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コラム:来春の日本株を占う総選挙6つのシナリオ=丸山俊氏
2014年11月25日 / 05:42 / 3年前

コラム:来春の日本株を占う総選挙6つのシナリオ=丸山俊氏

[東京 25日] - 金融機関のエコノミストやストラテジストはマクロ経済や金融政策について詳しく調べることはあっても、こと政治については初めから所与として深く立ち入らないことが多い。

消費再増税をめぐる議論も、断行すべきか否かの「べき論」に執着してしまい、安倍晋三首相の立場に拠って増税が衆議院解散と密接不可分の関係にあるという視点が忘れ去られていたようである。

しかし、筆者が普段接する米系マクロファンドは政治アナリストを抱えており、独自の情報網や分析力を生かして、かなり前から「増税先送り解散」の可能性を把握していた。実際、マーケットがそのことを織り込み始めたのは11月10日以降であったが、安倍首相はすでに10月中旬にはこの選択肢を真剣に考え始めていた可能性が高い。

<日本経済の未来を左右する大転換点>

最近の世論調査によれば、消費再増税の延期には賛成だが、解散総選挙には反対という意見が多い。実際、海外投資家からも「なぜ今、解散をしなければいけないのか」という質問は多い。法律で定めた景気条項に従って景気が悪いと判断したから増税を延期する、でいいではないかと皆が言うのだ。

確かに、増税延期がなぜ解散総選挙の理由になるのか、国民にはピンとこないだろう。また、メディアで書き立てられている、その他の理由は、ざっと挙げるだけでも、1)2005年の郵政解散を想起させる自民党内の増税容認派へのけん制、2)2016年の衆参同日選挙(ダブル選挙)の選択肢を嫌う公明党への配慮、3)比較的高い内閣支持率、4)野党の貧弱な選挙態勢、5)2015年に控えた原発再稼働や集団的自衛権の行使容認などの難題、6)2人の女性閣僚辞任と、枚挙にいとまがないが、いずれをとっても政治的な思惑ばかりが透けて見えてしまい、心にいまひとつ響かない。

安倍首相は会見で重大な税制改正を行う以上は国民に信を問うと述べたが、2017年4月に景気弾力条項抜きで消費再増税を行うことに賛成か反対かを直接国民に問うということなのだろうか。本稿ではあまり深く立ち入らないが、過去を見ても大義のある解散などあまりなかったわけであり、上記で挙げた理由のほかにも今やらなければいけない理由があるのだろう。

いずれにしても、4月の消費増税の反動減が大きく、予想以上に景気の足踏みが長引くなど地方・中小企業・低所得者を中心に経済政策に対する不満が鬱積(うっせき)しつつある中で行われる総選挙はアベノミクスへの賛否が争点になるだろう。このままだと投票率が前回衆議院選挙時の過去最低59.32%を下回るのではないかと心配である。

ただ、大義名分はどうあれ、アベノミクスへの賛否を問う総選挙の結果は、そのまま今後の株式市場を占う「試金石」になるだろう。10月以降の相次ぐ経済政策、すなわち年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの公的年金基金の運用見直し、日銀の追加金融緩和、消費再増税の延期、2014年度の補正予算は、金融緩和(第一の矢)と財政支出(第二の矢)によりデフレ脱却を図るというアベノミクスの原点回帰である。

そのため、アベノミクスへの賛否を問う総選挙の結果は安倍政権の政治基盤だけではなく、日本経済の行方をも左右する大きな転換点になりそうだ。アベノミクスに反対する国民がアベノミクスによって消費や(設備)投資を増やすとは考えられないように、4月の消費増税により頓挫してしまった経済の好循環を取り戻す(あるいは確実にする)ためには経済政策(アベノミクス)に対する国民の信認(共感)が必要不可欠だからだ。

株式市場(海外投資家)も総選挙における自民党の勝利をもってはじめて、国民がアベノミクスを支持していることを再認識し、アベノミクスが成功すると信じるのである。特に中長期投資家にとって、国民の高い支持を背景とした安定政権による経済重視路線、そして投資期間内(1―2年以上)に景気大変動を招く消費増税が行われないことの安心感は大きい。

<自民圧勝なら日経平均1万9000円超え>

しかし、そもそも自民党の勝利は確実なのだろうか。世論調査では自民党支持層が約30%、野党支持層が合算で約30%と五分五分の勢力を保つ中で、マスコミ報道などによって風向きが変わる無党派層が40%も占めるため、直前まで選挙の趨(すう)勢を読むことは難しい。

安倍首相は連立与党で過半数獲得を勝敗ラインと会見で述べたが、現有議席数(自民党295、公明党31)と40%台の内閣支持率を考慮すれば低過ぎるハードルだ。

ただし、後述する「敵失」を追い風に地滑り的な勝利を収めた前回衆議院選挙(2012年12月)を上回る議席数を自民党が獲得できるか否かは不透明である。というのも、前回衆院選で自民党は圧勝したものの比例代表の得票率は伸びず、比例の獲得票自体も減少した。実際、獲得議席は前々回から2議席しか増えなかった。

自民党が小選挙区を制したのは、政党乱立により民主党や日本維新の会などの第三勢力がそれぞれの小選挙区に候補者を擁立したため票を食い合って共倒れとなった「敵失」が大きな要因であると言われているからだ。

今回もまた、維新の党の勢いこそ衰えたとはいうものの野党の候補者擁立と選挙協力の進展が自民党獲得議席の大きな鍵を握っている。みんなの党(衆院8人、参院12人)はすでに解党を決めて所属議員らのほとんどは野党各党に合流する見込みであり、今後は二大野党の民主党と維新の党の選挙協力の成否が自民党の獲得議席に直結するだろう。筆者は、自民党の獲得議席数によって来春に向けた6つの株価シナリオを想定している。

●現有議席(295)を上回り圧勝、安倍長期政権樹立へ、日経平均株価は1万9000円以上に上伸

●270―294の議席を維持し辛勝、安倍政権は当面安定、日経平均株価は1万8000円に好伸

●250―270に議席を減らし事実上の引き分け、安倍政権続投も政権運営は難航、日経平均株価は1万7000円で膠(こう)着

●238―250に議席を減らし事実上の敗北、安倍政権続投も政権運営は難航、与党からも責任論、日経平均株価は1万6000円へ下落

●自民党単独過半数(238)割れとなり安倍内閣退陣、日経平均株価は1万5000円に急落

●連立与党過半数割れ(公明党を現有議席31とすると自民党207)となり安倍内閣退陣、日経平均株価は1万4000円以下に暴落

<官邸・財務省・日銀の蜜月は続くか>

最後に、今回の増税先送り判断に伴って浮上している別の懸念を検証しておきたい。安倍首相の決断によって、増税を支持してきた財務省・日銀との蜜月関係が壊れるのではないかとの懸念だ。

しかし、これはおそらく杞憂だろう。まず財務省だが、政策が官邸(政治)主導で決められるようになり、国家公務員人事改革により幹部人事に官邸の意向が強く働くようになった結果、予算権限を握り自民党の派閥政治と結託して政策に大きな影響力を持った昔日の面影はもはやない。

財務省寄りの発言が多い麻生太郎財務相も、支持率が10%台に落ち込んだ麻生政権を末期まで支えてくれた森喜朗元首相や安倍首相には恩があり、最後は政治判断に傾いた。財務省としても増税を盾に経済対策の規模が膨れ上がっては元も子もないため、景気弾力条項を取り除くことを条件に増税延期を受け入れる余地はあったわけだ。

一方、意表を突く追加緩和によって結果的に消費再増税の環境づくりをしたと言われる黒田東彦日銀総裁はどうであろうか。もともとアベノミクスには前政権時代に決定した消費増税というメニューはなかったとも言えるし、増税に賛同する黒田元財務官を日銀総裁に任命した以上は安倍首相も消費増税を前提にしていたとも言える。したがって、追加緩和は増税が前提と考えていた安倍首相にとって、増税の決断前の追加緩和はむしろ増税延期の判断を後押しした可能性すらある。

その場合、安倍政権と黒田日銀の「協調」は反故になるわけだが、そもそも追加緩和は10月前半の株価急落や原油価格の下落、9月の都区部消費者物価の前年比1%割れなどが直接的なトリガーとなったものである。そして、11月19日の日銀政策決定会合後の記者会見では、元財務官僚で衆参両院の同意を経て内閣に任命された黒田日銀総裁は増税延期という「政治判断」に十分な理解を示した(むしろ十二分に政治を理解し過ぎてしまっているからこそ異次元緩和を実施できたのだ)。

それどころか、ゼロ金利下でいまだに銀行貸出が伸び悩む日本経済においては、増税延期というある種の財政拡張によってはじめて、長期国債の大量買い増しを決定した追加緩和の効果が生きるし増幅されるのである。皮肉なことに増税延期によって家計のインフレ期待が高まれば、日銀の物価安定目標2%への到達が早まるかもしれない。

案外と増税延期で救われるのは日銀なのかもしれないし、遠からずインフレ率が高まれば日本版テーパリング(緩和縮小)の前倒しで思わぬしっぺ返しを食うのは安倍政権なのかもしれない。中長期的には消費増税を可能にする経済環境をつくるという必要がなくなった日銀が、政治の要請よりも物価(目標)により忠実に金融政策を運営する可能性が高まったことに留意するべきだろう。

*丸山俊氏は、BNPパリバ証券の日本株チーフストラテジスト。早稲田大学政治経済学部卒業後、三和総合研究所に入社し、クレディ・スイス証券を経て2011年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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