〔アングル〕スティールを「乱用的買収者」とした高裁判断、他に波及なら海外勢敬遠か

2007年 07月 10日 10:18 JST
 
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 村井 令二記者

 [東京 10日 ロイター] 米投資ファンド・スティール・パートナーズがブルドックソース(2804.T: 株価, ニュース, レポート)の買収防衛策差し止めを求めた即時抗告で、スティールを「乱用的買収者」と断定した東京高裁の判断は、今後のスティールによる日本国内での投資活動に打撃を与えかねないとの見方が出ている。また、今回の認定根拠を拡大解釈すれば「どんな投資ファンドにもあてはまる」との声もM&A関係者からは出ており、海外の投資家が日本市場を敬遠するきっかけにもなりかねないとの懸念も浮上している。

 東京高裁は9日、差し止め請求を却下した東京地裁の決定を支持してスティールの即時抗告を棄却した。ブルドックが10日を基準日に新株予約権を発行すると、スティールのブルドックへの出資比率は約10%から3%弱に低下する。

 <スティールは乱用的買収者、高裁の断定に意外感>

 高裁はブルドックに軍配を上げるにあたり、スティールを「乱用的買収者」と断定した。裁判所が買収者を「乱用的」と認定するのは初めて。高裁はスティールについて「顧客利益優先の受託責任を負い、成功報酬の動機付けにも支えられ、それを優先して行動する法人」とみなした上で「(企業の)経営には関心を示したり関与したりすることもなく、さまざまな策をろうして短中期的に対象会社の株式を対象会社自身や第三者に転売することで売却益を獲得しようとし、最終的には対象会社の資産処分まで視野に入れてひたすら自らの利益のみを追求しようとしている存在」と指摘した。

 

 当初から高裁がスティールを支持するとみていた有識者は少なかったが、今回の決定はスティールにとって「予想以上に厳しい内容」(法曹関係者)との見方が多い。6月28日の東京地裁の決定では、ブルドックの新株予約権が株主総会の特別決議を経ていることと、スティールに現金を渡すことで経済的損失をカバーしている点をあげて「株主平等原則に違反しない」と判断したが、スティールが乱用的買収者に該当するかどうか、明確な判断を避けていた。

 スティールの関係者は「想定外の内容。対応を練り直さなければならない」と衝撃を隠さなかった。これまで一般的にも「特定の買収者を乱用的と立証するのは難しい」との見方が多く、TMI総合法律事務所の葉玉匡美弁護士は「裁判所がここまで踏み込んでスティールを乱用的買収者と言ってしまったのは驚きだ」と語るとともに「やはり防衛策を発動するには、乱用的買収者でなければならない、との裁判所の意向も読み取れる。他の企業にとっては、防衛策を発動するのが難しくなるかもしれない」との見方を示した。

 中央大学法科大学院の大杉謙一教授も「驚いた」としたうえで「今回は、買収者の属性をみて、いい人・悪い人という判断をしているようで物議をかもしだすだろう。本来は属性ではなく、行為をみて判断するのが正しい。今後のM&A(企業の合併・買収)の実務で混乱が起きるかもしれない」と述べている。

 <乱用的買収者のレッテル、スティールには打撃か>

 「乱用的買収者」と裁判所に断定されたスティールが、今後の日本の投資活動に打撃を受けるとの見方がM&A関係者の中で広がっている。中央大学の大杉教授は「これから株主総会や増配の提案で、あのグリーンメーラーが、というレッテルを貼られ、ファンドとしての手を相当縛られるだろうと」とみていた。

 大量保有報告書によると、スティールはサッポロホールディングス(2501.T: 株価, ニュース, レポート)、三精輸送機(6357.OS: 株価, ニュース, レポート)、アデランス(8170.T: 株価, ニュース, レポート)、ノーリツ(5943.T: 株価, ニュース, レポート)、江崎グリコ(2206.T: 株価, ニュース, レポート)など30銘柄を保有しており、日本株に総額3000億円以上を投資している。

 これら保有銘柄では、6月末の株主総会での増配要求や買収防衛策の撤回などスティールの要求が「全敗」したことによって株価下落が目立つ。だが、依然としてスティールによる買い増しの期待でプレミアムが付いた銘柄も多い。

 国内証券のアナリストは「乱用的買収者に認定されたのでは、株式の買い増しなど企業にとって好ましくない行動が起こしにくくなる。撤退を含めて出口戦略を意識した行動を取らざるを得ないのではないか」と述べるとともに、大量保有報告でスティールが保有株の一部でも売却していることが明らかになれば「買い増し期待の投資家は売りに回る」(同)ことが予想されることから、一段の株価下落の可能性もあるとみていた。

 また、企業側にとってもスティールが好ましくない行動を取れば、対抗措置を取りやすくなる。スティールは、サッポロHDに買収提案をしており、企業側は事前警告型の買収防衛策のルールに則って防戦を続けているが「乱用的買収者には、取締役会で新株予約権を決議することができると解釈されている」(法曹関係者)ため、独立委員会の決定を経なくても、直ちに防衛策が発動できる状況に変わることになる。企業側がスティールを不利な状況に追い込む可能性が出てきている。

 <乱用的買収者の拡大解釈、海外勢に懸念も>

 一方、高裁がスティールを「乱用的買収者」と判断した根拠が「顧客の利益優先」で「経営に関心を示すことなく」、「ひたすら自らの利益のみを追求しようとしている存在」などとしていることが、スティールだけでなく「一般のファンドでも当てはまる条件ばかり。これではファンドであれば乱用的買収者だというロジックにつながりかねない」と警戒する声も出てきた。

 野村証券の西山賢吾ストラテジストは「世界的にM&Aは株価上昇の要因であり、投資ファンドの全てが乱用的買収者であったり、敵対的買収者であるとはみられていない。しかし、ここで投資ファンドの全てが乱用的買収者だととられかねない判断をすれば、日本株へのインセンティブが損なわれてしまう」として、海外投資家が日本への投資を控えるリスクを指摘している。

 ただ、前述の葉玉弁護士は「一般的にスティール以外も乱用的といわれるかどうかは難しい。裁判所がスティールを乱用者に認定したのは、過去のユシロ化学工業(5013.T: 株価, ニュース, レポート)、ソトー(3571.T: 株価, ニュース, レポート)、明星食品2900.Tなどの例を総合的に判断して決めたとみるのが妥当だ」と述べて、今回の東京高裁の判断で、幅広く投資ファンドが乱用的買収者と認定されるような展開を否定している。

 もっとも「市場がどのように受け取けとめるかについてのリスクは否定できない」(西山ストラテジスト)のは事実で、今回の高裁決定が、投資ファンド排除へのお墨付きを日本の企業に与えたと解釈されるのか、スティールだけが特殊なもので一般化できないと理解されるのか。「前者であれば、日本の資本市場に大きなマイナスになる」(同)とみられ、日本のM&Aの展開を左右する可能性もありそうだ。

 
 

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