COLUMN-〔インサイト〕消費ブーム終えんした南ア経済=ジェトロ 岡田氏

2008年 09月 24日 13:24 JST
 
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 南アフリカ経済が転換期を迎えている。2008年第1四半期のGDP(国内総生産)成長率は4.9%(季節調整済み・年率換算)と一見好調に見える。しかし、2004年から毎年、約5%のGDP成長率を達成してきた南アフリカに陰りがみえてきた。今年に入って明白になってきた個人消費の急激な減速がウイークポイントになっているためだ。

 <黒人中間層の出現>

 2004年からの消費ブームは、4800万人の人口の8割を占め、アパルトヘイト(人種隔離政策)時代にはほとんど消費者としてみなされなかった黒人が新たな消費者として登場したことによる。1994年に初めて全人種が参加した南アフリカ初の民主選挙で政権についたアフリカ民族会議(ANC)政権は、公的部門をはじめとして徐々に黒人の雇用数を増加させ、金融や鉱業などの営業・操業免許交付や政府調達に際し黒人登用を条件付けたため、企業においても経営陣に黒人が迎えられ、管理職クラスでの黒人の採用も進められた。

 <消費ブームが経済をけん引>

 中国やインドなどの新興国の出現、米国経済の回復などにより、21世紀に入り資源需要が増加。雇用拡大により購買力を付けた黒人の増加とともに、この資源ブームが南アフリカの黒人の消費拡大につながった。南アフリカは、金、プラチナ、ダイヤモンド、クロム、石炭などの世界有数の資源国である。南アフリカには大量の外国資本が流入する。南アフリカ通貨ランドZAR=は、2002年1月には1ドル=12ランドまで下落していたが、同年の後半からランド高に転じ、2004年12月には5.7ランドまでランド高が進んだ。

 ランド高と輸入規制の緩和によって安価な中国製品などが流入したため、輸入品価格や国際価格と連動する農産物価格が低下し、インフレ率が低下した。インフレ率低下により中央銀行は利下げに踏み切る。2002年9月に13.5%であった公定歩合に相当するレポ・レートは、2003年6月から相次いで引き下げられ、2005年4月には7.0%まで低下した。

 南アフリカの人口の約6割が30歳未満である。世帯構成員数の減少による世帯数の増加など耐久消費財に対する潜在的な需要が高かったところに金利が低下したため、耐久消費財を中心として個人消費が急速に拡大した。2003年に36万台であった国内新車販売台数は年々増加し、2006年には64万台に達した。

 住宅需要も増加し、2004年第4四半期には住宅価格は前年比34%上昇を記録した。新たな中間層として出現した黒人はブラック・ダイヤモンドと名付けられ、小売企業や金融は、黒人をターゲットにビジネスを拡大していく。それまでは見向きもされなかった旧黒人居住区にショッピング・センターが建設され、建設業や小売業、金融機関などで黒人の雇用がさら増加し、一層、個人消費が拡大していった。

 <借り入れに依存した消費ブーム>

 個人消費が拡大する一方で、国内貯蓄率は低下を続けている。1990年代後半にはGDP比1%だった個人貯蓄率は06年、07年にはマイナスとなった。住宅ローンやクレジットカードなど銀行の家計への与信額は、経済成長率を上回って増加し、2004年の7390億ランドから1兆2330億ランドへと増加した。

 原油価格と食糧品価格上昇により金融政策の指標である消費者物価指数は上昇に転じたため、中央銀行は06年後半から相次いで利上げを実施し、現在のレポ・レートは12%となっている。

 利上げにより耐久消費財支出は急激に減速し、今年に入ってマイナスを記録。家計消費全体でも第2四半期は前年同期比プラス1.2%にとどまり、雇用拡大の中心だった卸・小売業も2001年第3四半期以来、初めてマイナスを記録している。借り入れによる個人消費の拡大、消費拡大によるサービス業での雇用の拡大、海外資本の流入に依存した経済成長が長く続くはずがなく、貯蓄率が低下した現状では金利が低下したとしても、消費ブームによる経済成長の再来の可能性は低い。

 <インフラ整備が経済成長のカギに>

 世界的に資源開発が進められる一方で、南アフリカ国内での鉱山開発はあまり進められてこなかった。アパルトヘイト時代の負の遺産である土地問題や鉱業関連法改正の遅れ、金やダイヤモンドなどの資源の枯渇、鉄道や港湾など輸送インフラの不足などから、南アフリカ企業は国内よりもアフリカや豪州などの他の資源国への投資を拡大してきた。

 政府は2005年からインフラ整備を本格化させているが、急速な経済の伸びにインフラ整備が追いつかず、かつては大幅な余剰を抱えていた電力でも2008年1月には大規模な停電が相次ぎ、鉱山や工場などは操業停止に追い込まれた。電力公社エスコムは3430億ランドの設備投資計画を進めているが、電力事情が改善するのは大規模石炭火力発電所が稼動を始める2013年以降になる。電力事情悪化に伴い2月には政府は電力多消費型の投資プロジェクトの認可を一時的に凍結する方針を打ち出している。

 南アフリカでは2010年のサッカー・ワールドカップの開催を控えスタジアムやホテルの建設や空港の改修などが急ピッチで進められている。消費に代わって今後はインフラ投資が経済をけん引すると見られているが、国内貯蓄率が低いため、資金は国外から調達せざるを得ない。鉄道や港湾整備を進める運輸公社や電力公社の財務状況は堅調であり、政府財政も黒字のため調達は困難ではないとされているが、大規模なインフラ投資による貿易赤字の拡大や世界経済減速による資金流入の減少、さらに消費低迷による付加価値税収入の減少など懸念材料も多い。自動車産業をはじめとした製造業も主要市場である欧米、日本経済が減速する中、大幅な輸出の増加は見込めない状況である。

 <中長期的には高い成長可能性>

 ここ2、3年の南アフリカ経済の成長率は3%台の伸びにとどまると見られているが、長期的には発展の可能性は高い。中国経済減速により石油をはじめとする資源価格は下落し始めているものの、中長期的に見れば世界の資源需要は拡大するとみられている。世界の埋蔵量の80%を占めるプラチナなど南アフリカの資源への需要も拡大するであろう。

 国内には依然として経済に組み込まれていない潜在的な消費者も多い。経済規模は世界経済の0.5%に過ぎないが、南アフリカは既に世界経済に組み込まれている。欧米日の主要自動車メーカーは南アフリカに生産拠点を持ち、先進国市場に自動車が輸出されている。周辺国にも豊富な資源があり、近年のアフリカ諸国はかつてないほどの経済成長を達成している。整備された金融市場は不足しているものの、他のアフリカ諸国とは比べられないほどのインフラをもつ南アフリカは、これらの国へのゲートウェイとなっている。2010年ワールドカップを成功させ、インフラ整備を進め、次の世界経済の拡大局面を捉えられれば、消費ブームにとどまらない経済成長が達成できるであろう。

 *1ランドは約13円

 日本貿易振興機構(ジェトロ) アジア経済研究所研究企画部 専任調査役 岡田茂樹

 

 (24日 東京)

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略歴 岡田茂樹(おかだ しげき) 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所研究企画部・専任調査役。1990年3月に金沢大法学部卒業、同年4月にジェトロ入会。1997年─2001年にジェトロ・ヨハネスブルク・センター。2004年─2008年にジェトロ・ヨハネスブルク・センター次長。2008年4月から現職。

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