COLUMN-〔インサイト〕結論が異なる日米インフレ議論=Mスタンレー フェルドマン氏
米国債の利回りは多少下がってきたが、米国のインフレ議論は相変わらず根強い。一方の日本では、インフレ議論はほとんどないに等しく、むしろデフレ議論の方が多いようだ。これはなぜだろうか。
<共通点が多い日米の問題と対策>
一見、両国にはさまざまな共通点が多く、同じ結論に達するように思われる。例えば米連邦準備理事会(FRB)も日銀も、ゼロ金利政策によって大きくバランスシートを膨らませてきた。マネタリズムが正しいとすれば、両国はインフレになるはずである。また、財政出動も両国の共通点である。確かに米国の歳出規模は大きいが需要喚起という点では日本と同じである。これも共通なインフレ要因である。
もちろんデフレ要因も両国にはある。設備過剰の問題が米国では住宅分野、日本では製造業分野にあり、構造改革が再び減速したこともその要因である。米国の金融監督制度の再編スピードは遅く、縦割り行政の問題が起こっている。
一方、日本の場合、総選挙の議論で「改革」という言葉は禁句になった。両国とも資源の使い方は良くならず、失業者増加などのデフレ要因が続いている。産業政策も動きが鈍い。
さらに米国の場合は自動車産業、日本の場合は半導体などで大きな政府資金が導入された。資本主義プロセスを妨害するのは短期的に仕方がないとしても、両国とも出口戦略が明確ではない。これも共通なデフレ要因と言えよう。
つまりインフレ要因でもデフレ要因でも、日米には多くの共通点がある。ネットでどうなるかは難しいが、これだけ共通点が多い場合、国によってウエートが著しく異ならない限り、同じ結論を導くはずである。
だが、議論の激しさは全く異なる。そのため共通点よりも相違点に注意する必要がある。
<相違点で議論を理解する>
両国間には、インフレに関する経済構造の中で大きな相違点が2つある。1つは経常収支である。1990年代以降、日本は経常黒字で海外資本に頼らない状態を維持している。さらに国債を買う国内投資家が多いため、通貨が安くなりインフレになる機会は少ない。
一方の米国はそうはいかない。外国人投資家に頼る米国では、投資家が減少すると瞬く間にドル安になり、インフレ圧力が上昇する。2つ目はいわゆるホーム・バイアス(自国資産を過剰に好む現象)である。日本の投資家は、かなり高い金利価格でなければ国外の資産を買わない傾向が強い(言語問題などによる情報の非対称性から生まれた現象と思われる)。すなわち、嫌なことがあっても国内から資金の流出は余り多くはない。
しかし、米国で同じ現象が起きれば、資金はすぐに放出してしまうだろう。さらに原油などの商品市況はドル建てのため、自国通貨が対ドルで強くなることで資源インフレを抑制することは難しい傾向にある。
結果として、経常赤字を抱え、資金が流出しやすい環境にあり、また、改革が遅く、資源インフレに弱い米国は、日本よりインフレになりやすいと考えられる。この議論の結論を導き出すことは無理な話ではない。
<理論的背景>
もう1つの日米間の違いを挙げてみる。それは、マネタリストとケインジアンの理論バランスという観点である。日本では、ケインジアン思想が支配的であり、インフレもデフレも需給ギャップ次第という雰囲気が強い。
また、マネーも関連してくるが、それは1つの要因にすぎないと言う考えである。しかし、米国はそうではない。マネーサプライ(定義は色々だが)を強調する人はかなり多く、ベースマネーなどの指標を見ると、すぐインフレを連想する人が多い。
すなわち、日米のインフレ議論の相違点は、知的環境の違いから生じると言っても過言ではない。
<インフレかデフレかは労働市場次第>
今後の展望だが、各国の財政および金融政策によって、景気が底を打ったと思われる。住宅過剰、労働過剰、設備過剰が解消されるまで、インフレになる可能性は低いだろう。それは、日本の今までの経験が参考になる。例えば、第1次石油ショックと第2次石油ショックでは、日本経済への影響度に大きな違いがあった。第1次では、輸入原油価格の上昇がホームメード賃金インフレに変わり、物価全体が大きく上昇した。
しかし、第2次では、さらに激しい原油価格の上昇でも、賃金インフレが少なく大きな物価上昇にならなかった。賃金決定プロセス(すなわち労働市場)の柔軟化が大きく影響したのであった。
現在、両国の労働市場は決して良い状態ではない。マネーサプライが増加しても、原油が上昇しても、賃金が上がらない限り、総合的なインフレになる事は考え難い。柔軟性が高い米国の労働市場の方が日本よりも早く安定化するかもしれない。これこそ、インフレ議論の結論が異なる一番大きな原因であろう。
ロバート フェルドマン モルガンスタンレー証券 経済調査部長
(3日 東京)
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