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コラム:ドラギ総裁の千慮の一失、緩和波及経路の説明を
2016年3月11日 / 09:56 / 2年前

コラム:ドラギ総裁の千慮の一失、緩和波及経路の説明を

 3月11日、欧州中銀(ECB)のドラギ総裁は10日、自ら発した言葉によって、周到に練られてきた追加緩和の果実を失った。写真はフランクフルトのECB本店で撮影(2016年 ロイター/Kai Pfaffenbach)

[東京 11日 ロイター] - 欧州中銀(ECB)のドラギ総裁は10日、自ら発した言葉によって、周到に練られてきた追加緩和の果実を失った。この現象は中銀と市場の対話の難しさを示したといえるが、「超金融緩和」の効果に対し、市場が疑心暗鬼になっている実態を浮き彫りにした。

大切なのは、緩和効果の波及経路をわかりやすく説明することだ。そこが不明確なままでは、ちょっとした情報のギャップで市場にショックが走るだろう。

<多彩な政策パッケージ>

ECBが10日に打ち出した追加緩和策は、市場の予想を上回る「多彩な」政策パッケージとして構成されていた。月間の資産購入額を600億ユーロから800億ユーロに増額。下限金利の中銀預金金利をマイナス0.30%からマイナス0.40%に引き下げるのは予想通りだったが、リファイナンス金利を0.05%から0.00%、上限金利の限界貸出金利も0.30%から0.25%へ予想外に引き下げた。

さらにユーロ圏内の金融機関以外の企業が発行する投資適格級ユーロ建て債券を買い入れ対象に追加。新たに6月から期間4年の条件付き長期資金供給オペ(TLTRO2)を4回実施することも決めた。

ある国内金融機関の関係者は、昨年12月の追加緩和策が「期待を下回って失望され、ユーロ高になって景気刺激効果を持たなかったことを教訓にした可能性が高い」と述べる。

<ユーロ上昇のショック>

ところが、その苦心の政策パッケージの効果が、あろうことか当のドラギ総裁の発言で雲散霧消してしまう。「われわれの措置が、成長やインフレにもたらす支援を勘案すると、一段の金利引き下げが必要になるとは思わない」──。

このメッセージが伝わると、追加緩和発表直後に6週間ぶり安値の1.0823ドルまで下落していたユーロ/ドルEUR=EBSは、一時、3週間ぶり高値の1.1217ドルまで急反発した。ユーロ高は欧州株安へと波及。緩和効果は、両手から水がこぼれ落ちるように姿を消してしまった。

中銀と市場との対話は、中銀から見れば、何とも骨の折れる作業だろう。今回、もしもドラギ総裁が追加緩和に含みを持たせれば、6月緩和への期待感が盛り上がり、6月の会合時に追加緩和を見送れば、大きなショックが発生した可能性がある。

また、ドラギ総裁なマイナス金利に関し「望むだけマイナス幅を拡大できるのか、答えはノーだ」とも会見で述べた。

その発言から透けて見えるのは「マイナス金利の拡大は、これが最後」というドラギ総裁の本音であり、そのスタンスとは整合性の取れた発言といえる。

<市場の緩和依存症>

しかし、マーケットは欧州に限らず「緩和依存症」に陥っており、 金融政策の限界をかぎつけると、リスクオフ心理が高まりやすくなる構造にいつの間にか変質してしまった。

だが、2008年9月のリーマン・ショックから8年目となり、多くの市場関係者が金融緩和の効果について「本当に効くのだろうか」という疑念を持ち出した。

2月26、27日の上海G20(20カ国・地域)財務相・中銀総裁会議で「政策総動員」が指摘され、財政出動が可能な国に行動を求めた背景も、「金融政策一辺倒」の限界を政策当局自身が自覚していた表れだと考える。

こうした心理に覆われている市場では、ちょっとした「刺激」で価格変動が大きくなり、場合によっては株価が世界的に急落するような展開にも発展しかねない。

<重要なわかりやすさ>

ここで求められるのは、中銀が自らの緩和政策の波及経路について、わかりやすく説明することだと考える。ECBの政策発表後、市場の一部からは「この政策は効かない」との指摘が相次いだ。

物価の低落基調に歯止めをかけ、経済を上向かせるために、どの政策がどういう経路で効いてくるのか、ということを専門知識を持っている市場参加者の中で、どの程度が納得しているのか疑問だ。

この金融政策のトランスミッション・メカニズムをわかりやすく説明できれば、市場のインフレ期待を上昇させることにもつながる。

振り返って同じことが、日銀にも言えるのではないだろうか。イールドカーブ全体が下がって、具体的にどのような効果が実体経済に波及するのか。

お茶の間のテレビで「マイナス金利」という文字を見て、自分の預金金利がマイナスになるのか、と思ってしまったお年寄りの人たちにもわかる説明が必要だ。

また、貸出金利の引き下げで、どの分野の資金調達が拡大しそうなのか、それがどの経路でその先の経済活動を刺激するのか、従来の慣例に捉われず、積極的に説明していくことが、マイナス金利への理解を深めるうえで「遠回りなようで近道」であると考える。

そのことが、一部の金融関係者の間でささやかれている「マイナス金利でデフレ的なムードがかえって広がる」という見方に反論することにつながると指摘したい。

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