COLUMN-〔インサイト〕ディスインフレ環境で迷走する金価格、方向性は米政策判断待ち=Mストラテジィ 亀井氏
為替相場を中心に国際金融の流れの変化を価格に反映することの多い金市場。とりわけ米国の金融政策の方向性をとらえた値動きを見せることが多いといえる。
過去5年ほどのドル建て金価格(以下、金価格)のチャートを見ると、07年9月を境に上げ足を速めているのがわかる。この年の春から急浮上したサブプライムローン問題と、その後の金融不安(信用収縮)や景気悪化懸念に対応するためFRBが利下げへと大きく舵を切ったのが07年9月18日のFOMC(連邦公開市場委員会)だった。先行して主要通貨に対して売られていたドルはここを境に下げ足を速めた。逆に金は上昇ピッチを上げ、08年3月には初めて1000ドル大台乗せとなった。
その後も08年12月16日のFOMC(0.00─0.25%の0%を含むターゲット金利の導入)や09年3月18日のFOMC(長期国債、住宅ローン担保証券など総額1兆7500億ドルの買い入れ決定)など、象徴的な政策変更に金価格は敏感に反応してきた。直近では今年の年始から春先に議論が高まった「異例の低金利」の是正すなわち「出口戦略」の行方が金市場(市場参加者)の大きな関心事だった。結局この間、金価格は頭の重い展開を余儀なくされた。FRBによる住宅ローン担保証券の買い取りが予定通り3月をもって終了したことも金市場に影を投げかけた。
4月27、28日のFOMCで出口戦略の方向性を探る議論がなされたにもかかわらず反応しなかったのは、ユーロ圏で金融システムに対する緊張が高まったことによる。その後5月に入ってからの「ユーロ危機」に際しては、欧州中銀(ECB)が混乱の様相を深めたギリシャなど域内の債券市場への買い介入を開始したことが金価格を刺激した。中央銀行がその意に反し国債の買い取りに進まざるを得ない異常な環境が、管理通貨制度への不安とともに信用リスクのない金への関心を高めた。この時のユーロ資産からの資金移動が直近の金価格の過去最高値更新につながった。この辺りは前回6月18日付の当欄で取り上げた。
<欧米の財政金融政策が踊り場、金価格も調整局面に>
ここまで時系列で米国を中心とした金融の流れと金価格の動向を取り上げたのは、この1カ月あまり金価格が迷走状態にあり、それは欧米を中心に財政金融政策が踊り場に差し掛かり、判断の難しい局面を迎えているまさにその状況を映していると思われるからだ。
足元の金価格は調整局面にある。6月21日NY時間外取引で記録した1266.50ドルが過去最高値となり、その後1カ月間にわたりおおむね1170─1220ドルのレンジ相場を形成してきた。7月27日のNY市場ではレンジの下値を割ったことから手仕舞い売りが加速、4月26日以来となる1150ドル台まで売られ、3カ月ぶりの安値水準をつけている。
直近の市場の最大の関心事は、欧州の金融機関91行に対する資産査定いわゆるストレステストだった。結果は7行が資本不足と認定され資本増強の対応策が取られることとなった。失業率など経済環境の設定が緩く、デフォルト(債務不履行)の想定は問題外として排除するなど負荷するストレス(悪条件)の「甘さ」が細部で見られたのは事実である。JPモルガン・チェースが独自基準に基づいた査定結果で54行を不合格としていたが、そちらの方が現実味のある結果と思えるのは否めない。
リーマンショック後の国際金融危機が急性疾患によるショック状態だとすると、ユーロ圏の危機は慢性疾患といえ、回復にかなりの時間を要すると見られる。この慢性疾患に対し6月のG20(主要20カ国・地域首脳会議)で「13年までに赤字を半減」などと短期目標を掲げたことがミスマッチといえ、折に触れ問題が表面化しその都度市場を揺るがすと思われる。結局は、「金」に対する投資家の関心をつなぎとめることになろう。ただ足元は、目先の投資家心理を落ち着かせ市場の安定確保を第一義としたストレステストの目的は達せられ、市場はアク抜けした状況といえよう。それが金市場では、NYコメックスにおけるファンドの手仕舞い増加につながっている。今回の調整局面における下げは、もっぱら先物市場での建て玉整理(ポジション調整)によりもたらされており、建て玉の規模を示す「取組」の減少が続いている。
<FRBが刺激策再開なら金は1300ドル突破も>
欧州での目先のイベントを抜け、金市場の関心は米国に戻りつつある。ここで冒頭の米金融政策の方向性に話が戻るのだが、米国景気の回復は踊り場に差し掛かっている。バーナンキFRB議長は上下両院の議会証言で米国景気の緩やかな回復は続くとしながらも、一方で「異例に不確か(unusually uncertain)」との表現で警戒感を示した。証言では、今年の3月までに買い取った資産の売却方法に触れる一方で必要あらば買い取りの再開にも言及するなど、まさに全方位を睨み選択肢の広さを訴えたようにも受け止められた。
いままさに世界景気は岐路に立っているとされる。09年9月にピッツバーグで開かれたG20首脳会議では「持続可能で均衡ある成長」のために「景気刺激策を継続」、「景気回復が確保された時点で実施する出口戦略の作成を継続」など、世界全体でスクラムを組んで財政赤字拡大には目をつむり刺激策にまい進することが合意された。それが、ギリシャ財政問題の広がりのなかで市場から財政赤字の拡大にイエローカードが提示されるに至り、欧州から方向転換が始まった。ジャンボ・ジェットに例えるならば4基あるエンジンのうちEU(欧州連合)というエンジンが出力を急速に絞ろうとしている。日米という2つのエンジンも出力の維持について見直しを迫られる状況の折に、である。頼みの綱となっている中国、インドなど新興国エンジンの方はむしろ過熱が心配され、その面での出力低下が模索されている状態となっている。この局面で乱気流に遭遇すると、かなりの揺れが予想される状況といえるだろう。シートベルトを外せる高度に達する前にエンジンの調子に懸念が出てきてしまったわけだ。
米国では11月の議会選挙を控えオバマ民主党の支持率も落ちている。さらなる財政出動は赤字拡大に対する市場の反応を考えると取りにくい。そのなかで景気回復の変調が続くと、株価の急落などを通じて市場が刺激策の実施を要求することになりそうだ。結局、残るはFRBによる施策ということになると見る。つまり非伝統的な経済政策(資産買い取り)の再開に向かわざるを得ないのではないか。足元では米国の物価上昇力が弱まりデフレの色彩が高まりつつある。バーナンキ議長、新任のイエレン副議長とも、デフレ入りの阻止には全力を上げるとみられ、政策効果に対する様々な議論が高まるなかで、金融を通した刺激策の再開に向かうと見る。おそらく次回8月10日、さらに9月21日とFOMCに向けた政策判断材料となる住宅関連や雇用などのデータに対する市場の反応はこれまで以上に増幅されたものとなりそうだ。緩和策の拡大が取られる際に、金価格は新高値更新から1300ドル突破ということになると見られる。目先の金価格の下値は、過去10年の価格展開の中でサポート線として信頼度の高い200日移動平均線がメドとなると見られる。現在は1148ドル近辺に位置している。
亀井幸一郎 マーケット ストラテジィ インスティチュート代表 金属・貴金属アナリスト
(28日 東京)
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