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コラム:貿易やアジア外交、トランプ大統領を待ち受ける危険
2016年11月15日 / 06:41 / 10ヶ月前

コラム:貿易やアジア外交、トランプ大統領を待ち受ける危険

 11月11日、 「米国の国益を最優先とするが、誰に対しても公正に振る舞う」とオバマ米大統領に約束したドナルド・トランプ次期大統領(写真)だったが、同盟国の多くは、彼の勝利が米国の政策にとってどのような意味を持つのか神経を尖らせている。5月にニューヨークのトランプタワーで撮影(2016年 ロイター/Lucas Jackson)

[11日 ロイター] - オバマ米大統領はホワイトハウスの執務室で10日、2日前の大統領選で想定外の逆転劇を演じた共和党候補ドナルド・トランプ氏と会談した。

トランプ次期大統領は「米国の国益を最優先とするが、誰に対しても公正に振る舞う」とすぐさま約束したが、同盟国の多くは、彼の勝利が米国の政策にとってどのような意味を持つのか神経を尖らせている。

つまりこれは、トランプ氏はこれから彼らに安心感を与えるための本格的な作戦を開始し、潜在的な危険に満ちた世界における多数の課題に備えなければならないということを意味する。

トランプ氏は情報機関からの拡大ブリーフィングを受け始めているが、その内容は盛りだくさんだ。

中東では、モスル(イラク)とラッカ(シリア)において過激派組織「イスラム国」に対する重要な攻撃が行われている。アジアでは、韓国の朴槿恵大統領が辞任を求める圧力に直面する一方で、核開発をめぐる北朝鮮との対立が強まっており、政治的緊張が高まっている。欧州大陸では、英離脱(ブレグジット)後の欧州連合(EU)の将来をめぐる懸念に加えて、移民危機が続いている。

同盟国にとって不安要因となっている重要分野の1つが、トランプ氏の貿易政策である。

トランプ氏は選挙期間中、北米自由貿易協定(NAFTA)や賛否の分かれる環太平洋連携協定(TPP)のような貿易協定に反対していた。これらの協定に対してトランプ氏が具体的にどのような態度を示すかはまだ分からない。

特にトランプ氏が判断しなければならないのは、オバマ大統領が来年1月に任期切れを迎える前に、議論を呼んでいるTPPの議会承認を得ようと最後の努力を傾けようと決意した場合、どの程度強く反発するかという点だ。

TPPはもはや議会に提出されても廃案同然の状態だが、北米・南米とアジア太平洋諸国の11カ国(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド、マレーシア、メキシコなど)との、世界の国内総生産(GDP)の約40%に相当する大規模な貿易協定である。

これはトランプ氏にとって、就任早々の大きな課題となるだろう。というのも、共和党議員の多くは、台頭する中国に対抗してアジア太平洋地域で米国の影響力を確立するためにTPP成立を求めているからだ。TPPが崩壊すれば、この地域での米国のリーダーシップに対する疑念が高まり、他の重要課題において、一部の同盟国に対するトランプ政権の交渉力が損なわれる可能性がある。

トランプ氏を待ち受ける難題はこれだけではない。実際、いくつかの手掛りから、地政学的なリスクが冷戦終結後で最も高い水準にあることが示されている。

外交分野において上記以外の危険な「断層」としては、南シナ海において領有権の主張を強めている中国との対立、アフガニスタンとリビアで続く不安定な状況、イスラエル・パレスチナ和平プロセスの暗い展望などがある。一方、ウクライナで続く対立により、米国とロシアの関係は、ソ連崩壊後、恐らく最も険悪な状態にある。

トランプ政権下での米ロ関係については、国際的に多くの方面から特別な関心を注がれることになろう。プーチン氏とは言葉のうえでは円満な関係にある一方で、トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)について「時代遅れ」と批判してきた。

いまトランプ氏がこれほど危険に満ちた世界を前にしているということは、冷戦後の世界の先行きについての楽観的希望がどれだけ強く否定されているかを浮き彫りにしている。

自由主義・資本主義・民主主義を奉じる諸国が平和に満足して共存する世界秩序というビジョンは消え、ロシアのような独裁国家が世界という舞台における新興勢力として多くの人の目に映っているという現実がある。「9・11」米同時多発攻撃から15年が経過しても国際テロは依然として懸念要因であるし、北朝鮮のような不安定な国が核兵器を手にしている。

トランプ氏は、こうした不安要素は、約8年間にわたって米国政府のリーダーシップが弱かった結果だとしてオバマ大統領や民主党の大統領候補ヒラリー・クリントン氏を批判する陣営の一員である。だが、これはあまりにも単純な見方だ。

言うまでもなく、米国は依然として世界で最も強大な国だ。軍事的な意味では、もちろんそうだ。今も圧倒的な戦力を投入、展開することができる。だが、選挙運動中に行った発言の一部に反し、トランプ氏には認識を持ってもらいたいものだが、米政府は、国際関係の分野の専門用語を使うならば、圧倒的に強力な覇権国家では「ない」のである。

また、トランプ氏やその他、クリントン氏やオバマ大統領を批判する素朴な人々が往々にして見落としている点は、2016年は政治的リスクが高い年かもしれないが、その一方で、現在の国際情勢には、注意深い国際的リーダーシップを通じて安定性を高めていく機会も内包されているのだ。

その一例が、イランと世界の6大国(米国、中国、ロシア、英国、フランス、ドイツ)とのあいだの核開発合意である。トランプ氏は選挙期間中にこれを批判していたが、理屈のうえでは、この合意はイラン政府と西側諸国とのあいだの関係改善につながる道を開くものであり、グローバルな核安全保障を高める可能性もあるのだ。

だが、トランプ氏も、米議会で優位にある共和党議員の多くも、この合意を支持していない。トランプ氏は、自分なら再交渉すると言っているが、一方で合意のあらゆる側面に反対だとも述べている。おまけにイランを「国際テロの最大の支援者」とまで呼んでいるのだ。

一方、購買力平価ベースですでに米国を抜いて世界最大の経済大国となっている中国の台頭は、近年の国際情勢における最大の変化の1つとなっている。この展開は、トランプ新大統領が率いる米政府との緊張激化の原因にもなりうるし、逆に実り豊かな関係へと発展していく可能性もある。

トランプ政権のもとで、南シナ海での領有権主張などハードな勢力争いを解決する方策を探っていく一方で、気候変動対策などソフトなテーマにおいて協力していけば、米中の2国関係を発展させることは可能だ。逆に、中国が軍事力をますます急速に拡大し、アジアの隣国に対する高飛車な外交姿勢を強めていけば、米中対立の深刻化もありうる。

複雑な国際情勢の収拾に米政府がうまく貢献していくためには、今後ますます、競合国と同盟国双方を含む、他国との協力が重要になっていくだろう。つまり、トランプ氏が当選後に語った「素晴らしい関係を築き」、世界の主要国とのあいだの「パートナーシップ」を求めるという誓約を本当に守れるかどうかがカギになるだろう。

*筆者はロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の IDEAS(国際問題・戦略・外交センター)の準会員。英国政府の特別顧問を務めた経歴がある。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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