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焦点:時価会計見直しで変動利付国債も対象に
2008年10月22日 / 10:03 / 9年前

焦点:時価会計見直しで変動利付国債も対象に

 [東京 22日 ロイター] 米欧が相次ぎ時価会計の運用や基準を見直したことを受けて、日本の会計基準を設定する民間組織の「企業会計基準委員会(ASBJ)」が金融商品の時価会計運用を事実上、緩和する方針を盛り込んだ指針案を公表したが、国内の金融機関が大量に保有し、価格の下落で大きな含み損を抱えている変動利付債が時価評価しなくてもよい対象に含まれることが明らかになった。

 だが、円債市場では、取引価格が形成されることで時価評価の対象外にならなくなる可能性があるとの思惑も急浮上。22日の変動利付国債の取引が急減する事態に発展している。

 <市場崩壊で理論値の採用広がるか>

 企業会計基準委員会は16日夜、企業が保有する金融商品の時価会計の運用の見直し案として、流動性の枯渇した金融商品は理論価格を用いて評価してよい、とする公開草案を公表した。公開草案の意見募集は23日で締め切り、月内の委員会で決定する。11月に発表が集中する金融機関の2008年9月末の決算での適用は可能とみられている。

 公開草案に関し、企業会計基準委は「時価」の概念を拡大するもので、会計基準の変更ではなく「解釈の明確化」であるとの立場を強調している。企業や会計士が、金融商品の価格評価で理論値を採用してもよい場合のケースを示した。だが、大手銀関係者の1人は「現行の時価会計の対象を狭めることで、銀行の評価損計上を回避し、銀行決算をサポート使用としているのは明らか」と述べ、金融界では事実上の「時価会計の適用緩和」とみられている。

 金融庁の幹部は「流動性が低ければ理論値を使うことは従来から認められていたが、ややあいまいだった。その中で実際に市場が壊れるまさかの事態になり、会計現場では本当に理論値を使ってよいものか混乱していたが、これで安心感が広がるのではないか」として「日本の会計現場で理論値の採用は広がるだろう」とみている。

 会計基準委員会の公開草案は、株式は対象として除かれているが、サブプライム問題で値段の崩れた証券化商品と一部の債券が想定されている。ただ、金融庁は、国内金融機関のサブプライム関連の証券化商品の保有額は、2008年6月末で9580億円にとどまるため、影響は限定的とみている。その根拠となるのが、2008年3月期に約50兆円だった自己資本(基本的項目・Tier1)の厚さと、6兆円に上る実質業務純益の規模だ。

 <国内金融機関の変動利付国債保有額、35-39兆円の試算>

 だが、リーマン・ブラザーズLEHMQ.PK破たん以来の金融市場の混乱で、価格が大幅に下落している変動利付国債の評価損が、金融機関の決算を圧迫するのではないか、との観測も出ていた。変動利付国債の市中発行残高は約44兆円。中期債の代替として数兆円単位で購入していた国内金融機関もあるとみられているが、ある国内証券のストラテジストは「海外の保有は1―2割程度で、残りを国内の金融機関が保有しているとみられる」として、日本の金融機関の保有残高は35―39兆円にのぼると試算する。

 公開草案によると、理論値の評価が可能な金融商品は「取引所もしくは店頭で取引されているが実際の売買事例が極めて少ない金融資産」としているほか「売り手と買い手の希望する価格差が著しく大きい金融資産」と書かれている。

 同委員会の関係者はロイターの取材に対し「どの金融商品に理論値を採用するかどうかは実務の問題で、各企業と会計士の判断」と話しているが、変動利付国債については「流動性がないなら対象になるだろう。回号によって取引値を採用するか理論値を採用するかが異なってくるのではないか」と答えた。

 <理論値の妥当性も問題>

 金融庁の関係者は公開草案について「特定の商品を排除するものではないので、当然、変動利付国債は対象になり得る」と述べている。各企業の会計担当者に対しては「売買市場の厚みが極めて少ないか、ビッドとアスクのスプレッドが著しく大きいか、各企業はひとつひとつの金融商品をきちんと見極めた上で、理論値を採用するかどうかを判断しなければならない」としている。

 さらに「仮に理論値を使うとしても、通常、国債の理論値は流動性リスクを織り込んでいないので、変動利付国債の理論値を算出する場合は、流動性リスクをどの程度を加味するかを判断しなければならないだろう」として、金融機関の採用する理論値が「合理的な算定価格」であるかどうかも重要な要素になると指摘する。

 2008年9月中間期以降の決算の会計処理で、変動利付国債のどの回号に理論値を採用するかは、各金融機関の判断にゆだねられるが、大和総研の吉井一洋制度調査部長は、理論値採用の判断を金融機関にゆだねるなら、変動利付国債の同じ回号でも違う価格で評価されることが起こりうると指摘。「同じ金融商品で金融機関によって評価額がばらつくなら時価会計の理念とかけ離れてしまう」と厳しく指摘している。

 金融商品取引法に基づく財務諸表の規則では、有価証券の評価に理論値を採用した場合、財務諸表の注記で開示することが求められているが、銘柄別の開示までは義務付けられていない。このため金融商品名を明らかにせず「評価方法は理論値を採用」とだけ記せば基準はクリアされる。

 ただ、吉井部長は「今回は非常時の対応なので、金融機関が会計処理で理論値を採用した場合は、どの金融商品に採用したのか、どんな理論値を使ったのか、そしていくらになったのかは開示すべき」として、理論値を使って評価した金融商品と評価価格を投資家に周知すべきとの考えを示している。

 <金融機関は取引価格と理論値のかい離を懸念>

 こうした指摘とは別に、円債市場での変動利付債の取引が急速に減少している。複数の市場筋によると、22日の市場では一部で取引は成立したものの、流動性は時価会計の問題が提起される前に比べると大幅に低下した水準になっているという。

 複数の市場筋によると、実際の取引で付いた価格と理論値が大幅にかい離した場合、理論値を使って評価することができなくなるリスクについて、国内金融機関の中で神経質になっているところが多く、実際の運用方法に関し、明確な指針が金融庁から示されるまでは、取引を手控えると言う金融機関が増えている。

 ある国内金融機関の関係者は「時価会計の原則を守ったようなかたちで、理論値という手法を持ち出したため、マーケットにとって最も大切な流動性を犠牲にすることになった」と指摘する。

 金融庁の思惑とは別に、マーケットに大きな波紋が起きている。 

 (ロイター日本語ニュース 村井 令二)

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