の切符をつかむことになる。
このほか仏大手銀BNPパリバ(BNPP.PA: 株価, 企業情報, レポート)がベルギー金融大手フォルティス(FOR.BR: 株価, 企業情報, レポート)の買収を決めたのに伴い、日本の運用子会社であるビー・エヌ・ピー・パリバアセットマネジメントとフォルティス・アセットマネジメントが統合する見通し。また、仏クレディ・アグリコル(CAGR.PA: 株価, 企業情報, レポート)と仏ソシエテジェネラル(SOGN.PA: 株価, 企業情報, レポート)が運用子会社の統合で合意し、日本のクレディ・アグリコルアセットマネジメントとソシエテジェネラルアセットマネジメントも来年以降に統合する予定で、ともに日本でのプレゼンス向上を目指す。
統合各社は規模の拡大に伴う経営の効率化やブランド力、品ぞろえの強化による顧客層の拡大も見込める。国内の投資家は、昨年の株安や円高で運用損を被ったためリスク回避姿勢を強めているが「低金利が続く日本では、海外資産への投資を含む運用ニーズは根強い」(投信大手)ため、グローバルな運用ネットワークを持つ外資系各社が日本で成長する余地は大きいとみる向きもある。
ただ、昨年から人員削減や戦略変更が相次いだのも外資系運用会社だ。フィデリティ投信は昨年3月末に314人だった従業員を1年で約2割削減し、ブラックロックも約2割、モルガン・スタンレー・アセット・マネジメント投信も約1割減らした。ドイチェ・アセット・マネジメントは国内中小型株の運用体制を変更し「ある米系運用大手は一部年金向け商品の販売を停止した」(業界関係者)という。今後も親会社の方針でスリム化が進む可能性もあり「勝ち組と負け組の差が広がる」(運用大手)と予想されている。
<規模の拡大と将来の成長>
合併による運用規模の拡大について懐疑的な見方もある。「過去の運用会社の合併には成功例と失敗例があった。規模の拡大など表面上のファクターだけでは必ずしも合併が成功するとは限らない」(ワトソンワイアットのコンサルタント、窪誠一郎氏)と指摘する向きや、「再編で瞬間的に運用業界の勢力図が変わるかもしれないが、残高規模が大きな会社が将来も成長を続けられるとは限らない」(モルガン・スタンレー・アセット・マネジメント投信の古川千春投資顧問部長)とみる向きもある。
古川氏は08年度に過去最悪のマイナス運用に落ち込んだ年金基金からは、ベンチマークに対する「相対リターン」を追求する現行の運用方式を疑問視する声も上がっており「今後の顧客ニーズに見合う商品を提供できる会社だけが成長する」とみている。
また、合併作業に時間と経費がかかるほか、有能な運用担当者が合併後に辞める例もあることから、M&Aには否定的な運用会社もある。ピクテ投信投資顧問のギャビン・シャープ社長は先月のロイターとのインタビューで「ピクテグループは過去に一度も、買収も合併も(M&Aに伴う)妨げも経験していない」と述べ、今後もM&Aは行わず、自力での成長を目指す考えを強調した。
<運用会社の独立性>
欧米で金融大手による運用子会社の分離が加速している背景には、金融危機で痛んだ財務体質を補強するための資金調達ニーズや、同一金融グループの投資銀行と運用会社による相互取引などを制限する米国の規制の影響もあるが「利益相反の観点から、投資家側が運用会社の独立性を求めていることも一因」(日系シンクタンク)という。独立系のブラックロックは「運用会社は販売会社とは独立しているべき。独立性が確保できていないと顧客に対する受託者責任を果たせない」(有田社長)と主張する。
しかし、日本では「大手の銀行や証券会社の傘下にある方が、顧客の信用や強い販路を確保できるため有利」(年金コンサルタント)な状況で、実際、外資系や独立系の運用会社は販売チャネルの拡大などで苦慮している。ブラックロックの有田社長も「日本では独立していることがマーケティングや販売面で今は有利とは言えないが、販社側も数年前から、子会社の商品を売るだけでなく、オープンにいいものは投資家に紹介するという体質に変わりつつある」と、さらなる変化に期待を寄せる。
野村ホールディングス(8604.T: 株価, ニュース, レポート)の柴田拓美副社長と三井住友フィナンシャルグループ(8316.T: 株価, ニュース, レポート)の北山禎介社長はロイター・サミットで、運用会社をグループ傘下に抱える現行の体制を維持する考えを示しており、海外のように運用会社が金融グループから独立する可能性は極めて小さいようだ。
(ロイター日本語ニュース 大林優香記者;編集 田巻 一彦)
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