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コラム:インドとインドネシア、「新首脳ブーム」は本物か=吉田悦章氏
2014年10月6日 / 09:18 / 3年前

コラム:インドとインドネシア、「新首脳ブーム」は本物か=吉田悦章氏

[東京 6日] - 昨年半ばに流行した「フラジャイルファイブ」、すなわち「(安くなる公算が高い)脆弱な5通貨」には、ブラジル、トルコ、南アフリカのほか、アジアからはインドとインドネシアの2カ国が加わっている。

その後、フラジャイルファイブ懸念の契機となった米量的金融緩和の縮小観測(いわゆるバーナンキショック)をめぐる国際金融市場の混乱も落ち着きをみせ、インドとインドネシアの両通貨も大きな変動なく推移している。しかし果たして、このまま凪(なぎ)は続くのだろうか。日本企業や日本の投資家にとって重要な両国の政治経済情勢を、その類似性を軸に改めて点検しておきたい。

<モディ氏とウィドド氏の類似点>

まずは政治面からみておこう。周知のとおり、インドでは5月総選挙でインド人民党(BJP)が勝利し、同党のナレンドラ・モディ氏が首相に就任した。インドネシアでも7月の選挙結果を受け、10月中にはジョコ・ウィドド氏(通称ジョコウィ)が新大統領に就任する予定である。このように行政の長の交代は両国の大きな共通点だが、実は両者にはいくつか興味深い類似点がある。

第1に、両者とも選挙前から最有力候補とみられていたこと。第2に、ともに州知事であったこと。インドのモディ首相はグジャラート州知事を、インドネシアのウィドド次期大統領はジャカルタ特別州知事を、選挙直前までそれぞれ務めていた。第3に、両者ともビジネスに支援的な政策をとるとみられており、とりわけ海外投資家からの評価が高いことである。

モディ首相は、グジャラート州知事時代に、インフラ整備を強化してフォード・モーター(F.N)やコルゲート・パルモリブ(CL.N)など米大手企業の投資の呼び込みに成功し、その手法は「グジャラート・モデル」や「モディノミクス」などと呼ばれる。

一方のウィドド次期大統領は、政治家になる前は家具の製造・輸出事業を営んでおり、こうしたバックグラウンドからビジネス、特に海外直接投資の呼び込みに積極的とみられている。

もちろん、今後の経済政策については、両者の間に相違も出てくるだろうが、上記のような共通点を持っていることは重要な参考材料になるだろう。

<経済面では景気減速と経常赤字の共通項>

次に、両国の経済面での共通点をみると、景気減速と経常赤字の2点が際立っている。インドは、2005年から10年にはおおむね9%近傍の実質国内総生産(GDP)成長率を誇っていたが、直近(14年4―6月期)こそ5%台に上向いているものの12年第4四半期から14年第1四半期の間はおおむね4%台で低迷していた。

インドネシアも、2010年以降は6%台前半を維持していたが、13年前半からは6%を割り込み、直近(14年4―6月期)では5.1%にまで減速している。両国とも景気減速の背景には、通貨安対策や後述する経常赤字対策としての利上げが大きく作用している部分がある。そうした政策対応の類似性が、ともに景気減速を招いている点は興味深い。

ただ、経常赤字そのものの要因やそれに対する政策対応は異なっている。インドネシアの場合、経常赤字の主因はエネルギーにある。実は同国の経常収支は、2011年までは黒字だったが、輸出していた天然ガスの国内供給増加や石油製品の国内需要の着実な増加により、12年以降エネルギー収支が大幅に赤字化し、それが経常収支の赤字化を引き起こした。このため、経常赤字対策の一つとして燃料補助金を削減している。

一方、インドの経常赤字の背景には、輸入の3分の1を占める原油・石油製品が影響している部分も大きいが、国民の保有資産としての人気が高い金(きん)の輸入が全体の1割を占めている点も無視できない。政府は経常赤字対策として、2013年初めには4%だった金の輸入関税を段階的に引き上げ9月には10%とした。これにより、それまで月間30―60億ドル程度だった金の輸入は、13年後半以降10億ドル程度となっている。

<中銀新総裁への高い評価と期待>

金融政策をめぐる共通点も興味深い。バーナンキショック後の通貨安対策として、インドネシアは2013年6月に景気減速下にもかかわらず予想外の利上げに踏み切って以来、臨時の金融政策決定会合を含めて利上げを継続。インドも同様に13年9月の予想外の利上げ決定以来、金融引き締めを続けている。

両国とも、利上げによる通貨安圧力の緩和と輸入減少を通じた経常赤字の緩和を企図しており、物価上昇圧力も高止まる中で、共通した金融政策対応をみせた格好である。

その背景にある、中央銀行総裁の交代という共通事象も見逃せない。インドネシアでは利上げ決定の前月である2013年5月に、アグス・マルトワルドヨ前財務相が中銀総裁に就任。インドでも同年9月に、国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストを務めた経験もあるラグラム・ラジャン氏(米シカゴ大学教授)が中銀総裁に就任しており、利上げは就任と同月の政策判断ということになる。

筆者が、ジャカルタとムンバイで現地の市場関係者に対しヒアリングした際には、両者とも「それまでの総裁とは異なり、金融市場や経済の事情に明るい」と高く評価されていた。実際、就任以降の政策対応は迅速であり、その評価に値しよう。

<インドネシアの不確実性に要注意>

では、このように共通点の多い両国の経済は今後どうなっていくのだろうか。いくつかの着眼点を提示しながら今後を見通してみたい。

上述のように、両国では新政権に対して高い期待が集まっており、そのこと自体は、金融市場や直接投資の環境にポジティブな影響を与える可能性が高い。一方で、こうした高い期待どおりに政策運営が進まず、いわゆる「失望売り」になるような可能性にも十分に留意しておきたい。

こうした中で筆者としては、インドよりもインドネシアについてより高い注意を払うべき状況だと考えている。

四半期ベースの経済成長率をみると、上述のとおりインドでは底打ちの兆しがみえる一方で、インドネシアは減速を続けており、いつ底打ちするのか今後の統計発表に注目すべき状況にある。

また種々の経済政策にしても、両国にて課題が山積していることは事実だが、インドネシアの不確実性にはいっそう留意する必要があると考えている。よく知られるように、インドネシアでは、資源開発規制機関の解体・再編や未加工鉱物の輸出禁止など、時として経済合理性よりもナショナリズム的側面を色濃く反映したとみられる政策がとられることがあるからだ。実際、直接投資を検討する海外投資家はインドネシアの不確実性に警戒しているような印象を受ける。

このような違いは、すでに為替相場に表れていると言えるかもしれない。インドルピーの対ドル相場は、バーナンキショック後、2013年初比25%程度まで通貨安が進んだ。これは、フラジャイルファイブの中で13年中に最も通貨安が進んだ水準である。ただしその後は、利上げの影響もあって落ち着き、最近では1ケタ台の減価水準にとどまっている。他方、インドネシアルピアは同様に一時25%程度まで通貨安が進んだ後、大統領選挙の期待と結果で強含む場面もみられたが、今でもおおむね20%程度安い水準で取引されている。

日本の対インドネシア直接投資は2013年の実行ベースで約47億ドル、同年の輸出入総額は約462億ドル(通関ベース)に達し、インドの数字(直接投資・約14億ドル、輸出入総額・約157億ドル)を上回る。インドネシア経済の不安定化が日本にもたらす直接的影響は相対的に大きいだけに、ウィドド次期大統領の政策方向性の変化など、同国の新首脳ブームの行方を注意深く見守る必要がある。

*吉田悦章氏は、国際協力銀行の外国審査部参事役。ハーバード大学留学を経て一橋大学卒業後、日本銀行へ。国際局、金融市場局、調査統計局などで国際金融市場・制度や日本経済に関する調査に従事。2007年より国際協力銀行にてイスラム金融などを担当。08年より早稲田大学ファイナンス研究センター客員准教授として大学院にて講義。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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