Reuters logo
オピニオン:カタルーニャ独立騒動の終着点=吉田健一郎氏
2017年10月6日 / 10:06 / 8日後

オピニオン:カタルーニャ独立騒動の終着点=吉田健一郎氏

[東京 6日] - 10月1日の住民投票で再び火が付いたスペイン北東部カタルーニャ自治州の独立問題は、歴史的経緯や政治的対立構図の根の深さを考えると、中央・自治政府双方とも安易な妥協は難しく、先行き不透明な状態が長期化する可能性が高いと、みずほ総合研究所の吉田健一郎・上席主任エコノミストは指摘する。

最悪のシナリオは、政治的対峙が続く中で、独立賛成派と反対派あるいはデモ隊と警官隊の衝突などが頻発し、政情が不安定化することであり、その場合、スペイン経済への深刻な影響が懸念されるとみる。

ただし、欧州全体では、ユーロ圏の金融安定網である欧州安定メカニズム(ESM)が整備されているうえ、各国経済の耐久力が上昇していることから、スペインの政情がよほどの混乱に陥らない限り、2012年の債務危機再来は杞憂だと説く。

同氏の見解は以下の通り。

<2つのシナリオ>

カタルーニャ独立問題の行方は、いわずもがな、プチデモン州首相が率いる現在の自治政府が本当にスペインからの独立の意思を貫くつもりでいるのか、それとも自治権の拡大を落としどころに考えているのかによって、劇的に変わる。

前者の場合、出口の見えない深刻な事態に陥りかねない。ラホイ首相率いる国政与党・国民党および中央政府はカタルーニャ自治政府に対して再三、独立プロセスを停止するように求めている。カタルーニャ州議会が2016年に承認した3段階の独立ロードマップによれば、住民投票で独立支持が多数を占めた場合は、速やかに独立宣言を行い、その6カ月以内に憲法制定議会選挙、そして憲法承認住民投票を実施するとしている。

10月1日に強行された住民投票は9割が独立賛成という結果となった。これを受けて、いずれ独立宣言が行われるならば、スペイン中央政府はカタルーニャの自治権停止を可能にする憲法155条発動で応戦するとみられる(プチデモン州首相は10日には、いったん正式な独立宣言を延期すると発表した)。

独立宣言が今後行われた場合、中央政府は警察権などを直接掌握し、州議会の解散・選挙に踏み切る可能性がある。独立賛成派と反対派、デモ隊と警察の衝突など深刻な事態も懸念される。州議会選挙は実質的に独立の是非を問う住民投票となることから、中央政府にとっても大きな賭けと言えるだろう。

一方、後者の場合、カタルーニャ自治政府の独立プロセス停止とスペイン政府の自治権拡大容認が取引材料となるだろう。このシナリオでも、プチデモン州首相の辞任や州議会の解散選挙の可能性は残るが、相対的には平和裏の危機収束が期待できる。

<実は独立の賛否は拮抗>

では、どちらのシナリオをたどる可能性が高いのか。現時点では、どちらにも転び得るとみるしかない。希望的観測で言えば後者だが、歴史的経緯や現在のスペイン国民党政権とカタルーニャ自治政府の対立の根の深さを考えれば、前者のリスクシナリオも十分にあり得る。

そもそもカタルーニャ独立運動の起源は古く、スペイン王国に占領され、独自法や自治権を喪失したのは18世紀初頭のことだ。その後、20世紀に入り、フランコ政権による徹底的な弾圧も経験した。フランコ体制が1970年代半ばまで続いたことを思えば、「暗黒時代」の記憶は多くの人々にとってまだ生々しいものだろう。

さらに追い打ちをかけるように、フランコ政権の流れをくむ国民党とのあいだで近年、対立が先鋭化してきたことがある。2006年にカタルーニャ州議会が可決した改正自治憲章は、当時の国政与党・社会労働党のお墨付きを得て、まとめたものだったが、それにかみついたのが憲法裁に提訴した当時の野党・国民党だった。憲法裁が改正自治憲章に対して違憲判決を下し、カタルーニャでの大規模なデモに発展したことは記憶に新しい。

その後、国政を握った国民党は、カタルーニャ自治政府が計画していた独立の是非を問う住民投票に待ったをかけ、2014年に非公式に実施された投票に対しても、違憲判決が下されるに至った。こうした流れを経てもなお今回住民投票を強行したカタルーニャ自治政府が、振り上げた拳(こぶし)をすぐさま下ろすとは考えにくい。

ただ、カタルーニャ自体、実は独立支持一色ではない点には留意したい。独立賛成が9割だったとはいえ、今回の住民投票の投票率は50%に届かなかった。世論調査によれば、依然として独立賛成と反対は拮抗している。次のカタルーニャ州議会選挙で、独立賛成派が勝つとは限らない。反対派が盛り返せば、独立プロセスの自発的停止はあり得る。

むろん、独立反対派の勝利を呼び込むためには、スペイン政府は自治権拡大という「アメ」の提示を余儀なくされそうだ。要するに、前者のリスクシナリオをたどるとしても、スペイン政府が自治権で譲歩するのは避けられない状況だと思われる。

<スペイン分裂は杞憂>

もっとも、カタルーニャ独立問題の再燃で、スペイン分裂の危機まで想起するのは、やや行き過ぎだろう。確かに、カタルーニャ自治政府の行動がバスクなど同国の他地域でくすぶる独立運動を勢いづかせる可能性はあるが、いずれの地域もスペインからの分離独立は経済面で合理的な判断とは言えないうえ、欧州連合(EU)も「(カタルーニャ自治州の独立宣言は)欧州の法秩序に反し、必ず危険な分断を招く」(タヤーニ欧州議会議長声明)と釘を刺している。

EUの公式スタンスは、「もしスペイン国憲法に則った形で住民投票が行われた場合、同国を離脱する地域はEU域外に置かれることとなる」というものだが、ここから読み取れるメッセージは2つだ。第1に、国家として認められるためには、スペイン国憲法に則った住民投票でなければならないこと。第2に、憲法に則った住民投票で独立が決まってもEU加盟は別問題であるということだ。二重の意味で高いハードルを設けていると言える。

EU域内への自由なアクセスを断たれれば、いくら州都バルセロナを擁し、スペインの国内総生産(GDP)の2割程度を占めるとはいえ、独立後の経済運営が極めて厳しいことは、プチデモン州首相以下、カタルーニャ自治政府もよくわかっているはずだ。

とどのつまり、独立派にとっても、最良の落としどころは自治権拡大だろう。その場合、カタルーニャが感じている最大の不公平感が税負担とその受益の不均衡にあることを考えれば、徴税権など財政運営面での自治権拡大が最大の眼目になるのではないか。スペイン政府にとっては、税収の悪化要因だが、事態をこれ以上深刻化させないために、いずれは飲まざるを得なくなる可能性が高い。ちなみに、バスク地方に対しては自主的徴税権を認めている。

問題は、双方がその落としどころに至るまでに、どれくらいの歳月がかかるかだ。その過程で、政情不安が高まるようなことがあれば、景況感が悪化し、スペイン経済の足腰を弱める可能性はあるだろう。ただし、金利急上昇によってソブリンリスクの再燃にまでつながるような事態は、現時点では想定し難い。

また、欧州全体で見れば、ユーロ圏の金融安定網である欧州安定メカニズム(ESM)が整備されているうえ、経常収支・財政収支といった経済面でもユーロ圏各国の危機に対する耐久力は上昇している。スペイン内政がよほどの混乱に陥らない限り、2012年のような欧州債務危機再来の心配は無用だろう。

要するに、カタルーニャ独立問題がスペイン景気を悪化させ、さらに欧州経済全体を冷え込ませるような危機の伝播は、現時点では蓋然(がいぜん)性の低いリスクシナリオであるように思う。

*本稿は、吉田健一郎氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

(聞き手:麻生祐司)

*吉田健一郎氏は、みずほ総合研究所・欧米調査部の上席主任エコノミスト。1996年一橋大学商学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)入行。対顧客為替ディーラーを経て、04年より、みずほ総合研究所に出向。エコノミストとして08年―14年にロンドン駐在。ロンドン大学修士(経済学)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムおよびオピニオンコーナーに掲載されたものです。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below