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オピニオン:次期米大統領にレームダック化の恐れ=安井明彦氏
2016年11月1日 / 03:02 / 1年後

オピニオン:次期米大統領にレームダック化の恐れ=安井明彦氏

[東京 1日] - 「どちらがましか」という不人気争いの様相を呈している今回の米大統領選挙は、4年後の再選の見込みが薄い「つなぎの大統領」を決める選挙になる可能性があると、みずほ総合研究所の安井明彦・欧米調査部長は指摘する。

低支持率での船出が予想される次期米大統領が再選を経て2期8年を務めるためには1期目で衆目の一致するレガシー(政治的功績)の可能性を示す必要があり、スタートダッシュに失敗すれば就任早々レームダック化する恐れもあると見る。

同氏の見解は以下の通り。

<「ミレニアル世代」候補の不在>

今回の米大統領選挙に関して画期的な点は、有権者に占める割合で、ミレニアル世代(1981―2000年生まれ)とベビーブーマー世代(1946―64年生まれ)が初めて肩を並べることだ。

前回、世代交代が起きたのは1992年で、戦前戦中生まれの世代とベビーブーマー世代の有権者の割合が並んだ。ちなみに、その年に民主党の大統領候補に指名されたのがヒラリー・クリントン現候補の夫、ビル・クリントン元大統領である。同氏はベビーブーマー世代であり、当時、新しい有権者勢力の象徴となった。

ところが今回は、民主党のクリントン候補にせよ、共和党のドナルド・トランプ候補にせよ、いずれもベビーブーマー世代。しかも、両党とも前回12年選挙の候補よりも高齢であり、時計の針が巻き戻った印象を受ける。言い換えれば、米国は政治も政策も足踏み状態であり、1回休んで、4年をかけて次の大統領を探そうという雰囲気すら感じる。

そう考えると、「どちらが良いか」というよりも、「どちらがましか」という、不人気争いの様相を呈していることも理解できる。そもそもクリントン氏が目標に掲げる一般投票の得票率は50%と、勝利のハードルは端(はな)から低い。どちらが勝つにせよ、その人物が2期8年を務めるとは現実点では考えにくいのが今回の米大統領選の特徴だろう。

<次期政権の命運を左右する移民問題>

とはいえ、もちろん、1期目で予想外に大きなレガシー(政治的功績)を残せば、「つなぎの大統領」役で終わらず、2020年選挙で再選される芽も出る。優勢に選挙戦を進めてきたクリントン氏が仮に勝利するという前提で言えば、移民問題の解決がそのきっかけになり得ると考える。

周知の通り、移民問題をめぐっては、トランプ氏が「メキシコとの間に(移民流入を防ぐ)壁を築く」などと発言し、すでに数百万いると言われる不法移民を強制送還する方針を公言しているのに対して、クリントン氏は、不法移民に合法滞在の道を開くよう提案するなど、寛容かつ開放的な立場を鮮明にしている。

実は、トランプ氏を大統領候補に掲げる共和党内にも、クリントン氏に近い考えを持つ議員は多い。存在感を増すマイノリティー票の取り込みを考えれば、共和党としても移民に厳しい政策は維持しにくい。党幹部のポール・ライアン下院議長などは、実際には移民に対して寛容な方針への転換を望んでいるだろう。つまり、オバマ政権下で深刻化した党派対立を超えて、波長の合う共和党議員を取り込み、国を二分する論争に決着をつけることができるのかが、クリントン氏の腕の見せどころとなろう。

むろん、インフラ投資の推進や環太平洋連携協定(TPP)の是非、医療保険制度改革法(オバマケア)の見直しなど、党派対立の温床(言い換えれば大統領の腕の見せどころ)はその他にも枚挙にいとまがないが、それらの政策テーマについて目先で求められているのは、不法移民問題に比べれば、テクニカルな側面が大きい。

例えばインフラ投資は、両党とも拡大方向では一致しており、議論されているのはその財源候補である法人税改革の中身だ。また、オバマケアについても、「小さな政府」志向のイデオロギー色が強い共和党内一部勢力が廃止にこだわっているものの、高騰する保険料の引き下げが急務との見方では両党とも一致している。

TPPについては、「最もひどい通商合意」「ない方が良い」と発言しているトランプ氏が勝利すれば実現の可能性は確実に遠のくが、クリントン氏は「(今のままでは)条件を満たしていない」などと批判する際には言葉を選んでおり、来年前半は無理でも後半には議会採決に向けて動き出す可能性はあるだろう。要するに、必要なのはテクニカルな追加作業で一部反対派を鎮める成果を示すことだ。

一方、移民問題は米国を二分してきた宿命的な政治テーマであり、特に近年増え続けた不法移民の合法化問題はオバマ大統領が8年をかけても解決できなかった難題だ。仮にクリントン氏が党派対立を超えて解決できれば、米国の歴史に名を残すレガシーとなろう。

ただし、不人気争いの結果選ばれる以上、低い支持率での船出が予想されるため、再選を目指すならば、1期目の早い段階で「レガシーを残し得る大統領だ」と有権者や議会に認めてもらう必要がある。逆に言えば、出だしでつまずけば、就任1年目にレームダック化する恐れは十分あるのではないだろうか。

<「トランプ大統領」は杞憂か>

ところで、今回の選挙については、クリントン氏が優勢と見られているが、気になるのは不人気争いの場合、注目された方が不利になる可能性が高い点である。トランプ氏は女性問題でつまずいたが、今は再び私用メール問題でクリントン氏に注目が集まり始めている。

実際、クリントン氏は主要な世論調査で5ポイント以上のリードを維持してきたが、足元ではトランプ氏との差が1ポイント程度まで縮小する調査結果も出てきている(10月30日時点)。過去の選挙結果を見ると、全国規模の世論調査でのリードが選挙直前で1―2%程度まで縮まった時には、かなりの接戦となり、スイングステート(激戦州)の結果が勝敗を左右している。

周知の通り、米大統領選の勝敗は、人口などに応じて各州に振り分けられた選挙人の得票数で決まる(大半の州は一般投票で1位の候補が州選挙人を総取りする)。一般投票の得票数で勝っても、選挙人の得票数で負ければ、大統領にはなれない。20世紀以降、実際にそのようなかたちで敗退したのは2000年選挙の民主党候補アル・ゴア氏だけとも言えるが、現在のクリントン氏のリードは安心できる水準ではない。

最後に今回の大統領選後の米国について1つ確実に言えるのは、どちらが勝つにせよ、同国の政治が「保護主義」「大きな政府」に傾斜していく可能性が高いということだ。クリントン氏の場合は、そうであったとしても、流れがある程度秩序立っていて、予測可能であるのに対し、トランプ氏の場合は、閣僚がそろうのかという点を含め、無秩序で予測不能となるリスクが高い。

*安井明彦氏は、みずほ総合研究所・欧米調査部長。1991年東京大学法学部卒業後、富士総合研究所(当時)入社。在米日本大使館専門調査員、みずほ総研ニューヨーク事務所長などを経て、2014年より現職。主な著書に「アメリカ 選択肢なき選択」などがある。

*本稿は安井明彦氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

(聞き手:麻生祐司)

――関連コラム:クリントン氏、戦後最も不人気な大統領になる恐れ=カッツ氏

――関連コラム:米大統領選とドル円、最も警戒すべき展開=山田修輔氏

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの特集「米大統領選」に掲載されたものです。

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