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オピニオン:緩和継続で進む日本経済の「腐食」=カッツ氏
2015年7月28日 / 00:14 / 2年後

オピニオン:緩和継続で進む日本経済の「腐食」=カッツ氏

[東京 28日] - 米国でジャパン・ウォッチャーとして知られるリチャード・カッツ氏(オリエンタル・エコノミスト・アラート代表)は、日本が当面優先すべきは財政再建よりも経済成長であり、そのためには生産性向上が急務だと語る。

ただし現実には、日銀緩和の継続が市場から本来退出すべき「ゾンビ企業」の延命を可能にし、日本経済の「腐食」リスクを高めてしまう可能性があると警鐘を鳴らす。

同氏の見解は以下の通り。

<財政再建より成長を優先すべき>

ギリシャ問題を受けて、より大きな公的債務を抱える日本への警鐘を最近よく耳にするようになったが、債務の性質の違いを考えれば、当面そのような心配はしなくてよい。確かに日本の借金ははるかに巨額だが、対外債務が多いギリシャとは対照的に国内でほぼファイナンスされているからである。

その意味で、安倍政権が6月末に閣議決定した骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針2015)の方向性は間違っていない。財政健全化の前提として実質2%・名目3%以上の経済成長を見込むことに対しては成長見通しが甘過ぎるとの批判も多いようだが、経済成長なくして財政再建が望めないことは、他国の教訓が示していることである。

こう話すと、非現実的な高成長頼みの姿勢では、2020年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支、PB)黒字化という国際公約を果たすことができないとの声が聞こえてきそうだ。だが、その目標を守れないからといって、日本が即座に危機に陥るわけではない。より重要な目標は成長率を高めることであり、PB目標達成のために財政再建ばかりを優先して景気を圧迫するのは本末転倒だ。

米国の財務省も4月に公表した半期為替報告書で日本について、「急速な財政健全化を早期に強調し過ぎると、日本の景気回復や改革に水を差す」と指摘している。たとえPB黒字化の公約が守られなくても、少なくとも米国が問題視することはないだろう。

日本の経済運営の大きな方向性としては、まず成長率の向上で税収を着実に上げ、その次の段階で財政再建を本格化すべきだ。2014年4月に実施した5%から8%への消費増税が景気を大幅に冷え込ませた失敗を忘れてはならない。

<日本の産業界が抱える2つの問題>

ただし、アベノミクスの目指す成長優先の方向性が正しいとしても、各論では適切な政策がとられているわけではない。2017年4月に10%へ消費再増税することを決めてしまっているのは大きな過ちだ。

また、日本の最大の課題は生産性向上だが、現在の「第3の矢(成長戦略)」のメニューだけで実現できるとは思えない。政府による規制緩和・撤廃もさることながら、何より民間セクターそのものが自助努力で生まれ変わっていくことが肝要だ。

具体的には、大きく分けて2つの変化が必要となろう。1つは、何をやらないかを、日本企業の経営者たちが決断することだ。多くの企業が相変わらず、あまりにも多くの事業を中途半端に手掛けている。

長年言われていることだが、選択と集中の発想で、戦略的にカーブアウト(事業の切り出し)を進めていくべきだ。例えばソニーはあまりにも長きにわたってテレビにしがみつき過ぎた。もっと早い段階で(分社化を)決断すべきだった。

2番目に重要なポイントは、競争がなければ、競争力は向上しないということだ。日本経済の大きな問題は、産業の新陳代謝が悪いことだ。例えば過去何十年間も、電機産業のトップに新規参入企業は現れていない。対照的に米国の電機産業では、トップ20社のうち半数近くは30年前に存在すらしていなかった企業だ。安倍政権も産業の新陳代謝を側面支援するような視点から、成長戦略のメニューを再考すべきだ。

<緩和継続がゾンビ企業の延命を招く恐れ> 

日本経済について、もう1つ大きな懸念を挙げれば、黒田日銀による金融緩和の継続で超低金利状態が長期化し、新陳代謝がさらに悪化する可能性があることだ。言い換えれば、市場から退出すべきゾンビ企業の延命が可能になるなどして、日本経済が次第に腐っていく恐れである。

資本には本来、コストがかかる。だから、賢く使わなければならない。もし現在のような低金利が続き、タダ同然で得られるならば、愚かに使うだけだ。十分に客がいないところで不必要な店を作ったり、必要なリストラを企業が回避したりするだろう。

こうした問題は過去25年間と同様、日本経済の緩慢な腐食というかたちで表れてくるだろう。金利の急騰やそれに伴う市場の自信喪失など突発的な危機が発生するとは思わない。実際、そうした警告は長年続いているが、危機は起きていない。しかし、だからこそ、日本人は経済がゆっくりと腐っていくことの恐ろしさを理解できないのだろう。

*本稿は、7月16日に行われたリチャード・カッツ氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

*リチャード・カッツ氏は、オリエンタル・エコノミスト・レポート&アラート代表(編集長)。ニューヨーク大学スターンビジネススクール助教授、米外交問題協議会特別委員会委員などを歴任し、現職。日本に関する著作が多く、日米関係や日本の金融危機について米国議会で証言も。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

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