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特別リポート:薬剤耐性菌の「培養皿」と化すインドの湖
2016年10月5日 / 01:57 / 1年前

特別リポート:薬剤耐性菌の「培養皿」と化すインドの湖

 9月29日、インド南東部テランガナ州のメダック県は、抗生物質生産の中心地だが、300社以上もの製薬会社の存在と、監督当局の怠慢、不適切な排水処理が重なったことで、湖と河川は抗生物質に汚染され、薬剤耐性菌の巨大な「培養皿」になってしまったと指摘されている。写真は薬剤耐性菌の一種、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の培養皿。独ベルリンの研究室で2008年撮影(2016年 ロイター/Fabrizio Bensch)

[ハイデラバード(インド) 29日 ロイター] - 何世紀も前、インドの王子たちはメダック県の水清きKazhipally湖で沐浴をしたものだ。しかし今日、酷暑のインド南部で暮らす最も貧しい村人でさえ、荒れ果てた湖岸と泡立つ水を指さし、「あのあたりには近づかないようにしている」と言う。

ハイテク産業の拠点ハイデラバードから車ですぐの距離にある南東部テランガナ州メダック県は、インドの抗生物質生産の中心地である。人口約250万人のメダック県は、低価格医薬品において、米国を含めた大半の世界市場をターゲットとする世界最大級の供給場所だ。

──関連記事:特別リポート:米国で広がる隠れた死因、「薬剤耐性菌」の脅威

だが地域の活動家や研究者、一部の製薬会社職員は、300社以上もの製薬会社の存在と、監督当局の怠慢、不適切な排水処理が重なったことで、湖と河川は抗生物質に汚染され、薬剤耐性菌の巨大な「培養皿」になってしまったと指摘する。

活動家のキシャン・ラオ氏は、「薬剤耐性を備えたバクテリアがここで育ち、世界中に影響を及ぼすかもしれない」と警鐘を鳴らす。彼は、多くの製薬会社が拠点を構えるメダック県内の工業地域パタンチェルーで、医師として20年以上にわたって働いている。

メダック県には、インドの製薬大手ドクターレディーズ・ラボラトリーズ(REDY.NS)、オーロビンド・ファーマ(ARBN.NS)、ヘテロ・ドラッグスや、米後発医薬品大手マイラン(MYL.O)などが進出しているが、いずれも、現地の環境規則を遵守しており、廃液を水路に流すことはないと話している。

この問題の大きさについて、インド政府と州政府の見解は異なっている。

インド政府の中央汚染管理委員会(PCB)がメダック県パタンチェルー地域を「深刻な汚染」に分類する一方、州政府のPCBは自身のモニタリングによれば、状況は改善されていると述べている。

最後の手段とされていた抗生物質でさえ効果がない感染症が昨年、出現したことにより、薬が効かない「薬剤耐性菌」の増大は、現代医学にとってますます大きな脅威となっている。

米国だけでも、抗生物質への耐性を備えたバクテリアを原因とする深刻な感染症は年間で200万件、死亡数は2万3000件に達している、と医療当局者は推計する。

主要製薬会社13社は先週、台頭する薬剤耐性菌に向けた対策の一環として、抗生物質を製造する施設からの汚染を浄化すると約束。国連加盟国も、薬剤耐性菌の脅威に対する取り組みを初めて公約した。

<稼ぎ頭の製薬産業>

パタンチェルー地域は、テランガナ州における主要な製薬拠点の1つだ。商務省のデータによれば、州内総生産の約30%を製薬産業が占めている。州都ハイデラバードからの医薬品の輸出額は年間約140億ドル(約1兆4300億円)に達している。

地元のラオ医師が指摘するのは、イェーテボリ大学(スウェーデン)の科学者たちによる調査で、これによれば、Kazhipally湖内及び周辺で、医薬品製造に由来する非常に高レベルの汚染とともに、抗生物質への耐性を備えた細菌の存在が確認された。

科学者たちは、10年近くも前からこの地域の汚染に関する調査データを公開してきた。2007年に行われた最初の調査では、製薬工場が使用している処理プラントからの廃液に含まれる抗生物質の濃度は、治療患者の血液中に想定される数値よりも高いことがわかった。こうした廃液が、地元の湖や河川に放出されていたという。

「汚染された湖では、比較対象となったインド国内の湖やスウェーデンの湖に比べ、シプロフロキサシン耐性、スルファメトキサゾール耐性を備えたバクテリア比率が相当に高かった」と2015年の最新報告は、広く利用されている2種類の抗生物質の名前を挙げて指摘した。

現地自治体の当局者と製薬産業の代表者らは、こうした調査結果に異議を唱えている。

ハイデラバードに本拠を置く「インド・バルク医薬品製造者協会」(BDMAI)は、「州のPCBがKazhipally湖の水質について独自に行った調査では抗生物質が検出されていない」と述べている。だが、ロイターが数回にわたり要請したにもかかわらず、州PCBからその報告のコピーは提供されなかった。

「あの湖に医薬品成分が含まれていないという信頼できる報告は見たことがない」。スウェーデンの科学者らによる初回の調査を指揮し、その後の数回の調査にも参加したイェーテボリ大学のヨアキム・ラ―ション教授(環境薬理学)はそう語る。「改善があったとしても不思議はないが、データがないので何とも言えない」

<排水処理の不備>

地元の活動家や研究者によれば、1990年代にメダック県に建設された共同廃液処理施設(CETP)は製薬関連の大量の廃液を処理するには力不足だという。

抗議行動と地元村民による訴訟を経て、ハイデラバード近郊にある別のプラントに廃液を輸送するための全長20キロのパイプラインが建設された。だが活動家らによれば、これは問題を移し替えただけにすぎないという。廃液は別プラントに送られ、家庭からの排水と混合処理した上でムシ川に流されるのだという。

ハイデラバードにあるインド工科大学の研究者らが今年発表した調査結果では、ムシ川(インド最長の河川の1つであるクリシュナ川の支流)では、高水準の広域抗生物質が検出されている。

地方自治体のプラントに関する責任者は、ロイターからのコメント要請に応じなかった。

パタンチェルー地域における医薬品企業の現旧職員10数人がロイターに語ったところによれば、さまざまな企業の工場スタッフは頻繁に未処理の化学廃液をプラント近くの掘削孔に不法投棄しており、ときには夜間、地元の湖沼に直接投棄することさえあるという。

職員らは匿名を条件に取材に応じており、ロイターではこれらの証言を個別に裏付けることはできなかった。

ドクターレディーズとマイランを含む同地域の大手製薬会社は、いわゆるゼロ・リキッド・ディスチャージ(ZLD)技術を運用しており、廃棄物を敷地内で処理していると述べている。

マイランの広報担当者ニーナ・デブリン氏は、「マイランはいかなる廃液も環境中、掘削井やCETPに投棄していない」と語っている。

ドクターレディーズでは、排水を敷地内で再利用しており、すべての環境規制を遵守していると述べている。

ロイターの取材に応じた上述の業界関係者によれば、汚染管理委員会が工場の排水処理慣行をチェックすることは稀であり、しかも違反に対するペナルティは軽いという。

テランガナ州政府は、コメントの要請に応じなかった。

「一部の企業が許可されている以上の廃液を放出していることには気づいている。だが、彼らは営利企業だ」と同州PCBの広報担当者は語る。「われわれも違反企業に対して行動を起こそうとはしているが、製薬産業を潰すわけにはいかない」

さらに、もっと規模の小さい多くの企業は、高額な排水処理設備を導入するほどの資金を持っていないと同広報担当者は指摘した。

<懸念すべきリスク>

地元では、過去20年にわたり、製薬会社による環境汚染と地元当局によるチェックの甘さを告発する一連の訴訟が起こされている。一部の訴訟では村民に毎年補償金を支払うよう企業に命じる判決が出ているが、インドの複雑な司法制度のために、多くの訴訟はまだ係争中だ。

ワッハーブ・アーメドさん(50歳)は、Kazhipally湖の湖岸近くに約2万平方メートルの土地を保有しており、10年前までは、その土地で米作を行っていた。だが、近隣数カ所の製薬工場による産業汚染が悪化したことで、彼の土地では作物が取れなくなってしまったという。

「抗議や訴訟、あらゆることを何年もやってきた。そうやって何人かは、企業から年間約1700ルピー(約20ドル)受け取るようになった」とアーメドさんは言う。「だが今どき、そんなわずかな額が何になるのか」

アーメドさんが語る訴訟とは村民に代わってNGO(非営利組織)が提訴したもので、200社を超える企業が被告とされている。

農地汚染は、そこで生計を立てている村民にとって深刻な問題だが、メダック県の水系に薬剤耐性菌が潜伏している可能性は、もっと広範囲の意味を持つ。

多くの水系が生活排水に含まれる有害バクテリアで汚染されているインドにおいて、これは特に憂慮すべき問題だ。こうしたバクテリアが抗生物質に晒される頻度が高ければ、突然変異を起こして、抗生物質が効かなくなるリスクも高くなる。

懸念すべきリスクは、薬剤耐性を備えたバクテリアが人間に感染し、移動に伴って拡散していくことだ。これまで薬剤耐性菌における世界的な関心は、もっぱら、人間の医療及び農業における薬剤の大量使用に向けられていた。

「抗生物質の製造施設からの汚染は、薬剤耐性の原因として3番目に大きな要因となっている」とある世界最大手の製薬会社会長は語る。「しかしそれは、ほぼ見過ごされている」

(翻訳:エァクレーレン)

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