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オピニオン:ゴルディロックス終焉にどう備えるか=青木大樹氏
2017年10月4日 / 03:56 / 13日後

オピニオン:ゴルディロックス終焉にどう備えるか=青木大樹氏

[東京 4日] - 世界景気は、後退局面入りしていないものの拡大ピークを過ぎ、ミッドサイクル(中間期)の後期に差し掛かっているとUBS証券ウェルス・マネジメント本部の最高投資責任者(CIO)、青木大樹氏は指摘する。

景気後退リスクとして、金融政策正常化に伴う金利急上昇や中国のシャドーバンキング崩壊などが考えられるが、差し当たっては現在の「ゴルディロックス(適温)相場」が今後半年から1年半は続くと予測する。

ただし、次の景気後退局面では債券が安全資産にならない可能性があるとして、ヘッジファンドを中心としたオルタナティブ(代替)投資に資金を振り分ける重要性を指摘した。短期的にドル円レートは115円程度まで上昇する可能性はあるが、1年後の見通しは110円で据え置いた。

同氏の見解は以下の通り。

<株高支える「適温」状態は当面継続へ>

このところ多く質問を受けるのは、今はリスクオンなのか、あるいはリスクオフの始まりなのかという点だ。株式市場や景気拡大サイクルの現状について、過熱せず、冷め過ぎてもいない「ゴルディロックス(適温)相場」と説明されることが多いが、これがいつまで続くのか、という疑問である。そこで初めに、現状を整理したい。

まず、この20年間、世界的な景気拡大サイクルを終わらせるきっかけとなってきたのは、アジア通貨危機(1997年)やITブーム崩壊(2000年代初頭)、サブプライム住宅ローン危機(2007年─2009年)など、バブルの崩壊だった。

製造業の付加価値額の伸び率は、こうしたバブルの拡大と崩壊に合わせて上下動を繰り返してきたが、足元ではこの伸び率は低位で安定している。サービス・セクターに目を転じても、景況感指数(PMI)は十分に50を超えた水準が続いており、景気後退入りの兆しは確認できない。例えば、セントルイス地区連銀の試算では、米景気後退局面入りの確率は10%程度にとどまっている。

こうしたことから、今の景気サイクルの位置付けは、まだ後退期に入っておらず、現在はミッドサイクル(中間期)にあるとみられる。ただ、ピーク(景気の山)は越えた感があり、ミッドサイクルの中でも後期に入りつつある局面と考えられる。

他方、世界株式市場のサイクルはどうか。株価収益率(PER)とその後6カ月の期待収益を比較したリスク資産の評価をみると、いまの18倍程度のPERであれば今後6カ月で6%程度の収益率が期待できる「第3ステージ」にあるとみている。PERが23倍を超えると収益が期待できなくなる「第4ステージ」に入る。したがって、重要なのは企業収益の見通しだが、これは後述するように、地域ごとに濃淡がありそうだ。ただし、総じてみれば、堅調な企業業績が見込まれており、当面は第3ステージにとどまると考えられる。

この「ゴルディロックス」状態がいつまで続くか、明快な解答は出しづらいが、当社は、6カ月から18カ月の間はこの状態が続くのではないかとみて議論している。

<景気後退と金利上昇が同時進行する恐れ>

今後警戒すべき危機について、次の3点に注目している。

まず、金融政策の正常化が過度な引き締めとなってしまうことで、景気後退をもたらすリスクだ。その場合、金利上昇と景気後退が同時に引き起こされる可能性がある。つまり、これまで安全資産とされてきた債券が安全資産とはならない状況だ。米連邦準備理事会(FRB)は10月から資産規模の縮小に着手するが、これが今後、金融機関の貸出態度や、10年金利のプレミアムにどの程度影響するか、まだ完全にみえてない。

10年金利については、プレミアムが乗って3年前後で30ベーシスポイント程度上昇するとみられるが、もし市場がこれを早過ぎるタイミングで織り込んでしまうと、金利が急上昇する恐れもある。FRBの再投資額が減っていくなかで、金融機関の貸出態度が再び過度に悪化したりすれば、景気後退が起きる可能性は高まる。

2つめのリスクは、北朝鮮などの外的ショックだ。もちろん、メインシナリオとしては、米朝の軍事的衝突が起きる確率は極めて低いとみている。米国株式市場のボラティリティー指数(VIX)をみると、北朝鮮がグアム方向へのミサイル発射をちらつかせた頃がピークで、足元では落ち着いており、米市場はすでに北朝鮮リスクを消化しているといえる。

3つめのリスクは、クレジットクラッシュだ。主に米国の自動車ローン、学生ローン、クレジットカードローンの動向に加えて、中国のシャドーバンキング崩壊リスクに注意が必要だ。

中国人民銀行(中央銀行)によれば、同国金融業界のオフバランスシート残高は2016年末時点で、国内総生産(GDP)の約340%まで急増している。中国は10月の共産党大会後、このオフバランス負債の引き締めに本腰を入れるとみられ、景気減速と資金流出の懸念が指摘されている。だが、習近平政権の目的は政治の安定と経済の軟着陸であり、むしろ中央集権体制で管理が強化されることで、ハードランディングやクラッシュが起きる確度は低いのではないか。

米国の不動産以外のローンは、残高が拡大している。デフォルト率をみると、足元ではクレジットカードローンの新規デフォルト率が急上昇しているほか、学生ローンの新規デフォルトも高水準で推移し、自動車ローンの新規デフォルト率もじわりと上昇を続けている。サブプライム住宅ローンのように商品化されてグローバルに売られているわけではないが、消費者マインドへの影響や関連企業の破たんによる景気下押しリスクには警戒が必要だ。

<債券がリスク資産となる可能性>

こうした状況で、資産アロケーションはどのように考えるべきか。

実は当社は、グローバル株式の投資判断については「オーバーウエイト(強気)」を維持しつつも、その段階を1つ引き下げた。あと2段階の引き下げで「中立」となる。これは、世界経済が景気のピークを越え、ミッドサイクルの後期に入ろうとしているという、前述の想定によるものだ。

米株はピークに近づいており、日本株は企業収益という観点ではピークを打ったとみている。例外は欧州株で、行き過ぎたユーロ高が今後是正される可能性が高いことから、企業収益見通しが改善し、株価上昇余地は大きくなると考えている。

もちろん、日本株も、米金利上昇に伴うドル高が進むならば、上値余地は若干広がるだろう。また、人手不足や物価上昇で恩恵を受ける銘柄や、今回の衆院選の焦点に絡む教育や人材投資の関連銘柄には期待できるとみている。いずれにせよ、選別投資の局面と考える。

一方、次の景気後退局面が過度の金利上昇に伴って引き起こされることになれば、債券が十分な安全資産とはならない可能性がある。このように考えると、株や債券といった伝統的資産にとらわれず、不動産やヘッジファンドへの投資を含む多様なオルタナティブ(代替)資産へ資金を振り分けることが、今後の備えになるだろう。オルタナティブ資産の中でもヘッジファンドへの投資はグローバル株式と比較しても、下落局面の際のボラティリティーが低い傾向がある。

ドル円レートの見通しは、3カ月後と6カ月後が113円、12カ月後が110円と予測している。2018年は、日銀も金融政策正常化の第一歩を踏み出すとみられ、日本の10年金利も上がってドル円の重しになるだろう。ただ、米10年金利が2.5%程度まで上がれば、短期的に115円台へのスパイクはあるかもしれない。

*本稿は、青木大樹氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

(聞き手:山口香子、麻生祐司)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*青木大樹氏は、UBS証券ウェルス・マネジメント本部の日本における最高投資責任者(CIO)兼チーフエコノミスト。2001年より内閣府で政策企画・経済調査に携わった後、2010年にUBS証券入社。2016年、インスティテューショナル・インベスター誌による「オールジャパン・リサーチチーム」調査の日本経済エコノミスト部門にて5位(外資系1位)に選ばれる。

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