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後退する電力改革、民主党は発送電分離と距離
2011年8月22日 / 07:52 / 6年前

後退する電力改革、民主党は発送電分離と距離

 8月22日、東京電力福島第1原子力発電所の事故を契機に浮上した電力改革の機運が後退している。都内で7月撮影(2011年 ロイター/Toru Hanai)

 [東京 22日 ロイター] 東京電力(9501.T)福島第1原子力発電所の事故を契機に浮上した電力改革の機運が後退している。地域独占から競争市場への転換を促す「発送電分離」は政府が検討課題と位置付けているが、与党民主党の有力議員からは否定的な見解も聞かれる。

 分離を主張した菅直人首相の退陣後に検討が進むかどうかは不透明で、短期決戦と伝えられている今月末の民主党代表選でも踏み込んだ分離議論を期待するのは難しそうだ。

 また、発送電分離という制度改革を実現しても、電力会社に対抗できる力を備えた国内資本が見当たらないとの見方もある。10年ぶりに俎上に上った改革議論に現実味を持たせるには、かつて米エクソンモービル(XOM.N)が計画し、電力自由化の起爆剤になるとみられたサハリンからのガスパイプラインの敷設のような骨太のインフラ構想を制度面と並行して推進する必要があると指摘する専門家もいる。

  <市場メカニズムで危機対応も強靱に>

 発送電分離は、電力会社を送電部門と発電部門に切り分け、競争を起こしやすい発電事業を本格的に自由化する、電力改革に向けた切り札的な政策だ。欧米の多くの国で実施されており、発送電一体経営が維持されている日本は先進国では少数派だ。2000年代前半に経済産業省が村田成二・元事務次官を中心に発送電分離を仕掛けたが、電力自由化を進めた米カリフォルニア州で00─01年に大停電が発生したことも影響し、「安定強供給には発送電一体が不可欠」と主張する電力業界に押し切られた経緯がある。 

 しかし、 東日本大震災により東電は大規模な計画停電を余儀なくされ、「高品質な日本の電気」に対する信頼性は根底から崩れた。長年、発送電分離の必要性を主張してきた八田達夫・大阪大学招聘教授は「競争が起きて料金が下がるのが第一のメリット。しかし本当のメリットは停電が減ること。自由化していれば計画停電は起こりえない」と強調する。

 八田教授は、自由化によって取引所経由の売買が活発になり、市場機能を活用することで危機を回避しやすくなると指摘する。「自由化市場では大口需要家は相対契約で価格だけでなく購入量を事前に決めるのが一般的。震災時のように電気が不足すれば取引所価格が上昇するから、相対契約で買った電気の一部を使用せずに節電分を取引所に売って儲けることが出来る。多くの人が節電するから危機の際に効果が大きい」という。

 発送分離そのものの実施や検討を求める声は経済界からも上がっている。ソフトバンク(4726.T)の孫正義社長、楽天4755.OSの三木谷浩史社長のIT業界を代表する両氏が発送電分離が必要と強調。ローソン(2651.T)の新浪剛史社長は6月、「ロイター日本再生サミット」で「電気を創る、節電するという新しい技術を作るための仕組みづくりのためには、発送電を分けるべきではないか」と指摘した。また、電力業界とつながりが深い石油業界からは、国内最大手JXホールディングス(5020.T)の渡文明相談役が、日本経団連が7月に開いたセミナーで「発送電分離を含めて中長期的な観点から必要な制度改革を議論する時期が来ている」と発言している。

  <何年かに一度の亡霊か>

 菅直人首相は5月18日の記者会見で、発送電分離について「今後のエネルギー議論のあり方の中で議論すべき」と発言。7月29日に政府の「エネルギー・環境会議」で、新しいエネルギー政策に向けた中間論点整理として発送電分離の検討が盛り込まれた。

 しかし、民主党が政府案の前日にまとめた「環境エネルギー戦略集中討議中間とりまとめ」には発送電分離は入っていない。原案を策定した近藤洋介衆議院議員は今月16日、ロイターの取材で「党の中で発送電分離が必要だと強硬に主張した人はいない」と話した。同議員は発送電分離について「発送電分離は手段であって目的ではないので意味があるとは思っていない。何年かに一度、亡霊のように出てくる議論」などと指摘、否定的な見解を示している。

 菅直人首相の退陣後の新たな政権で、発送電分離がどのような扱いとなるか、不透明な状況となってきた。

  <制度改革だけでは限界も>

 発送電分離を行ったとしても、大規模な発電所の建設は新規参入者にとってハードルが高く、改革が制度面に止まれば実質的な成果は上がらない可能性もある。日本では2000年から大規模工場などを対象に電力小売り市場を自由化し対象を段階的に拡大してきたが、新規参入電力事業者(PPS)の市場シェアは自由化対象市場でも3%程度に止まる。

 NTT(9432.T)グループ、東京ガス(9531.T)、大阪ガス(9532.T)が出資し、01年に営業を開始したPPS最大手のエネット(東京都港区)の幹部は苦戦の理由について「電力会社が発送電一体体制を維持したまま(限定的な)自由化をした結果、PPSは、自家発電の余剰分を含めた供給力が増えなかった」と説明する。送電と発電に巨額の設備投資が必要な従来型の電力事業を前提とすれば「現在の日本にそうした投資余力のある企業はほとんどない」(日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一氏)との指摘も聞かれる。

  <分散型電源実現するパイプライン構想>

 しかし、2000年代前半には電力市場参入へのハードルを一気に引き下げる可能性を秘めたプロジェクトが検討されていた。米石油最大手のエクソンモービルは、ロシア・サハリン島大陸棚にある天然ガス(サハリン1プロジェクト)を、総延長約2500キロメートルの海底パイプラインを敷設して首都圏に供給する計画を進めていた。しかし、最大需要家の電力業界は、天然ガスを冷却してLNG(液化天然ガス)船で輸送する方式を主張したため交渉はまとまらず、5年前に運営主体のエクソンは中国との交渉に切り替えた。ただ中国側との交渉も依然まとまっていない。

 石油・ガスの資源開発事情に詳しい石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の石井彰・特別顧問は、サハリン1のパイプライン構想が頓挫した背景を次のように解説する。「通常、3000キロ以下の距離であればLNGよりもパイプラインのほうがコストが安いのは業界の常識。パイプラインを敷設すれば近くの工場やIPP(独立発電事業者)に燃料を供給できる。パイプラインの存在自体が競争を促進する。日本ではLNG基地は電力とガス業界しか持っていないので、電力業界は何としてでもパイプラインを阻止したかった」。

 パイプラインが各地の都市ガス網などと接続すれば、工場は燃料調達が容易になるためガスタービンによる自家発電を導入しやすくなる。東電が福島原発の事故で急減した供給力を補うために増強した中心戦力もガスタービンだ。新規に大型発電所を建設する場合に比べ圧倒的に早く導入できるのが特徴で、本格的なパイプラインが整備されれば、小規模だが設置しやすいガスタービン群による分散型電源ネットワークが実現していたというのだ。

 日本の天然ガス調達価格は世界一高く、ロシアからパイプライン経由で天然ガスを調達する欧州と比べても27%割高(2009年、国際エネルギー機関)だ。石井氏は「いろいろなカード(輸送・調達手段)を持っていることで値段を下げられる」と、パイプラインを敷設するメリットを指摘する。

 日本側に希望があるとすれば、エクソンなどサハリン1側と中国との交渉は不調が続いていること。「需要地の中国東北部の発電所のほとんどは石炭を使っているため、中国側は(天然ガスより大幅に安い)石炭と等価でないと買わないと主張し、交渉がまとまらない」(石井氏)という。別の業界筋は、日本へのパイプライン構想について「エクソン内で再検討の動きがあるようだ」と話す。エクソンモービルの広報担当者は、ロイターの取材に対し、サハリン1の日本への供給を再検討しているかどうかについて、「うわさや憶測には答えられない。当社グループとサハリン1連合はガス田の開発で経済的に実現可能な全ての選択肢を評価している」とコメントした。

 (ロイターニュース 浜田健太郎;取材協力 月森修:編集 石田仁志)

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