Reuters logo
コラム:ギリシャ危機下の欧州景気「回復」は本物か=加藤隆俊氏
2015年3月12日 / 03:17 / 3年後

コラム:ギリシャ危機下の欧州景気「回復」は本物か=加藤隆俊氏

[東京 12日] - 欧州中央銀行(ECB)スタッフの経済見通しが今月5日に上方修正されるなど、原油安やユーロ安を背景に、ユーロ圏の景気回復期待が高まっているが、先行きには幾多の紆余曲折があると見ている。ウクライナ・ロシア問題の影響もさることながら、足元で最も気がかりなのは、紛糾するギリシャ支援協議の行方だ。

2月20日、ユーログループ(ユーロ圏財務相会合)は、ギリシャ向け支援プログラムを最大4カ月延長することで合意したが、もとよりギリシャ政府の資金繰り問題がこれで解決したわけではない。実際に金融支援が実行されるためには、4月末までにギリシャ側と欧州委員会、国際通貨基金(IMF)、欧州中央銀行(ECB)などの関係機関が構造改革の具体的なメニューで合意しなければならないほか、ギリシャ議会での関連法案の可決なども必要となる。こうした一連のプロセスを考えると、交渉がうまく行ったとしても、融資実行は年央になるとの見方が多い。ところが、ギリシャ政府の財政資金は3月中にも底をつく恐れがあるという。

各種政府支払いの延期や政府管理基金の余剰金の一部借り入れなど、政府が知恵を動員してデフォルトを何とか回避する綱渡りが続くのではないか。そもそもギリシャの現政権を率いる急進左派連合(SYRIZA)は反緊縮財政を掲げて、1月25日の総選挙に勝利した経緯があり、国民に痛みを強いる改革案で妥協することは政治的に大きな困難を伴う。支援プログラム期限を迎える6月末まで交渉は紛糾し、時として「交渉決裂=デフォルト」を連想させるような事態に陥ることもあると考えたほうが無難だろう。

<ギリシャ問題の波及経路>

見極めが難しいのは、ギリシャ問題がユーロ圏経済に与える影響の程度だ。足元のユーロ圏の景気は、確かに悪いわけではない。昨年10―12月期の実質国内総生産(GDP)は前期比プラス0.3%、前年比プラス0.9%と、むしろ予想を上回った。主要加盟国では、ドイツとスペインが前期比プラス0.7%の伸びを示し、全体の成長に貢献したほか、フランスとイタリアはそれぞれ0.1%と0.0%となり、マイナス成長を回避した。

消費者や企業の景況感も年明け以降、引き続き改善傾向にあり、物価上昇率の低下(ユーロ圏消費者物価指数の前年比は1月がマイナス0.6%、2月が速報値でマイナス0.3%)が心理的に与える悪影響は、昨年の夏や秋ごろに比べるとかなり小さくなってきているとは言えそうだ。構造改革の宿題をこなしてきたスペイン経済が良くなってきていることも、明るい材料だろう。前述したECBスタッフの経済見通しでは、2015年と16年のユーロ圏実質GDP成長率予想(前年比)はそれぞれプラス1.5%、プラス1.9%と、12月時点の見通し(15年はプラス1.0%、16年はプラス1.5%)から上方修正されている。

しかし一方で、日本にも同じことが言えるが、昨年秋以降に加速した原油安が消費や企業マインド改善の追い風となり、景気が押し上げられたという幸運な面もある。また、域外向け輸出の持ち直しに貢献しているユーロ安にしても、背景にはECBの緩和効果だけでなく、米国経済の回復とそれを受けた米連邦準備理事会(FRB)の利上げ期待に伴うドル資産へのマネー流入がある。

要するに、外部要因に負うところが大きく、自律成長軌道に乗ったと考えるのは時期尚早だ。そうした状況下でのギリシャ支援協議の混迷は、ユーロ圏の政策責任者のエネルギーを相当に消耗させる要素であり続けるであろう。

こうしたなか、ユーロ圏経済の難しいかじ取りを迫られるのがECBだ。周知の通り、ECBは1月22日の理事会で量的緩和導入を決め、3月9日からユーロ圏加盟各国の中銀とともに実際に債券買い入れをスタートさせた。

注目の国債購入については、各国中銀のECBに対する出資比率に基づき、国別の購入比率を配分するとした。この際、ギリシャ国債については、早くても夏以降まで買い取りができないことを明かしている。これは、ECBがすでに大量のギリシャ国債を保有しており、1発行体当たり発行残高の33%という買い入れ額の上限規定に抵触するためだ。ちなみに、ECBが保有するギリシャ国債(67億ユーロ相当)は7月と8月に償還期限を迎えるという。つまり、6月末を期限とするギリシャ支援協議の行方がはっきりするまでは、ギリシャ国債の買い入れを避けたと解釈できる。

また、ECBは従来、ギリシャが欧州連合(EU)の支援プログラムを受けていることを条件に特例として、本来は投資適格外のギリシャ国債を担保として受け入れ、同国の銀行を通常の資金供給オペの対象としていた。EUの支援プログラムがオフ・トラックになっている状況に基づき、2月4日の理事会でその特例の適用中止を決め、3月5日の理事会でも、前述の通りギリシャとユーログループの間で支援プログラム延長の暫定合意に至っていたにもかかわらず、再適用を見送った。

この結果、ギリシャの銀行がユーロの通貨当局より受けられる資金供給は、ECB理事会が設定する上限の枠内で、通常オペよりも高い金利でギリシャ中銀より供与される緊急流動性支援(ELA)経由となっている。ギリシャの銀行が通常オペに復するには、ギリシャ政府と支援側が先述したような交渉のハードルを乗り越え、融資が実行されるとの確証が必要と言うことだろう。

ギリシャ支援側との交渉が決裂した場合のインパクトは軽視できない。欧州レベルでも国際レベルでも国家の財政危機や金融機関の破綻に備えた安全網の整備が一段と進展した現在、リーマンショックのような世界的な金融危機に陥るとは思えないが、デフォルトともなれば、ギリシャ自体はユーロ離脱に追い込まれ、大不況に陥るだろう。ユーロ圏全体が、それによって深刻な不況に陥るほどインパクトを受けるかは不透明だが、少なくともスペインやポルトガル、イタリア、アイルランドといった重債務国の景気に対して良い材料とならないのは明白だ。

また、ユーロ圏の重債務国の銀行に預けた預金とドイツの銀行に預けた預金が同じくらい安全だとは、人々はますます思わなくなるだろう。影響は即座に表れるのではなく、ユーロに対する信認の揺らぎを通じて、じわじわと広がっていくのではないだろうか。

<買い入れ目標の高いハードル>

最後にもう1点、欧州に関して気がかりな点を言い添えておきたい。それは、ECBの量的緩和の実行性だ。

前述した買い入れの配分比率では当然、ドイツやフランスといった域内大国の国債が大きな割合を占めることになる。しかし、問題は、十分な玉(ぎょく)が出てくるかどうかである。特にドイツは財政黒字国であり、新規の国債を発行することなく、財政を賄える見通しとなっている。また、金融機関は規制上の理由などから優良資産であるドイツ国債を保有する必要があり、手放さないかもしれない。さらに、ドイツ国債の利回りはすでに7年債までマイナスに落ち込んでおり、満期保有を前提とすれば中銀には購入時点で損失が発生することになる。このように、ユーロ圏における量的緩和には、さまざまな困難がある。

むろん、ECBがマイナスの中銀預金金利を導入するなど一段と踏み込んだ緩和姿勢を示した2014年6月以降、ユーロ安は加速し、各国の貸出金利は低下してきた。今、その効果が実体経済に次第に表れ始めているのは事実だろう。しかし、上述したような制約を抱えたECBの量的緩和が果たして狙い通りにインフレ期待の上昇を誘導すると共に、経済活動を活性化できるかどうかは未知数だ。

そもそも、日本の「失われた20年」が示しているように、低成長・低インフレから脱することはそうたやすいことではない。原油安とユーロ安によって足元の景気に薄明かりが差している今、過度に悲観する必要もないが、ギリシャ問題の着地点が見えないユーロ圏経済は世界経済のリスク要因からは「卒業」とまでは言えないであろう。

*加藤隆俊氏は、元財務官(1995─97年)。米プリンストン大学客員教授などを経て、2004─09年国際通貨基金(IMF)副専務理事。10年から公益財団法人国際金融情報センター理事長。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below