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コラム:非論理的な政策の「実効性」=カレツキー氏
2013年6月14日 / 05:18 / 4年前

コラム:非論理的な政策の「実効性」=カレツキー氏

6月13日、それは皮肉に満ち、市場誘導的で、偽善的だが、それでも効果があるように見える──。あなたが政府の対策や経済政策を描写する上で、こうした言い回しをどれぐらい頻繁に耳にしたかはわからないが、まだ十分ではない。昨年11月撮影(2013年 ロイター/Toru Hanai)

アナトール・カレツキー

[13日 ロイター]  それは皮肉に満ち、市場誘導的で、偽善的だが、それでも効果があるように見える──。あなたが政府の対策や経済政策を描写する上で、こうした言い回しをどれぐらい頻繁に耳にしたかはわからないが、まだ十分ではない。

メディアや、そして驚くべきことに企業経営者、金融関係者、経済分析に携わる人々の多くが、誠実性に欠け、理論上の矛盾があったり、明らかに自己の利益を図る動機に基づくような政策はその特性ゆえに失敗する運命をたどるか、公共の利益を損なうと信じているように思われる。しかしこうした見方が真実でないのは明白だ。実際には、公共政策の効果とそれが最終的にどれだけ望ましいかは、動機でなく結果で判断される。

そこで当コラムの本題にたどりつく。つまり、世界経済の見通しは改善していて、なぜ多くのエコノミストや金融関係者はそれを認められないのかという問題だ。まずは、3月に当コラムがまさに予想した通りになった事例があるので説明しよう。それは、英政府が2015年3月の総選挙向けに狙った住宅価格の上昇と、借り入れに基づく消費が実際に起きるという見立てだった。

オズボーン財務相は3月20日の予算発表で、選挙対策の目玉となる住宅支援政策を打ち出した。住宅ローンの一定額に政府が保証を付与することなどで家計債務を13000億ポンドまで拡大させようというものだった。

財務相は全体的な経済運営の基礎を財政赤字と債務の削減に置き、予算演説では冒頭にキャメロン政権の「さらなる借金で借金を賄うことはできない」という常套句さえも盛り込んだ。それゆえに、英国の消費者に借金の拡大を促すのは論理が一貫せず、どう見ても偽善的とみなされた。また財務相が住宅ローンを借りるよう誘いを向けても、国民は選挙目当ての「餌」には食いつかないので、政策は失敗に終わるだろうとされた。

それから3カ月が経過し、こうした道徳を論じる伝統的行為が完全に間違っていたことが判明した。この支援制度が完全に始動するのは来年からだが、英国の住宅市場はもう息を吹き返したのだ。

不動産業者が今週公表した月例調査では、売上高の期待の大きさは05年以来で、過去15年の調査期間の中でも三番目だった。住宅建設関連株は高騰し、スコットランドなど住宅市況が低迷していた地域でも価格上昇率が07年以降で初めて2桁に達した。そしてバブル崩壊でも打撃を受けないロンドンの高級住宅街では、この支援策をどうやってバカンス用の別荘や投資向け不動産、子息のマンションなどの購入に活用するかが夕食時の話題になっている。

要するに15年の総選挙に合わせて住宅市場の借り入れの活況を作り出そうという財務相の見え見えの政治的な計画は、財務省やイングランド銀行(英中央銀行、BOE)の本格的な信用供与が始まる前に、既に効果を発揮しつつあるようだ。

足元の流れが続くと想定すれば、そしてそれが続くと信じるに足る理由しか存在しないが、新たな借り入れ資金の大部分が消費に向かって経済成長は加速し、失業率が低下、英国は選挙の時期までにかなり良好な経済状態を享受することになる。こうした好景気がキャメロン首相の再選につながれば、政権交代を望んでいた人々には悪い知らせをもたらす。また英国内では、住宅ブームによって多くのエコノミストが勧めるような輸出・投資主導への経済構造の転換が進まず、不動産投機と消費への依存に回帰してしまうのではないかとの懸念が生まれるだろう。

しかし住宅ブームが、キャメロン政権にとって政治的に当を得た方法であるかどうか、またそれが英経済の長期的な構造上プラスかマイナスかといった問題は、それが実際に起きるかどうかとは何の関係もない。必ず実現するはずの出来事と、起こる可能性が大きな出来事を峻別することを、エコノミストや金融関係者は驚くほどにためらう傾向がある。

同様に道徳面と分析上の判断の混同も、経済や金融の分野では世界中で見受けられる。ウォール街の多くの投資家は、株価は金融政策を通じた市場操作でつり上げられているので、上昇は続かないと信じている。彼らは市場操作を無責任、もしくは非道徳的とみなしているのだ。だが、そうした操作にもかかわらず、あるいは操作のおかげで強気相場は継続している。

ドイツでは政治アナリストの多くが、メルケル首相はユーロ支援を続けることは不可能だと論じている。なぜならそれは国内の有権者と、他の欧州諸国の政治指導者や金融市場に対してそれぞれ異なる発言をすることを意味するからだ。それでもこの偽善性にもかかわらず、あるいは偽善性のおかげでユーロは生き長らえている。

日本の安倍政権は物価上昇率を2%に引き上げる方針だが、長期金利が1%を超えるのを阻止しようとしている。これは皮肉なことに、貯蓄をしている人々に合理的な投資戦略を放棄するよう説得しない限り達成できない。ところがこの皮肉があっても、あるいは皮肉のおかげで日本経済が持ち直しているのは誰の目にも明らかだ。

話をまとめると、政府や中央銀行の政策に矛盾があったり多くの点で自己の利益を図る目的があるように見えても、経済状況は世界各地で徐々に改善しつつある。ただ、それは人間の行為がたどる当然の普通の道筋だ。世界経済が5年にわたる不振から抜け出し、無制限の紙幣増刷や政府による未曾有の借金に反応して次第に正常な状態に復するのに伴って、今回の当コラムが冒頭に記した言い回しを繰り返す価値が出てくるだろう。

皮肉に満ち、市場誘導的で、偽善的だが、それでも効果があるように見える、という表現だ。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKal Dragonomicsのチーフエコノミストも務める。

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