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焦点:エジプトめぐる米大統領の「誤算」、消え行く影響力
2013年8月17日 / 04:32 / 4年後

焦点:エジプトめぐる米大統領の「誤算」、消え行く影響力

[ワシントン 15日 ロイター] - エジプトの治安部隊によるデモ隊強制排除で多数の死者が出たことを受けて、オバマ米大統領は15日、来月のエジプト軍との合同軍事演習を中止すると発表した。大統領はこの発表でエジプト当局の強硬策に不快感を示したが、軍への支援凍結にまでは踏み込まなかった。

8月15日、エジプトの治安部隊によるデモ隊強制排除で多数の死者が出たことを受けて、オバマ米大統領は、来月のエジプト軍との合同軍事演習を中止すると発表した(2013年 ロイター/Larry Downing)

エジプト保健・人口省によると、モルシ前大統領を支持するデモ隊の強制排除などでは少なくとも623人が死亡。この他、数千人の負傷者が出ている。

専門家らは、オバマ大統領の方針が不十分で遅きに失しており、米政権が混乱したメッセージを投じ続けていると指摘。米国の中東専門家でつくる超党派グループ「Working Group on Egypt」は声明で、大統領がエジプト軍への支援を凍結しなかったことは、「(エジプト情勢における米国の)目標を損なわせ、米国への信頼性を弱める戦略上の失策だ」と批判した。

オバマ大統領の発表について、複数の元米当局者は、エジプトで最初の自由選挙で選ばれたモルシ氏の失脚以来続けてきた大統領のバランス重視の対応を反映したものだと分析。米国はこの失脚劇をモルシ氏復帰を求めないことで事態を黙認しているとされている。

ホワイトハウスはこれまでのところ、エジプトの民主主義への支援姿勢を示そうとしながらも、一方でエジプトにおける安定、同国とイスラエルとの平和条約、そしてスエズ運河の特権的使用を含む米国との軍事協力による戦略的利益も守ろうとしている。

米国からエジプト軍への支援額は年間13億ドル(約1270億円)にも上るが、オバマ大統領が軍への支援凍結ではなく合同軍事演習の中止を発表したことには、大統領がエジプト軍幹部とのつながりを維持しておきたいとの期待が透けて見える。

<合同演習中止の意味>

ある米軍元幹部は、戦車を中心としたエジプトとの合同軍事演習が時代遅れとなっていることから、かなり以前から米国にとって重要なものではなくなっていたと明かす。元幹部は軍事演習の中止発表について、「見栄えはするが、それによる影響は全くない」と言明。また別の元当局者も、この演習中止は「(エジプト)軍との関係に損害を与えない便利な手段」だと語る。

ヘーゲル米国防長官も15日に声明を出し、エジプト軍トップのシシ国防相との電話会談で、デモ隊の強制排除によりエジプトとの防衛協力が危機にさらされていると警告したことを明かしたが、他方で米国がエジプトとの軍事関係を維持する考えも示した。

複数の元米当局者は匿名を条件に、オバマ政権がエジプト軍幹部に対して影響力はほとんど行使できないと結論付けたのではないかと指摘。また、前出の元当局者は「(エジプト軍幹部らが)自らの利益のために事態をコントロールし、統制すると決断したと考えている」と述べた。

エジプト政府は16日の声明で、オバマ米大統領がデモ排除を非難したことについて「事実」に基づいていないと反論し、暴力的な集団を勢い付かせると批判した。

<湾岸アラブ諸国の後ろ盾>

もう1人の米元高官は、今回の事態について「エジプト軍が自らの存在に関わる闘争だととらえている」と語る。同氏によると、「米国の支援は望ましいが、存在に関わるものではない」という。

こうした元高官らは、エジプト軍がサウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦(UAE)など主要な湾岸アラブ諸国の後ろ盾を得ていると指摘。アラブ諸国がエジプト暫定政権に約束した財政支援は、総額約120億ドルにも上っている。

また、UAE外務省は15日、ウェブサイトで公開した声明で、エジプト政府の対応を「最大限の自制の末に取った主権に基づく措置」として支持する考えを表明。さらに、過激な政治組織が暴力的な言動や公共の利益の破壊などを主張し、それが悲劇的な結果につながったとの見方も示した。

<綱渡りかカミソリか>

米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」のハリリ中東センター上級研究員で、Working Group on Egyptのメンバーであるエイミー・ホーソン氏は、今回の強制排除へのオバマ政権の対応が不十分で、混乱したメッセージを送ったと語る。

米国務省に務めた経歴を持つホーソン氏は、オバマ大統領が今後どの方向にでも進めよう慎重に道を歩もうとしていると指摘。ただ、「われわれはある時点で、事態をよりはっきりと見つめる必要がある。米政権の現在のアプローチは機能しておらず、より強いメッセージを送るために別のことを試みるべきだ」とも語る。

最初に登場した元当局者は、米政府がエジプト情勢をめぐり中立の立場を取ろうとすることで、全ての主な当事者から距離を置いてきたと言う。

この人物は、「米国は民主主義の立場で軍から距離を置き、利益の立場でムスリム同胞団から距離を取った」と述べ、「不幸にもその細い道を進もうとすることは、オバマ大統領にとって綱渡りではなく、カミソリの刃となってしまった」と話した。

(ロイター日本語サービス 原文:Arshad Mohammed、Lesley Wroughton、翻訳:橋本俊樹、編集:宮井伸明)

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