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COLUMN-〔インサイト〕東西統一20年、深まるドイツの自信の源=経済広報センター 川口氏
2010年9月1日 / 04:35 / 7年前

COLUMN-〔インサイト〕東西統一20年、深まるドイツの自信の源=経済広報センター 川口氏

  <順調なドイツ経済>

 

ドイツ経済は現在、比較的順調に推移している。ユーロ安の影響もあって輸出が堅調であることに加え、厳冬で抑制されていた建設投資が再び動き出したことや、サッカーワールドカップの開催により個人消費が刺激されたことなどが内需を拡大させてきた。加えて、輸出産業が自国の強みであることに自覚的で、貿易振興、なかんずく官民一体となった輸出促進による自国経済の強化に余念がない。欧州経済の牽引車として、その存在感は高まるばかりである。

 ドイツ経済は現在、比較的順調に推移している。ユーロ安の影響もあって輸出が堅調であることに加え、厳冬で抑制されていた建設投資が再び動き出したことや、サッカーワールドカップの開催により個人消費が刺激されたことなどが内需を拡大させてきた。加えて、輸出産業が自国の強みであることに自覚的で、貿易振興、なかんずく官民一体となった輸出促進による自国経済の強化に余念がない。欧州経済の牽引車として、その存在感は高まるばかりである。

 

  <ドイツ経済政策の合言葉>

 

 最近、ドイツを訪れて、経済界、シンクタンク、政治家などと意見交換をする機会に恵まれた。テーマは「社会的市場経済(英訳:Social Market Economy)」。戦後、旧・西ドイツにおいて経済復興を主導したルートヴィッヒ・エアハルト経済大臣(後に首相)が、戦前の国家社会主義を打ち消して自由経済化を進めるために導入した理念であり、以来、ドイツにおいては自国の経済的成功のための合言葉となっている。

 

 「社会的市場経済」の要諦は、1、あくまで市場経済であること、2、一方で、市場の行きすぎを政府が監視し、富の分配を含む一定の社会政策を実行すること、の2点である。

 「市場経済」と「政府による管理」の間には様々なグラデーションがあり、これがゆえに、ドイツでは右派から左派までどの党派も選挙のたびに「社会的市場経済を守るべし」というスローガンを掲げるようになっている。選挙戦では、社会的市場経済を守ることを前提に、どの程度「市場経済」を追求すべきか、またどの程度「社会的」であるべきか、という議論がなされるのである。

 

 経済力を背景にEUでの発言権を強化しているドイツの「社会的市場経済」のコンセプトは、EU全体にも静かに浸透している。たとえば、アメリカで「Social」というと「社会主義」を連想するのか拒否的反応が多い。しかし、EUにおいては、「社会的市場経済」がリスボン条約(2009年12月1日発効)によって改正された新しいEU条約第3条にも組み込まれて市民権を得ている。

 

  <社会的市場経済とは何か>

 

 では、ドイツ国民の経済的アイデンティティを支え、EU条約にも規定されている「社会的市場経済」とは、どういうものなのであろうか。

 そのキーワードは「自由」「連帯性」「補完性」などであるとされる。

 

 東西冷戦下で、東側と対峙し、西側欧州の一員としてのメンバーシップをまっとうすることを使命としていた旧・西ドイツにおいては、市場経済を追求し、「自由」であることが最も大切であった。

 一方で、ビスマルク以来の社会保障体制を享受してきたドイツ人にとって、社会的なバランスをとるための富の再分配の仕組みを捨て去ることはありえない。このような互いの「連帯性」はギルド制度にもさかのぼれるドイツの伝統である。

 「補完性」はキリスト教(カトリック)から生まれた「補完性の原則(=下位の機関で処理できることに対し、上位の機関は干渉しないという原則)」からきている。これは、EUの統合プロセスにおいても盛んに議論されてきた概念である。

 

  たとえば、健全な競争を維持するためのカルテル法は、「市場競争」と「政府の関与」のバランスをとるという意味で「社会的市場経済」を体現しているものであり、世界中のどこでも通用する普遍性をもつが、「社会的市場経済」の理念の根本は極めてヨーロッパ的であり、とりわけドイツの歴史的背景に深く根ざしている。

 

  <商工会議所の視点>

 

 中東欧への玄関口として世界でもトップ10に入る港湾を抱え、重工業からハイテク、モンブランのようなブランド産業まで多くの大企業を抱えるハンブルグ商工会議所は、リーマンショックを労使協調で乗り切ったと誇らしく語る。

 利潤をすべて自分の懐に入れてしまうことが「社会的」でないのはもちろんだが、損失を国家に転嫁することも正しくないというのがドイツ企業の考え方だという。金融危機の荒波を、人員解雇ではなく、操業短縮による賃金抑制で乗り越えたが、これこそが「社会的」な「連帯性」を示す対応なのだそうだ。

 

 一方、「社会的」の裏には政府と経済を近づけるための仕組みも含まれている。商工会議所は企業の強制加入となっており、毎月、政治・行政・商工会議所のトップが定期会合を持つ。官民一体の経済推進が仕組みとして完全にビルトインされているのである。

 

  <中小企業の視点>

 

 ドイツにおいて成長まっさかりの某IT系中小企業の社長は、「社会的市場経済」を「フレームワークやルールを変えることを通じて、企業がより良く行動するように導くこと」と規定して見せた。

 ドイツも日本と同様、中小企業が雇用の大半を占める国である。

 若者の雇用・育成に関連して政府が社会保険料やその他の補助金を負担することで、未熟練の労働者を受け入れやすくすること、あるいは、政府が提供する給与保証補助金の設定を、父親がお産や育児にかかわる休暇をとる場合には、より一層厚くなるようにすることで、お産や育児にかかわる休暇を父親がとるように仕向ける制度設計など、どれも、とかく余裕がない中小企業にとって非常に重要なものだという。

 そして、これらの制度が、金銭的にはシビアだが小回りのきく中小企業における若者雇用や父親休暇取得の後押しをし、国全体の機運を盛り上げていくのだ。

  

  <持続的な経済成長のために>

 

 エアハルトは、無制限な自由は、他者の自由の領域を侵食し、結果として他者を制約することになるから、自由にも境界線を設けることが必要だとした。

金融危機によって、行きすぎた市場主義に対する批判が高まり、持続的な経済成長の維持のために何をなすべきかという議論が盛んになる中、はっきりと成長を追求しながら「社会的」であることと「市場経済」のバランスを探り続けるドイツの試みは今後も注目に値するはずだ。

 

 

 *本レポートの内容は担当者個人の見解に基づいており、財団法人 経済広報センターの見解を示すものではありません。

 財団法人経済広報センター 国際広報部主任研究員 川口 惠

 

 (1日 東京)

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 <略歴>川口 惠(かわぐち・めぐみ)1988年上智大学文学部卒業。同年日商岩井株式会社(現・双日)入社。2005年早稲田大学大学院公共経営研究科修了。情報産業本部を経て、国際部・経営企画部などで海外拠点や関係会社の管理や分析、企画立案、渉外等を担当。2003年株式会社日商岩井総合研究所(現・双日総合研究所)出向、国際政治経済、貿易等の分析に従事。2010年財団法人経済広報センター出向、現職。

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