再送:〔アングル〕海外子会社の配当非課税化に日本版HIAの呼び声、円高要因との思惑高まる
*この記事は9日午後7時24分に送信しました。
基太村 真司記者
[東京 9日 ロイター] 経済産業省が海外子会社からの受取配当金を非課税とする方針を打ち出し、外為市場関係者の関心を集めている。税制改正が実現して日本への利益送金が加速すれば円高材料となるためで、2005年のユーロ/ドル<EUR=>下落の一因となった米雇用創出法の内国投資促進条項(本国投資法・HIA)の日本版と位置付ける声も出ている。ただ、海外への生産拠点の移転が続く日本企業がどの程度日本へ資金を送金するかは不透明。法案の内容が固まり、日本企業の動向がはっきりするまでの間は、マネーフローをめぐる様々なシナリオが外為市場を駆けめぐりそうだ。
<5兆円規模の円買い手掛かりか>
経産省によると、日本企業の海外現地法人の内部留保残高は12兆円強。大半の先進国では海外子会社からの受取配当金を非課税としているが、日本は海外子会社が親会社に配当しない限り課税が発生しない「外国税額控除制度」を採用していたため、利益の大方は海外に保留されていた。経産省では受取配当金の非課税化で国内への資金還流を促進し、研究開発投資の活発化などが期待できるとし、09年度の税制改正大綱に盛り込む方針を打ち出している。
法改正が実現して企業が国内への資金還流を加速させれば、円買い圧力が大きく強まる可能性があるだけに、外為市場ではその行方に対する関心が急速に高まっている。05年のHIA施行では、在外米企業の資金還流がユーロ/ドルの押し下げ圧力として大きく話題となった。この前例を意識し、受取配当金の非課税化は円高相場を作り上げる「日本版HIAとなる可能性もある」(都銀の外為ディーラー)との思惑が広がりをみせている。
三菱東京UFJ銀行・市場業務部チーフアナリスト、高島修氏は「非常に粗い計算になる」と前置きした上で、非課税化が実現した際の資金還流額を、日本の貿易黒字の4割にあたる5兆円規模と予想する。
高島氏の試算はこうだ。米国でHIAが実施された05年の米国際収支では、海外留保利益の米国への送金額が計上される「直接投資受取」の配当金が通年で2836億ドルと、HIA実施の前年、翌年に比べて2000億ドル程度増加した。当時の米企業の海外留保金額は7000億ドル程度だったため、米国への還流率は3割程度だったと仮定できる。
一方、日本企業の海外留保利益は年間2兆円前後増加しており、08年度末の海外留保金は約18兆円となる見通し。今年末の税制改正に盛り込まれ、来年の通常国会で法案が成立した場合、HIAと同様にその3割程度が日本へ還流すると仮定すると、その金額は5兆円強と推計できる。高島氏は「法案成立となれば、かなりのマーケットインパクトを持つことを想定すべき」と話している。
<資金還流なら対ドル、対ユーロにインパクト>
資金還流が起こるとすれば、円高圧力は主にドルに対して強まるとの見方が大勢だ。HIAが話題を集めた05年も、外為市場では「円(日本)よりユーロ(圏)のほうが米国籍の子会社数が圧倒的に多いため、HIAの直接的な影響はドル/円<JPY=>ではなくユーロ/ドルが中心」(米系金融機関の関係者)だったといい、国際展開する日本企業の多くが子会社を有する米国からの資金還流が、活発化しやすくなるためだ。
みずほコーポレート銀行・国際為替部シニアマーケットエコノミスト、福井真樹氏は対ユーロでも影響はあると見る。福井氏は、日米の法人税率が40%程度でほぼ同水準の一方、英国や欧州が30%前後である点に着目。「法人税率の差が資金滞留を招いているとして、税制改正で影響が及ぶなら、ドル/円よりユーロ/円に影響が大きい話題」とする。
<非課税化が恒久化なら影響は軽微か、企業の姿勢によっては「空振り」も>
市場関係者が注目する税制改正の1つのポイントは、非課税化が時限立法になるのか、恒久化されるのかだ。05年のHIAは時限立法だったため一定期間に多くの企業が本国への資金送金に動き、その影響はドル相場にも出やすかったとされる。しかし、今回の非課税化が恒久化されれば「企業の資金還流はいつでもいいという話になり、円相場に対する影響もHIAほど強くなくなる」(都銀の外為関係者)と想定される。もちろんそれ以前に「税収減につながりかねない改正に、財務省がゴーサインを出すのか」(先の都銀関係者)と実現そのものを危ぶむ声もある。
さらに税制改正が行われても、肝心の対象企業が内部留保を実際に日本へ動かすかも不透明だ。「そもそも、円高と国内の高い労働コストに苦慮した輸出企業は、国内より低コストで実際の市場に近い海外への進出を選択した。今後、海外より国内で投資した方が高い連結収益につながると判断する業種・企業は限られそうだ」(バンク・オブ・アメリカの日本チーフエコノミスト兼ストラテジスト、藤井知子氏)という。多くの市場関係者が今後の動向に関心を寄せている。
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