COLUMN-〔インサイト〕世界金融危機発生後のブラジル=ジェトロ 近田氏

2008年 12月 3日 13:30 JST
 
記事を印刷する |

 <金融危機でトレンドが変化したマーケット>

 ブラジルの株式市場(ボベスパ指数).BVSPは、2003年後半からほぼ右肩上がりに上昇し続けてきたが、08年5月19日に史上最高値の7万3439ポイントを記録した後は急激に下げる展開となり、10月27日には05年9月以来の3万ポイント割れとなる2万9435ポイント(史上最高値比マイナス60%)まで下落した。

 その後、株価は11月末に3万6595ポイントまで値を戻したが、投機的資金の多くが国内市場から逃避したにもかかわらず、世界金融危機の底やブラジルを含む各国の実体経済への影響が見極め難いこともあり、今後も米国などの主要株式市場の動向に連動して推移する状況が続くものと予測される。

 ブラジル通貨・レアルBRBYの対ドル為替市場に関しては、02年に大統領選挙での政治不安の高まりから1ドル=3.9552レアル(売値)までドルが高騰したが、その後、04年半ばから断続的なドル安/レアル高の展開となり、08年8月1日には1.5585レアル(買値)までレアル高が進行した。

 だが、世界金融危機の深刻化とともに相場は急激なドル高/レアル安へと転じ、11月21日には05年8月以来のレベルとなる2.4277レアル(売値)までドルが買い進められた。中央銀行の為替介入に加え、米政府の公的資金を活用した救済策決定や、ブラジル政府が減税を柱とする新たな金融危機対策を検討中と発表したことなどもあり、11月後半はレアルが値を戻す場面も見られた。

 しかし、月末は2.3331レアル(売値)とドルが上昇して終了し、年末に向けた資金需要の高まりとともにドルの流動性確保の動きが強まる可能性もあるため、今後しばらくはドル強含みの不安定な展開が考えられよう。

 物価(IPCA)については、07年の上昇率が4.46%と落ち着いていたが、08年に顕著化した世界的な食料価格の高騰により、10月までの年初累計値は5.23%(前年同期3.30%)に達した。中央銀行は、インフレ懸念の高まりに対処すべく政策金利(Selic)を13.75%まで4回連続で引き上げていたが、世界金融市場の混乱を受け、10月29日には同金利の据え置きを満場一致で決定した。

 食料価格の上昇は収まったものの、最近では世界金融危機によるドル高/レアル安進行などの物価上昇要因が存在する一方、実体経済の悪化懸念から金利の引き上げは困難になっている。このような状況下で中央銀行は、政府のインフレ目標(上限6%)達成という課題にも直面しており、12月10日に行われる次回の政策金利決定で難しい判断を迫られている。

 <顕在化し始めた実体経済への影響>

 近年増加傾向が続いていた貿易額も、最近、世界経済の景気後退が明確になるにつれ、取引額が減少し始めている。ブラジルの輸出額は02年以降、輸入額はドル高/レアル安傾向が始まった04年以降、資源や穀物などの国際価格の上昇もあり、それぞれ過去最高額を更新しながら断続的に増加してきた。

 しかし、世界の金融市場の混乱から実体経済の悪化へと状況が変化するとともに、商品市場の国際価格も下落していることから、11月は前月比で輸入額がマイナス20.3%の147.53億ドル、輸入額がマイナス24.1%の131.40億ドルと大きく減少した(速報値)。

 今回の世界金融危機がブラジル経済に及ぼす影響について、民間の研究機関であるFGV(ヴァルガス財団)が発表した調査によると、08年7月に85.8%まで上昇した工業全般の設備稼働率(1995年4月の調査開始以来の最高値)が、世界金融危機の影響により10月には85.1%と0.7%低下している。08年前半は過熱する国内および海外の需要に応え得るかどうかが懸念されていたが、状況は急激に変化することとなり、11月には鉄鋼大手のヴァーレVALE.SARIO.Nや自動車メーカーをはじめとする主要企業が、減産や生産調整のための休暇を発表している。

 設備稼働率の低下は1次産品を加工する中間財産業がマイナス2.1%(7月87.5%から10月月85.4%%)と最も顕著であり、このことはブラジル国内よりも海外の景気後退が先行していたことを表しているが、今後、輸出の減少をはじめ国内経済にマイナスの影響が出てくるのは必至である。

 したがって専門家の間では、予想よりも早くブラジルでも景気が後退し、08年第4四半期のGDP(国内総生産)は前期比ではほぼゼロか若干のマイナス成長になるであろうとする見方が強まっている。

 <長期的な方向性と不透明感が増す短期的な影響>

 政治的な動向としては、4年に1度実施される全国の市長と市議会議員の選挙が10月に行われ、連立与党陣営の各政党が概ね多くの当選者を出したことから、ルラ現政権の支持基盤がより強固になったといえる。また、社会的な状況としては、国民間の不平等や社会指標の継続的な改善傾向が挙げられる。これは2つの長期政権間で継続性ある社会政策が実施されてきたことが1つの大きな要因であり、最近の国内消費市場の拡大をもたらした。

 

 近年、ブラジルは大局的な方向性として経済的なグローバル化への順応と自律性を模索してきたことから、短期的には今回の世界金融危機のような外的要因に左右される事態は避けがたい。しかし、政治的な民主主義の定着や社会指標の改善が実現し、資源大国であることに加え産業構造も多様化していることから、長期的な視点で捉えた場合には、安定した成長が期待できるといえよう。すでに政府は2009年の経済成長率の4%確保を目的とした総額452.5億レアルに上る一連の総合景気対策を発表しており、金融システムの強化を目指した大手金融機関の再編も進んでいる。

 ただ、11月に入り、ブラジルは米国発の世界金融危機という『人災』だけでなく、ルラ大統領が「ブラジル史上最悪の水害」と述べた大雨による天災にも見舞われ、人的および経済的に甚大な損害を被ることとなった。したがって現在のブラジルは、短期的には災難のダブル・パンチを受けた状態であり、長期的な方向性を取り戻す見通しが立て難い状況にあるといえよう。

 日本貿易振興機構(ジェトロ) アジア経済研究所地域研究センター ラテンアメリカ研究グループ 副主任研究員 近田亮平

 

 (3日 東京)

 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

<略歴> 近田亮平(こんた りょうへい)日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所地域研究センター ラテンアメリカ研究グループ 副主任研究員 1996年、東京外国語大学外国語学部卒業。同年、東京三菱銀行入行。2001年、ジェトロ・アジア経済研究所入所。02年、東京外国語大学大学院博士前期課程修了。05年‐07年、ブラジル海外派遣員。IPEA(応用経済研究所)客員研究員。07年4月から現職。

 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

 このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターの第三者コンテンツ・プロバイダーによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターは第三者からコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、第三者コンテンツ・プロバイダーによって提供されたいかなる見解又は意見は当該第三者コンテンツ・プロバイダー自身の見解や分析であって、ロイターは、それらを是認せず、またはそれらの正確性についても保証しません。

 

「ロイターコラム・インサイト」はロイターニュースサイトでもご覧になれます。

 here

 3000Xtra、 Kobraをご利用のお客様は、上記URLをクリックしてください。ロイター・ターミナルをご利用のお客様はブラウザーにURLをコピーしてください。

 
写真
経済の成長戦略を示せるかが鍵

タンタロン・リサーチ・ジャパンCEOのイェスパー・コール氏は自民・民主両党とも経済の成長シナリオを描ききれておらず、海外の投資家が日本買いに向かいづらい一因となっている、と指摘した。  ビデオ 

 

編集長のおすすめ

  • ニュース
  • 写真
  • ビデオ
  • 日本日本
  • アジア
  • 米国米国
  • 欧州
  • 東証1部 値上り率

株価検索

会社名銘柄コード
 
写真

サンフランシスコ地区連銀のイエレン総裁は、今後2年間はFF金利がゼロ近辺にとどまる可能性があると指摘した。  ブログ