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コラム:米英への不信示したメルケル首相の「過ち」
2017年6月7日 / 02:04 / 4ヶ月前

コラム:米英への不信示したメルケル首相の「過ち」

 6月2日、ドイツのメルケル首相(写真中央)は、もはや米国も英国も信用していない。写真は5月26日、G7首脳会議が行われたイタリアのシチリア島でトランプ米大統領夫妻に話しかける同首相(2017年 ロイター/Philippe Wojazer)

[2日 ロイター] - ドイツのメルケル首相は、もはや米国も英国も信用していない。5月28日、バイエルン州での選挙遊説で同首相はこの2つの「アングロサクソン国家」との距離感を示し、「私たち欧州人は、本当に、自分たちの運命をこの手に取り戻さなければならない」と聴衆に訴えた。

ドイツの評論家たちはすかさず、この演説の過激さが強調され過ぎていると指摘した。「米国の参加を維持することは欧州にとって重要な関心事だ」と欧州情勢の専門家ウルリッヒ・スペック氏はフィナンシャル・タイムズ紙に記した。メルケル首相には「現在の欧米関係を他の何かで代替しようという野心はない」と述べている。

確かにメルケル首相は、自らの発言に条件を加えている。すなわち、米国と英国を「全面的に」頼りにすることはできず、またそうすることのできた時代は「ある意味で」終わってしまった、と言うのだ。

メルケル首相は9月に連邦議会(下院)選挙を控えている。彼女が率いる保守派のキリスト教民主同盟(CDU)は、5月に行われた重要な州議会選挙で予想外の勝利を収めただけでなく、全国規模の世論調査においては、中道左派の社会民主党に数ポイントの差をつけている。とはいえ、勝利確実だと安心はできない。

メルケル首相が北大西洋条約機構(NATO)を見限ることはないだろうし、そんな様子も見られない。だが、ドイツがNATO及び軍事に投じている費用は、本来あるべき水準よりも「大幅に少ない」との批判をツイートするようなトランプ大統領に対して、彼女が好意的であるという印象を与えるわけにはいかないのだ。

メルケル首相がいつになく不注意であったとしても、トランプ大統領が西側諸国の同盟にとって脅威であるというシグナルを送ったことは正しい。だが、それを実際に口にしたことは、深まりつつある対立を悪化させかねず、失敗だったと言える。

また、英国の欧州連合(EU)離脱を、それと同じ扱いにしたことも大きな間違いだった。

世論調査におけるCDUの優勢、また中道派エマニュエル・マクロン氏がフランス大統領選で勝利したことでEU中枢における仏独両国の主導権が復活するという展望に勇気づけられ、メルケル首相は、EU弱体化につながる英国の決断を裏切りに近いものと見ているに違いない。

だが、「われわれはEUを出ていくが、欧州から出ていくわけではない」という英国のメイ首相からメルケル首相に向けられた返答は、真実のメッセージのように思われる。

欧州の至るところで、政治家や有識者たちは、ブレグジット(英国のEU離脱)とトランプ政権を「ポピュリストの恐怖」という一括りの概念でまとめ、(もちろん比喩的にだが)それに唾を吐きかけている。広範な英国批判には、傲慢な英国人というお馴染みの固定観念も作用している。

だが、ブレグジットとトランプリズムは別物だ。

EU離脱は経済的に見れば恐らく大きな失敗に終わる可能性が高いが、非民主的な要素はない。その原動力は、経済だけでなく政治においてもどこか主権を奪われていると感じている市民たちだった。政治には透明性が必要であり、好き嫌いはともかく自分たちの知っている人間が代表を務めるべきであり、政治プロセスの前提条件と結果は明確でなければならない、と彼らは主張する。

 6月2日、ドイツのメルケル首相(写真中央)は、もはや米国も英国も信用していない。写真は5月26日、イタリアのシチリア島で行われたG7首脳会議に参加した英国のメイ首相(左)、トランプ米大統領(中央)とメルケル首相。代表撮影(2017年 ロイター)

いずれも、EUには期待できない点だ。多くのトランプ支持者と違って、英国のブレグジット支持者は中央政界との戦いを望んだわけではない。むしろ逆に、自国の下院が、再び英国の政治的な中心として復活してほしいと願ったのである。

また、ブレグジットによって、英国は閉鎖的な地域社会だというイメージはさらに強まったが、これも話の種としても適切ではないし、事実に裏付けられてもいない。

保守党政権はブレグジット支持者の懸念に応え、移民の受け入れを数万人規模に減らすことを約束しているが、移民が英国経済だけでなく英国社会にもメリットをもたらすという認識は変わっていない。

最新データによれば、英国に対する移民の純流入は、2016年だけで25万人近くに達している。他の欧州諸国と比べると、英国は、欧州の大国であるフランス、スペイン、イタリアよりも外国生まれの移民を多く受け入れている。だが、欧州の最大国であるドイツよりは少なく、スウェーデン、オーストリア、アイルランドと比べても少ない。

何万人もの移民のほぼすべては、英国の地元住民から(ほとんど歓迎もされない場合もあるとはいえ)ほぼ反発を受けることなく、地域社会や職場に溶け込んでいる。

ロンドンは世界で最も民族的に多様な都市の1つであり、パキスタン系英国人で、労働者階級出身のサディク・カーン市長の人気は高い。英国第2の都市バーミンガムでは人口の4分の1が外国生まれであり、学童の3分の2は非白人である。

こうした人口構成に対する反応は、必ずしも穏健なものではない。2011年にはロンドン、バーミンガムなど広い範囲で暴動が発生し、大きな損害を与えた。だがほとんどの人々は、こうした暴力行為が人種差別によるものだとは考えていない。地域の民族構成を反映して、暴動が黒人中心だった地区もあれば、白人中心だった地区もある。

英国政府で国際開発相を務め、熱心なブレグジット支持者であるプリティ・パテル氏は、アジア系ウガンダ人の家庭に生まれた。国会議員にはアフリカ出身者が12人いる。そのうち2人、労働党のチュカ・ウムンナ議員、保守党のアダム・アフリイェ議員は、それぞれの党の党首候補として有力視されている。

とはいえ、英国が移民にとってのパラダイスだというわけではない。移民規制は急速に厳しくなっており、違法移民に対しては、各都市を巡回する拡声器付きのワゴン車から、「本国に帰らなければ逮捕される」という警告が発せられている。また、民族的・宗教的マイノリティに対する攻撃も増加しており、ブレグジットと労働党内の反ユダヤ主義の双方に原因があるとされている。

こうしたトレンドはよろしくない。だが、それは欧州全体についても言えることだ。英国は、人種差別という面においては、大半の国よりは穏健であるとはいえ、やはり欧州の他国と変わりはない。

英国は多様な国であり、その多様性は今後も維持され、ときに過ちはあっても、相対的には寛容な場所でありつづけるだろう。そして英国は欧州の「中に」残るだろう。選択の余地はない。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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