〔特集:長期金利の行方(1)〕遠い2%までの距離、日本の特殊性に頼る市場
[東京 22日 ロイター] 欧米市場の金融動向に引きずられ日本でも長期金利が予想外に跳ね上がり、かすかに見えてきた景気回復の芽を摘むことはないのか──市場関係者が金利シナリオを描くときに常に意識する問題だ。これまで日本の債券市場は豊富な国内資金で消化されているという「特殊性」から、金利上昇圧力は抑えられてきたが、政権交代や第2次補正予算編成の可能性など読み切れない事態が迫っている。
日本の長期金利は上昇傾向を続けるのか、あるいは逆に「特殊性」を武器に低下を模索するのか、年末までの金利見通しについて債券市場関係者の考えを聞いた。
<リスクは財政支出の拡大、それでも1.8%>
市場関係者は先を読む上で、ファンダメンタルズと財政プレミアムが焦点としてみている。年末に向けて金利の低下を見込む参加者は、ファンダメンタルズの悪化に着目する。足元は景気の悪化に歯止めがかかり日銀の景気判断も最悪期を脱したが、今後の回復度合いは弱くならざるを得ない。生産などの改善はみられるものの、雇用、家計など最終需要の回復には時間がかかり、再びデフレ圧力が強まるという慎重な見方も根強く残る。
三菱UFJ証券・チーフ債券ストラテジストの石井純氏は「国債の増発による潜在的な金利上昇圧力よりも、ファンダメンタルズの低迷、あるいは日銀の金融緩和政策の長期化、その背景にあるデフレ圧力の強まりの要因の方が若干勝ることになる」としたうえで、年末までの長期金利のレンジ下限を1.2%、場合によっては1.1%と見込んでいる。
日興シティグループ証券・チーフストラテジストの佐野一彦氏も、年末にかけては景気回復よりも来年の景気の減速がポイントとなるとみており、年末には財政支出の規模も見えてくる見通しであることから「金融機関が潤沢な運用資金を持ち、需給不安が払しょくされ、景気減速となれば金利が下がるのが自然だろう」と予想している。
一方、金利の上昇を見込む声も少なくない。その大きな理由として、景気の低迷によって年末にかけて一段の財政支出拡大を迫られる可能性があげられている。解散・総選挙を経て新政権が追加の景気対策を出してくる可能性も高く「税収不足対応の赤字国債も第2次補正予算で発行されるとみており、来年度予算が組まれる12月には、金利の一段の上昇もありえる」(大和証券SMBC・チーフストラテジスト、末澤豪謙氏)との見方だ。
景気の低迷と相次ぐ景気対策、その結果としての国債の供給増をマーケットがどこまで消化できるのか、需給悪化は常にリスク要因として警戒されている。末澤氏は長期金利の上限レンジを6人中、もっとも高い1.8%と予想している。
ただ、それでも2%の壁は遠い。その理由は、豊富な投資資金を抱え込んだ投資家の存在がある。
<国債増発、投資家に収益チャンスも>
国債発行は7月の発行分から各年限で増発となる。増発を心理的に織り込んでいるとはいえ、実際にマーケットで消化するものが増えた段階で金利形成に影響が出る可能性は否めない。荷もたれ感が生じれば金利は上昇傾向となるが、むしろ金利上昇を好感する投資家からの買い意欲が勝り、金利低下の契機になると見込む声も多い。
これまで多くの投資家は増発を懸念して短期の投資に重点を置いていたが「こうした資金がより長いところにシフトする可能性がある上、超長期債を買う生保なども増発による利回り上昇を待っている」(日興シティグループ証券・佐野氏)。UBS証券・チーフストラテジストの道家映二氏も「マーケットがベアスティープに備えてきたことと、6月は償還が多いのでこの分の資金が国債投資に回ることを考えると、マーケットは7月の増発は消化できるだろう」との見通しを示した。
BNPパリバ証券・チーフストラテジストの島本幸治氏は、先だっての主要8カ国(G8)財務相会合で出口論を検討しようという議論が出てきたことによって、流動性相場が継続する期待感が後退したと指摘。今後の経済指標の大幅な改善も見込めないことから「流動性相場の一服に加えて景況感が慎重化する可能性があり、しばらくは金利低下圧力が出てくることになるだろう」とみている。
夏場にかけての一時的な金利低下をイメージする市場参加者の、長期金利見通しのレンジ下限は1.3%。他方、基調としての金利低下を見込む向きは下限を1.1─1.2%としており、見方が分かれた。
<日銀は緩和政策を継続、早ければ8月の買い切り増額も視野>
日銀の金融政策運営に関しては、年内は緩和方向との見通しで一致している。一部の経済指標には改善の兆しは見えているものの、物価が下落を続けているうちは金利正常化の議論にいたるのは難しく、各国が積極的に流動性を供給する「異例の措置」から脱却するべく出口論が講じられるのも、来年度以降だとみられている。多くの参加者は政策金利の現状維持と見込んではいるが、金利変更するとすれば利上げよりは利下げの可能性のほうが高いと予想している。
政策金利の変更よりもより現実的なのは、信用リスクへの警戒を緩めずに企業金融支援特別オペなど企業金融を支える資金供給オペなどを継続することだ。さらに、景気の低迷、税収不足による国債増発で金利に上昇圧力がかかり、米景気回複度合いの弱さ、円高の進行が進めば「年後半にも追加緩和措置の検討を迫られかねない。国債買い切りの再増額や時間軸なども、選択肢になりえるのではないか」(みずほ証券・チーフストラテジスト、高田創氏)という。
また、7月の増発をこなすことができても、今後、税収不足や新たな景気対策の代償として国債の発行増が市場の負担となってくる可能性は否めない。早ければ国債増発によって供給過多となる8月近辺にも、日銀が国債買い切りオペの増額に踏み切るとの見通しも複数あった。
(ロイター日本語ニュース 田中志保記者; 取材協力 山口貴也記者、伊藤武文記者; 編集 橋本浩 ロイターメッセージング:
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