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焦点:原発再稼働へ蘇る「安全神話」、突貫作業で新規制基準
2013年7月8日 / 05:08 / 4年前

焦点:原発再稼働へ蘇る「安全神話」、突貫作業で新規制基準

7月8日、東京電力の福島第1原発事故発生の温床となった「安全神話」が息を吹き返している、との指摘が専門家の一部から出ている。写真は東電が再稼働方針を取締役会で決議した柏崎刈羽原発。新潟県で昨年11月撮影(2013年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 8日 ロイター] - 東京電力(9501.T)福島第1原発事故発生の温床となった「安全神話」が息を吹き返している、との指摘が専門家の一部から出ている。実質的に半年あまりの突貫作業で仕上げて8日に施行された新規制基準について、「穴だらけ」との声も挙がっている。

しかし、原子力規制委員会の田中俊一委員長は「世界一厳しい」と反論している。規制委の背後には安倍政権からの強い圧力があるとの見方も聞かれる中、田中氏が唱える「安全文化」が定着するのか、注目を集める新しい原子力政策が始まった。

<泉田知事、古巣から標的>

「なぜ急ぐのか」─。新潟県の泉田裕彦知事は今月5日、柏崎刈羽原発の再稼働方針の説明で訪れた東電の広瀬直己社長を問い詰めた。3日前に東電は柏崎刈羽原発の再稼働方針を取締役会で決議。8日の新規制基準施行後、「速やかに申請したい」(広瀬氏)と記者会見で表明した。

だが、厳しい会談になることは予想された通りだった。泉田氏の射貫くような視線を受けて、広瀬氏は「反省すべき点があった」などと懸命に弁明する一方で、「再稼働申請の前に県の事前了解をとるのか」と迫る知事に確約はしなかった。

6月の段階で泉田知事は、県の了解なく再稼働申請を行った場合、「信頼関係を壊す」との警告を発していた。だが、3年連続経常赤字回避に努力する姿勢を銀行団に示す必要がある東電は、社外取締役を中心に再稼働に向けて強行突破を図った。

元経済産業官僚の古賀茂明氏は、古巣の後輩である泉田知事に対する包囲網が形成されていると述べる。「泉田裕彦は経産省で出来が悪くて知事に転出した。省内で出世できなかったことを根に持って抵抗している、というストーリーを経産省がこの1年間、ずっと流している」と古賀氏は指摘する。

<泉田知事が批判する新基準の中身>

泉田知事が広瀬氏との会談で繰り返した「なぜ急ぐのか」という疑問は、規制委員会にも向けられている。

昨年9月19日に規制委が発足して以来、今年1月末には基準の骨子案が示され、4月上旬には新基準の条文案が公表された。

こうした動きに対して、泉田知事は「福島第1原発事故の検証・総括が不十分」とし、規制委がまとめた災害対策指針についても「地元の声を反映していない」などと批判を続けている。

一方、田中委員長は「(泉田氏の発言は)かなり個性的」と応戦、包囲網に加わった格好だ。

<米国の規制ガイドに似ているとの指摘>

規制基準作りで中心的役割を果たした規制委の更田豊志委員は、作業について「普通に考えれば5年はかかる」とみていたが、改正原子炉等規制法に新基準策定は規制委の発足から10カ月以内と定められ、突貫作業を余儀なくされた。

原発メーカー、米ゼネラル・エレクトリック(GE.N)でエンジニアとして長年勤務した経験を持つ原子力コンサルタントの佐藤暁氏は、新基準について「骨子案に評価ガイドや審査ガイドが加わった。ただ、中身をみると米国の規制ガイドの真似で、しかも中身が貧弱だ」と指摘する。

福島事故以前に政府が原発輸出を強化していたころ、日本の規制インフラが完備していないことが政府内で問題になり、同氏は「日本のものでは世界に通用しないから、米国の真似をするしかない」と提案したという。

米国の規制体系は、1)原子力に関する連邦規則集、2)一般設計指針、3)規制ガイド、4)標準審査指針─で構成されている。

日本の新規制基準は全体で約3000頁の分量だが、「米国は、規制ガイド、スタンダード・レビュー・プラン(標準審査指針)でそれぞれ1万頁くらいある」(佐藤氏)と、日米格差は歴然としている。

新基準の問題点とは何か。佐藤氏は「挙げればきりがないが、例えば地震の扱いだ。欧州や米国では1万年、10万年に1回起こるような大地震を基準にして設計するとある。日本では、2005年以降4回、5つの原発で基準地震動を超える揺れがあったにもかかららず、新基準は実質的に以前から何も変わっていない」と批判する。

<政治の圧力で交錯する観測>

田中委員長は、発足以来、新基準作りを含む規制委の運営について、「科学的判断に立脚する。政治や経済の要請はしん酌しない」との姿勢を繰り返し強調してきた。ただ、古賀氏によると実情は異なる。

「規制委員会の関係者からも情報は入っているが、圧力だらけ。(厳しい規制は)どんどん後退している。委員の一部も認めている。(政治家が)委員には直接言わないが、基準作りが遅れたら遅れるだけ非難されると、事務方から委員に上げていく」(古賀氏)という。

円安政策をとる安倍政権にとって、液化天然ガス(LNG)などの燃料費負担が増大する原発停止の長期化は大きな懸念材料に違いない。「日本経済の命運を決めるのはあなた方、という圧力のかけ方だ」と古賀氏は語る。

<原発政策の過去を知る関係者の証言>

黎明期から原子力開発の現場を知る笠井篤氏がロイターの取材に応じた。同氏は1959年(昭和34年)、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)に研究員として入所。「時の政府からの圧力は過去からずっと有形無形であった」と語る。同氏の同僚が、福島第1原発や関西電力(9503.T)美浜原発の問題を指摘した論文を学会発表した際に、「(政治から)猛烈な圧力があった」という。

放射線防護が専門だという笠井氏。「事故が起きた時にどうすべきかという研究をしてきた。原研が唯一、安全性の研究をしていた。原発は事故が起きないはずなのに、なぜ事故が起きる研究をするのかと大蔵省(当時)から言われ、予算は削られ、人も付けてくれなかった。国の政策に反対するような研究所はつぶしてしまえと、自民党の人たちにはっきりいわれた」と、当時の状況を語る。

若い研究者を守ったのが、原子物理学の第一人者で、笠井氏が入所当時の原研理事長だった菊池正士博士だ。「菊池さんは国の圧力はけしからんと体を張って研究者を守ってくれた。国会に何度も召喚されて、結局更迭されてしまった」という。

笠井氏は福島事故後から現在に至る状況について、「東電と泉田知事の会合をみると、安全神話の復活どころではなく、それ以前のレベルだ。地元の意見を聞くべきなのに、政権をバックにゴリ押ししている。事故以前の体質と変わっていない」と話した。

原子力コンサルタントの佐藤氏もまた、安全神話の復活に懸念を示す。「5年、10年、何事もなく過ぎていく可能性は十分にある。本当に怖いのは、そんなものかと考える10年後、20年後の人たちのことだ」と述べている。

(浜田健太郎 取材協力 前田りさ 編集;田巻 一彦)

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