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コラム:新興国混乱収拾へ、日米欧の「出来レース」=高島修氏
2014年2月12日 / 01:52 / 4年前

コラム:新興国混乱収拾へ、日米欧の「出来レース」=高島修氏

先月23日、アルゼンチン中銀が介入を停止し、ペソ相場が急落。急減中の外貨準備への懸念も高まり、不安心理が世界全体に伝播した。このアルゼンチン・ショックを受けて、新興国市場は昨年の春から秋にかけての下げを想起させる混乱となった。

市場で強く意識されているわけではないが、アルゼンチン・ショックと並ぶ、新興国混乱の理由はソチ冬季五輪ではなかろうか。ロシアからの地方分離・独立を目指すイスラム武装勢力「カフカス首長国」がソチ五輪攻撃を予告する声明などを出したこともあり、ロシアルーブルや株式市場は警戒感が高まる中で不安定感を強めた。中国で支払い停止に陥りかねない理財商品が出たことも、米連邦準備理事会(FRB)の量的緩和縮小(テーパリング)開始を受けて脆弱化していた市場心理の悪化を加速させた。

そもそも、今年は「フラジャイルファイブ」、あるいはその頭文字をとって「BIIST」と呼ばれるブラジル、インド、インドネシア、南アフリカ、トルコの新興5カ国に対する懸念が根強かった。経常赤字とインフレの問題に加え、今年はその5カ国全てで国政選挙が行われる。景気引き締め策はとりがたく、経常赤字やインフレに歯止めをかけるのが難しかろうと、市場に見透かされている感もあった。そこに伏兵のごとく現れたアルゼンチン、ロシア、中国が市場混乱の決定打となってしまった。

<伏線はルー米財務長官発言か>

一方、今回、新興国市場などが不安定化した伏線になったのは、先月16日のルー米財務長官の発言だったのではないかと筆者は勘ぐっている。その時、ルー長官は円安に懸念を表明し、日銀の追加緩和を牽制した。

FRBがテーパリングを始め、緩和巻き戻しから、ひいては引き締めに転じていくに当たって、日銀や欧州中央銀行(ECB)が金融緩和で上手く呼応できないと、市場環境は不安定化する時代に突入した。しかるに、先月29日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を控える中で、ルー長官発言によって日銀緩和期待が後退を余儀なくされたのである。

日銀は来週17日、18日に金融政策決定会合を開催するが、4月には消費増税が控えており、それを前にした駆け込み需要が経済指標を押し上げている。次回会合で景気見通しを突然、下方修正し、追加緩和を示唆するようなことは考えがたい。

そうなると、足元でFRBの緩和巻き戻しに対して金融緩和の強化で呼応し、市場を安定化させる役割を担うことができるのはECBだけということになる。実際、今月6日の理事会の際、ECBは緩和措置の導入こそ見送ったものの、ドラギ総裁は「行動の準備がある」と言明した。今月22日、23日にはシドニーで20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が開催される。恐らく、そこでの議論も踏まえて、来月にも何らかの追加緩和措置に踏み切るつもりだろう。

<日欧のデフレ対策が米出口戦略を可能に>

ここでよく受ける質問は、日銀やECBはFRBの出口戦略を支え、新興国を安定化させるために金融緩和するのか、という問いである。筆者が思うに、これは主客転倒した考え方だ。

そもそも日本はデフレに対する嫌悪感が臨界点に達し、アベノミクスを標榜する安倍政権が誕生。しかも今年、来年と消費増税という財政イベントを控え、黒田日銀は徹底した金融緩和を遂行する必要がある。

また、ユーロ圏はソブリン危機発生で統合通貨の構造問題が露呈。その是正と克服のために、昨年までに欧州安定メカニズム(ESM)などで財政同盟にはすでに足を踏み出したが、今年は銀行同盟を進めることになっている。それに伴って資産査定やストレステストが厳格化され、それが銀行のバランスシートを圧縮させ、デフレ圧力が高まりやすい素地にある。こうした中でECBも金融緩和の徹底が求められるようになってきている。日欧で金融緩和が徹底されやすい、それぞれの背景の下で、FRBが緩和巻き戻し、引き締め転換を図ることが許される環境が整ったと考える方が妥当だろう。

<グローバル・インバランス問題の遠因>

では、FRBの緩和巻き戻しに伴う新興国の混乱や危機は放置されるのだろうか。確かに、先月29日にFOMCがテーパリング継続を決めた際、FRBは声明文で新興国の苦境には一言も言及しなかった(それが市場の不安心理を増幅させた側面もある)。だが、筆者はそうは思わない。理由は2007年のサブプライム危機とその翌年に起きたリーマン危機だ。

世界的余剰貯蓄論を唱えたFRBのバーナンキ前議長をはじめ、国際金融当局者の間では、この戦後最悪の危機の底流の一つはグローバル・インバランス問題(米経常赤字をファイナンスしたアジアなど新興国の経常黒字拡大)であったとの認識が持たれている。

そして、そのグローバル・インバランス問題の遠因は1997年のアジア通貨危機であり、その際に米国と国際通貨基金(IMF)が十分な支援をしなかったことで、アジアをはじめとした新興国が自己防衛のために、通貨を安め誘導しながら、経常黒字と外貨準備をため込んだことにあると見られている。過去5年間、G20体制下で、世界経済の回復に加え、グローバル・インバランスの是正を強く訴え、新興国通貨高とその内需拡大を求めてきた理由である。昨年以降のように、新興国市場が混乱し、通貨下落とその防止のために実施される引き締め策によって新興国内需が失速することは、米欧日を含めた国際通貨当局者が最も見たくないものであるはずだ。

<市場救済のバトンは米国から日欧へ>

したがって、政策当局者たちは今、米緩和巻き戻しと新興国市場の安定をどう両立するかということに腐心しているはずだ。2年ほど前まで、FRBが緩和を続けていた間は、そこから発生するドル安圧力を、新興諸国に自国通貨高として受け入れさせるために、日本は円高を受容することが求められた(日本が円高を受け入れれば、韓国や台湾、中国が通貨高を受け入れやすくなり、新興国通貨全体の上昇が促されやすい)。

だが、FRBが緩和巻き戻しに着手し、新興国市場などが不安定化しやすくなった今、日銀の金融緩和とそれに伴う円安をめぐる国際環境は一変する。大なり小なり、新興国市場(や世界的な株式市場)の安定に貢献するのであれば、日銀の金融緩和は米国を含め世界的にも歓迎され、それに対する円安は黙認されやすくなると考えられる。ECBの金融緩和とそれに伴うであろうユーロ安もまた然りだ。要するに、FRBがFOMC声明で新興国への言及を見送ったことは、新興国を見殺しにするとのメッセージではなく、ECBと日銀に市場救済のバトンを渡した「含意」と捉えるべきだと筆者は思う。

最後に今年のドル円の見通しを言い添えれば、まずはECBの緩和措置を受けて、100円を割り込む前に底入れし、その後、4月頃からは改めて日銀の緩和期待が膨らみ始める中で105円台を突破する上昇となり、実際に日銀の追加緩和が実施されると予想される6―7月頃に108―110円台で天井をつけにいくと見ている。先月のFRBのテーパリング継続と今回の新興国の動揺でこのストーリーの蓋然性はむしろ一段と強まったとさえ考えている。

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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