COLUMN-〔インサイト〕日中EPA、日本の空洞化防ぐ究極対策に=野村資本市場研・関氏

2007年 12月 7日 13:30 JST
 
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日本はアジア各国を中心に、貿易の自由化を軸とする経済連携協定(EPA)の締結に力を入れている。2002年以降、シンガポールをはじめ、マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシア、ブルネイなどASEAN(東南アジア諸国連合)諸国との間で相次いでEPAが結ばれている。日本とASEAN全体との包括的経済連携協定も、11月に福田康夫首相が東アジア首脳会議へ出席するためにシンガポールに訪問した時期に合わせて妥結された。他にも、韓国やインド、ベトナムとの交渉が始まっている。

 <交渉日程も具体化しない日中EPA>

 しかし不思議なことに、経済発展が目覚しく米国に代わって日本の最大の貿易相手国となった中国との交渉だけは、日程にすら上っていない。その背景には様々な政治的配慮があるのだろうが、経済の観点からすれば、他の国と組むよりも中国と組んだほうが日本にとって最もメリットが大きいことは明らかである。

 実際、内閣府の推計によると、中国とFTA(自由貿易協定)を結ぶ場合、結ばない場合と比べて、日本のGDPは0.5%伸びることが予想され、これは日米FTAによる効果の2倍に当たるという。

 <高付加価値と労働集約、すみ分け可能な日中の産業構造>

 日中EPAを考える上で最も重要な前提は、両国の間では貿易が急速に拡大していることに加えて、日中の経済関係が補完関係にあることである。

 つまり日本にとって弱みとなっている分野では中国が強みを持ち、反対に中国の弱みとなる分野では日本が強みを持っている。

 現時点での完成品貿易において、日本は付加価値の高いハイテク製品を輸出し、中国は労働集約的なローテク製品を輸出するというすみ分けができている。

 また、同じ製品の工程を各地で分担し合う工程間分業においても、日本は研究開発やキーパーツの生産といった技術集約型工程に、中国は組み立てといった労働集約型の工程にそれぞれ特化している。

 <ハイテク製品の対中輸出、現地生産よりも効率的>

 

 ここで注意しなければならないことは、日中間の補完関係をビジネスチャンスとして活かすためには、必ずしも中国での現地生産にこだわる必要がないことである。中国は賃金水準が日本よりはるかに低いからといって、すべての物が日本より安く生産できるわけではない。

 特にハイテク産業に関しては、むしろ日本で生産した方がコストの面で有利である。比較優位に沿った形の分業が望まれるが、現段階では中国が労働集約型製品、日本がハイテク製品にそれぞれ特化することになる。

 そもそも貿易と直接投資は代替関係にあり、中国の市場にアクセスするためには「現地生産、現地販売」だけでなく、「日本で生産し、中国に輸出する」という方法もある。実際、あれだけ騒がれた中国脅威論が急速にけん引論に変わったのは、現地生産を行っている企業の業績が大幅に改善したからというよりも、日本の中国向け輸出が伸びているからである。

 <自動車・ハイテク製品の対中輸出阻む貿易障壁>

 

 しかし、現在は関税やその他の貿易障壁によって補完関係を活かした分業体制が日中間で確立されているとは言い難い。例えば自動車の場合、日本で生産したほうがコストも安く、品質も良いにもかかわらず、貿易障壁が存在するために「日本で生産し、中国向けに輸出する」ことが困難となり「中国での現地生産、現地販売」に切り替えざるを得ないのである。

 しかし、年間100万台の自動車を日本で生産して中国に輸出できれば、日本の得意分野において国内で多くの雇用機会、しかも賃金の高い「グッド・ジョブ」が創出されることになる。

 これに対して、同じ100万台の自動車の生産を中国に移転してしまえば、仮に一部の部品の生産が日本に残っても、その雇用創出効果ははるかに小さく、その機会費用は非常に大きい。それはまさに日本産業の空洞化を意味する。

 <両国の優位性が利用できる日中EPA>

 

 残念ながら、日本における空洞化をめぐる議論では、このような観点が全く欠けている。すなわち日本がもはや比較優位を持たない産業の古い工場を畳んで中国に持っていくと、従業員が解雇されるため、深刻な空洞化問題として騒がれる。

 これに対して自動車などの日本がまだ比較優位を持っている分野の企業が、中国に進出して工場を建てると、逆に市場開拓の努力として評価され、反対する声は皆無なのである。この直接投資に対する誤った認識は、輸入制限などによる衰退産業の保護につながる一方、産業の高度化を遅らせているのである。

 

 日本は空洞化なき高度化を目指すべく、衰退産業を海外へ移転しながら、自分の得意分野をさらに強化すべきである。そのために、自由な貿易環境が是非とも必要だが、対中関係に限って言うと、両国の間にEPAができれば、関税に妨げられることなくお互いの優位性を利用する基盤が築かれることになる。

 日本で生産しても、自由に中国向けに輸出できるようになれば、自動車をはじめとする日本の基幹産業は、わざわざリスクを負って中国に進出する必要がなくなる。このように日本にとって、中国とのEPAは究極の空洞化対策である。

 関 志雄 野村資本市場研究所 シニアフェロー

(7日 東京)

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