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コラム:膨張する「円安エネルギー」、数カ月内に噴出も=鈴木健吾氏
2014年6月25日 / 05:28 / 3年前

コラム:膨張する「円安エネルギー」、数カ月内に噴出も=鈴木健吾氏

[東京 25日] - ドル円相場のこう着状況が続いている。2014年も6月終盤となったが、直近の約5カ月間、日々の終値(ニューヨーク市場)は101―103円の上下わずか2円のレンジにその90%以上が収まってしまう。

その結果、終値ベースで算出する移動平均線はレンジの中心である102円を目指して集まりつつある。5カ月間の営業日は約100日強であることから、10日から100日程度の移動平均線は101.95―102.25円の30銭ほどのレンジに収束している(6月24日時点)。テクニカル的にはこれら移動平均線の束の上にいるか下にいるかで、バイアスの方向性が決まりやすい状況だ。

当然、予想変動率といわれるボラティリティの低下も顕著だ。市場動向をみる際に指標的役割を果たす「アット・ザ・マネー・フォワード(ATMF)」の1カ月物インプライドボラティリティは、過去最低水準である5%近辺まで下落した。過去15年程度を振り返っても、6%割れを数日以上継続的に記録したのは今回と06年の2回しか見当たらない。

<米国めぐる不透明性が動意薄の主因>

ここまでドル円相場の動意が薄れているのはなぜか。一つの理由に限定できるものではないが、特に影響が大きいのはやはり米国の景気・金融政策の動向であると考えている。

13年終盤にかけて米経済の緩やかな回復傾向はかなり鮮明となった。12月初旬に発表された11月の非農業部門雇用者数は前月比プラス20万人台を記録し、12カ月間の平均値もプラス20万人を上回った。米供給管理協会(ISM)が発表した11月の製造業景気指数も約2年半ぶりの高水準を記録し、11月の住宅着工件数も07年以来の水準を回復した。こうしたなか、米連邦準備理事会(FRB)は昨年12月17―18日に開催された連邦公開市場委員会(FOMC)で、量的緩和ペースの縮小、いわゆるテーパリングに踏み切っている。

市場では米経済の楽観的な見方が支配的となり、リスクオンムードが加速すると、年末年始にかけてドル円は105円台までドル高円安が進み、米10年債利回りは3%台へ上昇。ニューヨーク株式市場でダウ平均は当時の史上最高値を更新する動きとなった。

ところが、これに前後して米国を大寒波が襲い、年明け以降、各種経済指標が悪化を示すと、市場ではこれが「寒波など悪天候の影響による一時的な景気下押し」なのか、それとも「それまでみられてきた米景気回復基調の腰折れ」なのか判断が難しい状況となった。

4―6月期に入ると経済指標は再び回復傾向を示すものが増加し、FRBは「1―3月期にみられた経済指標の下振れは悪天候による一時的なもの」との見方を示しているが、慎重に考えれば「4―6月期の改善は1―3月期の下振れに対する当然の反発」に過ぎないとも考えられ、状況判断は難しい場面が続いている。

年明け後の米指標悪化は市場のリスクオンムードを直撃し、米10年債利回りは2月初旬にかけて2.5%台へ急低下。ドル円も同時に100円台まで下落した。

ただ、上記の通りFRBは「景気下振れは一時的」としてテーパリングを継続しており、日米間の中長期的な景況感格差や金融政策の方向性は引き続きドル高円安と整合的との見方が根強い。「年末にみられた過熱」の調整はあっても、積極的なドル売りは仕掛けにくく、ドル円相場はこう着している。

また、4―6月期に入っても米景気に対する見方が難しい状況であることや、年明け後のリスクオンムードのはく落により傷ついた投機筋が戦線離脱し、相場の厚みが薄れたとされることなども、こう着感へとつながっているようだ。

FRBのスタンスも悩ましい。上記の通り景気に対して一定の自信を示しテーパリングを継続しつつも、金利上昇抑制などのため「緩和的金融政策は長期化する」とのメッセージも強く発信している。さらに、量的緩和ペースの縮小はFOMCごとに100億ドルずつ実施され、これは景気見通しに相当の変更がない限り継続するとしていることから、テーパリングそのものが市場の材料とならなくなってしまった。

金融政策の先行きに関しても、イエレン議長は3月のFOMC後に具体的な期間(テーパリング終了後6カ月程度)に言及したことで市場に動揺を与えた経験から、それ以降は「決まっていない」を繰り返すのみ。FOMCの声明文も変更点は細部ばかりで、市場がFRBの意図をつかみかねていることも、米金利やドルの動意を薄めている。

<淡々と続く実需などの円売りフロー>

では、米景気の回復が改めて確認され、FRBのスタンスが明確化するまでドル円相場は動かないのかといえば、そうは考えていない。

株式市場の一銘柄ならば材料に乏しいためにフローがなく動かない、ということもあるかもしれないが、為替市場は貿易や資本などのフローが常に存在する。日本の貿易収支赤字額は過去最大を記録した昨年を上回るペースで増加しており、5月までの平均は月間1兆2000億円を上回る。

日銀への追加緩和期待は大きく後退しているが、テーパリングを継続するFRBに対し日銀の通貨供給は継続中で、これが資本フローからの円売りへとつながりつつある。今月18日公表の資金循環統計によれば、日銀が量的緩和を通じて国債を大きく買い越した一方で、中小企業金融機関や生命保険、公的年金などはその残高を減らしている。量的緩和がポートフォリオリバランスを促していると考えられ、その結果として海外資産の組み入れが増加するとみられている。

また、民間非金融法人企業に関しても現金・預金の伸びが減少した一方、対外証券投資、対外直接投資などが増加傾向を維持。14年3月末における民間非金融法人企業の対外直接投資残高は66.2兆円と過去最高を更新している。このような貿易や資本のフローを通じた円売りが為替市場では淡々と積み上がっている。

<2006年と2012年の教訓>

最初に述べた通り、ドル円相場がこう着し、インプライドボラティリティが6%割れを数日以上継続的に記録したことは、06年6月頃にも一度あった。この時ドル円相場はどうなったか――。実はその直後、06年7月に米大手格付け会社が米国のサブプライムローンを組み込んだ住宅ローン担保証券RMBSの大量格下げを発表。いわゆるサブプライム問題に突入していくなかで、その後ドル円相場は急落していった。

さらに、6%は割り込んでいないものの、今回と06年6月に続き、過去15年間で3番目にインプライドボラティリティが低下したのが12年10月頃。この時は翌11月に当時の野田首相が衆院の解散を宣言し、12月には安倍政権が誕生。アベノミクスという言葉が生まれるなかでドル円相場はその後の半年で3割近い大幅円安を示現する流れとなった。

このように過去の経験則からは、インプライドボラティリティが大きく低下した後にはかなり大きな値動きが控えている可能性がある。テクニカル分析用語でも小幅なレンジでもみ合う様子を「エネルギーを蓄積中」と表現することがあるが、現状はまさに低ボラティリティのなかで、フローという円安エネルギーを蓄積している状況であるとみている。

オプション市場で実際に取引されるインプライドボラティリティがじりじりと低下傾向にある一方で、市場の実際の値動きから計算されるドル円の1カ月物ヒストリカルボラティリティは5月初旬頃から低下に歯止めがかかっている。小幅で方向感のない取引が続くなか、「これ以上下がりようのない水準まで下がってしまった」状況とみられる。

102円を中心としたレンジ相場も約5カ月に及び、ヒストリカルボラティリティの低下にも歯止めがかかるなか、数カ月以内にはため込んだフローというエネルギーが噴出し、相場が大きな動きを示現する可能性があることには十分に注意が必要だ。

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。明治大学経営学修士。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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