Reuters logo
オピニオン:大統領選後もドル高が続く条件=チャンドラー氏
2016年5月30日 / 08:56 / 1年前

オピニオン:大統領選後もドル高が続く条件=チャンドラー氏

[東京 30日] - 日米金融政策のダイバージェンス(かい離)は健在であり、ドル円相場は今後、1ドル=100円に向かうよりも、むしろ105円―115円のレンジを中心に当面推移する可能性が高いと、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨戦略最高責任者、マーク・チャンドラー氏は語る。

 5月30日、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨戦略最高責任者、チャンドラー氏は、大統領選後の為替見通しについて、テキサス州出身の財務長官が任命された場合、ドル安が進みやすいという経験則には注意が必要だと指摘。写真は支持者から渡された5ドル札にサインをするトランプ氏。サウスカロライナ州で2月撮影(2016年 ロイター/Jonathan Ernst)

米大統領選挙の影響については、ドナルド・トランプ氏、ヒラリー・クリントン氏ら共和・民主両党の筆頭候補のどちらが勝利しても、財政支出拡大・金融引き締めのポリシーミックスが追求される公算が大きく、ドル安要因とはならないと分析。ただし、保護主義の高まりに伴う海外勢のドル資産売却リスク、また仮にテキサス州出身の財務長官が任命された場合、ドル安政策が志向されやすいという経験則には注意が必要だと説く。

同氏の見解は以下の通り。

<7月にも米追加利上げ、日銀緩和は黒田総裁後も継続か>

かねて指摘しているように、当面のドル円相場を見通す際に重要なことは、米国が金融引き締めに向かう一方で、日本が金融緩和を続けているという日米金融政策のダイバージェンスだ。

一部には、米連邦準備理事会(FRB)が昨年12月のリフトオフ(利上げ開始)に続く2度目の利上げに二の足を踏んでいることから、ダイバージェンスをベースとするドル円上昇シナリオが崩れ始めているとの見方もあるようだが、私はそうは思わない。

確かに、米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーが予想する年内の利上げ回数は4回から2回に減少している。だが、米国が金融引き締め方向にあることに変わりはない。経済指標は強弱に多少のバラつきがあるとはいえ、雇用関連指標は強く、4―6月期の実質国内総生産(GDP)成長率は前期比年率プラス2%超と、1―3月期の同0.8%増から大きく改善する見通しだ。次の利上げは数カ月内にあると見るのが妥当だろう。

具体的には、6月よりも7月の可能性に注目すべきだと考える。7月26―27日開催のFOMCは会合後にイエレンFRB議長の記者会見がないため、可能性が低いと見られているようだが、私の予想は異なる。FRBの金融政策運営はこれまで事前に大きな期待を市場に植え付け、それに応えられず、批判を受けるということを繰り返してきた。だが、7月の利上げはこの市場の先入観を変え得る。

むろん、議長会見を伴うFOMCで利上げを決めるほうが説明責任という意味では望ましいが、6月14―15日会合の翌週23日には欧州連合(EU)離脱・残留を問う英国民投票が控えており、利上げには動きにくいはずだ。11月1―2日の会合は大統領選(8日)直前なので、まずあり得ないとして、最も可能性が高いのは7月、次は9月20―21日の会合(議長会見あり)だろう。

一方、日銀については、2%インフレ目標達成時期が「2017年度前半」から「2017年度中」に再延期されたが、現実的には黒田東彦総裁の任期満了(2018年4月8日)前に達成される可能性はかなり低くなってきている。むしろ、黒田総裁後もマイナス金利付き量的・質的金融緩和は継続しているか、さらに拡大している公算が大きい。いずれにせよ、ダイバージェンスはまだ緒についたばかりと言える。

このように考えると、ドル円は5月初旬につけた105.50円近辺で当面は底入れしたと見るのが適当だろう。ドル円は過去の経験上、基本的にはあるレンジから別のレンジに移動を繰り返すレンジ通貨ペアだ。当面は105円近辺を下値、112―115円を上値として推移する可能性が高いと見ている。

これは、昨秋に予想していた120円超の水準に比べれば、だいぶドル安・円高方向にぶれることを意味するが、105―115円ならば、日本の輸出産業も耐えられる水準であり、日本経済への悪影響もさほど大きくはないと思われる。為替介入をめぐる日米の不協和音が強まることもないのではないか。

<円高を招いた3人のテキサス州出身財務長官>

ただし、ダイバージェンスを主要因とするドル円上昇シナリオには、いくつか注意すべき点がある。まずリスク資産の価格動向だ。特に株価が大きく崩れるようなことがあれば、年前半に起きたように、円高方向にオーバーシュートする可能性は十分にある。

ちなみに、円のことをよく「セーフヘイブン(安全な逃避先)」と呼ぶ人たちがいるが、それは誤解を生みやすい表現だ。投資家がリスク資産の下落局面で円を買うのは、安全資産だからではない。1つには、低金利の円が、新興国投資の際に借りて売るファンディングカレンシー(調達通貨)として相変わらず重宝されているからだ。また、海外勢は通常、日本株購入に合わせて円売りヘッジを行っている。新興国市場や日本株が大きく値崩れすれば、歯車が逆回転するのは当たり前の話だ。

もう1つ、ドル円下落のリスクを挙げれば、やはり米大統領選挙の動向だろう。民主党最有力候補のヒラリー・クリントン氏にも若干そのきらいがあるが、保護主義の高まりは気がかりだ。特に反グローバリゼーション的な言動を繰り返す共和党最有力候補のドナルド・トランプ氏が勝利するようなことがあれば(その可能性はかなり低いと見ているが)、一時的にせよ海外勢のドル資産売却に弾みがつく可能性は否めない。

また、大統領選後のことだが、誰が財務長官に任命されるかも重要な注目ポイントだ。実は、米財務長官とドルの間には、ある経験則が存在する。1970年代以降、テキサス州出身の財務長官の下では、ドル安が引き起こされるケースが多いのだ。

1人目はリチャード・ニクソン政権下のジョン・コナリー氏で、財務長官就任の1971年に、ニクソンショック(ドルと金の兌換停止)があった。2人目はロナルド・レーガン政権下のジェイムズ・ベイカー氏で、このときは急激なドル安・円高を招いたプラザ合意(1985年)があった。3人目はビル・クリントン政権下のロイド・ベンツェン氏で、1990年代前半の日米貿易摩擦時に円高誘導発言を繰り返したことは記憶に新しい。むろん、背景にはその時々の政治経済事情があり、財務長官だけが理由ではないが、この経験則には注意したほうが良いだろう。

ただ、大統領選後で最も大事なことは、米国の次期政権が金融・財政政策でどのようなポリシーミックスを追求するかである。常識的に考えれば、米国の経済政策が反グローバリゼーションに一気に傾く可能性は、たとえ「トランプ大統領」でも相当低いと思われる。

今のところ、金融・財政政策については、クリントン氏、トランプ氏ともその発言からは、程度の差こそあれ、金融引き締めと財政支出拡大の組み合わせが選好される可能性が高いように思われる。それは、過去の経験則に照らせば、ドル高を招くポリシーミックスである。

(聞き手:麻生祐司)

*本稿は、マーク・チャンドラー氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

*マーク・チャンドラー氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのシニアバイスプレジデント兼通貨ストラテジー部門グローバル・ヘッド。HSBCバンクUSAとメロンバンクでチーフ通貨ストラテジストを務めたのち、2005年10月より現職。著書に「Making Sense of the Dollar」

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below