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コラム:イエレン次期議長で「日本化脱却」望めるか=熊野英生氏
2013年11月5日 / 08:33 / 4年前

コラム:イエレン次期議長で「日本化脱却」望めるか=熊野英生氏

米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和第3弾(QE3)縮小に着手する時期は、越年して2014年3月以降になりそうだ。来年2月には米議会で債務上限協議が始まるだろう。そこから、小刻みの上限改訂を繰り返せば、イエレン次期議長がQE3縮小を実行する時期はさらに遅れる。

そのとき、ドル円はどちらの方向に向かうのか。簡単な思考実験を行い、金融政策の効果を考えたい。

ケース1:雇用拡大がはっきりして、FRBが3月にQE3縮小に着手した場合、ドル円レートはどちらに動くか。答えは、ドル高・円安だろう。米長期金利は上昇して、日米金利差も拡大する。

ケース2:反対に雇用拡大が足踏みしていても、3月にQE3縮小に着手した場合、ドル安・円高に動くだろう。米長期金利は低下するとみられる。

ケース3:これが最も肝心なケースだが、雇用拡大が足踏みを続け、FRBがQE3縮小をずっと先送りした場合だ。このケースは、金融緩和としては妥当な判断だろうが、このときでも為替レートはドル高の反応にはならないだろう。おそらく、ドル安・円高だろう。

為替の先行きに関して、ドル高・円安になるのは、「雇用拡大がはっきりしていること」が条件になる(ケース1)。「雇用拡大が足踏みする」場合はともにドル安・円高である(ケース2とケース3)。

為替に大きな影響を与えるのは、一見、財政協議というイベントリスクやQE3縮小への着手ができるかどうかということに思えるが、実は一番重要なのは雇用情勢次第なのだ。雇用が強ければドル高で、雇用が弱ければドル安。イベントリスクに関係なく、米国経済の成長力がはっきりと表れれば、ドル高になる。

<金融緩和以外の合わせ技が必要>

為替を動かす要因は、金融緩和によって景気拡大がどのくらい実現できるかという影響力にほかならない。そう考えると、なぜバーナンキ議長はQE3縮小に着手できるほど十分な雇用拡大を実現することができなかったかという問題が突きつけられる。イエレン次期議長が問われるのは、まさしく金融政策効果を高めるための「次なる仕切り直し」になるだろう。

確かに、QE3がある程度の好影響を発揮したことは認める。株価は上昇して消費は拡大し、住宅市場にも好影響が及んだ。しかし、金融政策を非常事態対応から正常状態に戻すことはできず、インフレ率も加速しにくい状態が続いている。これは、米経済が多かれ少なかれ「日本化」しているとみるべきではないか。

ちょうど、欧州でもインフレ率の低下が顕著になり、欧州中央銀行(ECB)の利下げ観測が強まっている。米欧に共通する流れは、リーマンショックに見舞われた直後から景気悪化に財政刺激策で応じたが、結局、それだけでは持続的な景気拡大が取り戻せなかったことだと言える。

財政制約に直面し、景気刺激の軸足を大規模な金融緩和へと移行した。ただし、何度、大規模な金融緩和を行っても経済状態は元に戻らず、追加緩和パッケージの実行が繰り返される。日本は、ゼロ金利政策、量的緩和政策、包括緩和政策、量的・質的緩和政策と何度も金融緩和を衣替えして、それでもデフレを抜け出せないでいる。

イエレン次期議長に与えられた課題は、金融緩和効果をいかに高められるかだ。金融緩和は魔法の杖にはならず、地道に緩和手法を創意工夫するほかはない。QE3を延長するにせよ、いったんは打ち切るにせよ、金融緩和の見直しはそこで終わらない。労働市場の改善に効き目のある金融緩和策に手直しすることが求められる。

なお、米経済の現状を踏まえておくと、雇用拡大ペースこそ鈍いが、製造業分野ではISM製造業指数にみられるように7月以降はある程度の力強さを取り戻しつつある。問題は、製造業の改善が雇用拡大には今ひとつつながりにくい点だ。QE3の限界は、資産価格を押し上げる効果はあっても、成長率を持続的に持ち上げるまでに至らないところだ。

イエレン次期議長になって予想される対応は、FRBが何らかのフォワード・ガイダンスを設定して、超低金利をなるべく長期化させることを具体的に示すことである。引き締めに転じないという安心感を与えて、長期金利を相対的に押し下げておく効果をもたらす。ただし、フォワード・ガイダンスの役割だけでは、雇用拡大の裾野を広げる威力は乏しそうだ。課題解決に別の手段が必要になる。やはり、金融緩和以外の合わせ技で労働市場の健全化に取り組むことになるのだろう。

最後に、今後の為替レートを展望すると、少なくとも来年前半までは米経済が拡大する方向は変わらず、緩やかなドル高・円安基調とみる。景気拡大の流れは、金融市場のリスク許容度を高めて、リスク回避の円高へ向かわない作用をもたらすと考える。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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