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オピニオン:カタール断交、何が起きているのか=芥田知至氏
2017年6月8日 / 11:18 / 3ヶ月前

オピニオン:カタール断交、何が起きているのか=芥田知至氏

同氏の見解は以下の通り。

<なぜ今、断交か>

カタールと、サウジを中心とする他のアラブ湾岸諸国との不和は今に始まった話ではなく、2014年3月にはサウジ、UAE、バーレーンの3カ国が駐カタール大使を召還する事態も起きていた。

サーニ家による首長制をとっているカタールは、タミム現首長の父親の代から、天然ガス輸出などで得た豊富な資金をバックに、独自の外交路線を展開してきた。特に、イスラム教スンニ派の大国サウジが仇敵と見なすシーア派の盟主イランと、天然ガス資源の事実上の共同開発に乗り出すなど、経済的関係を深めていたことに対し、サウジのいら立ちや憤懣(ふんまん)が募っていたことは容易に想像がつく。そもそもサウジは昨年1月、シリアやイエメンの内戦で事実上の「代理戦争」状態に陥っているイランとの外交関係を断絶している。

カタールとの断交の理由として、サウジなどは、カタールがスンニ派組織「ムスリム同胞団」などに加えて、イランが背後にいる過激派組織への支援を継続し、各国の安定を脅かしているためだと明言している。

ただし、なぜこのタイミングでカタールとの断交が決断されたのかと問われれば、はっきりとしたことは分からない。5月に中東を訪問したトランプ米大統領が、オバマ政権下で進んだイランとの関係改善を見直す方針をサウジ側に伝え、カタールとの断交へ背中を押してしまったのではないかとの憶測もあるようだが、真相は闇の中だ。

いずれにせよ、複数のアラブ諸国が足並みをそろえて断交にまで至ったということは、水面下でカタールに対して何らかの具体的な要求(例えばイランとの関係見直し)を突きつけ、それが受け入れられなかったことへの「警告」なのだろう。

<今後の展開は>

現実的に考えて、カタールのような小国が、複数のアラブ諸国を敵に回して、孤立主義を貫くことなどできない。カタールの側から、譲歩していくしかないのではないか。

恐らくは今回、断交に加わらなかったクウェート、そして過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いで協力関係にある米国が仲介役となり、粛々と両者の和解を促していくと思われる。その過程では、真偽は別としてイランに肩入れした発言が報じられてきたカタールのタミム首長が退くことも、あり得ない話ではないのかもしれない。

ただし、カタールとしても、イランとの関係をゼロにしろ、と言われたら、首を縦には振りにくい。凍結していたガス田の事実上の共同開発も、2015年の米欧など6カ国とイランとの核合意を経て、再開すると発表済みだ。また、テロ資金源の疑惑に関連して、サウジ側の要求が法令順守の強化どころか、カタールが国力を傾けて取り組んできた金融センター戦略の見直しにまで拡大するようなことがあれば、話がこじれて、さすがに和解が進まない可能性がある。その場合、対立は静かにエスカレートしていくのかもしれない。

最悪のシナリオは、サウジがしびれを切らし、湾岸協力会議(GCC)からの脱退を迫るなどカタールをさらに追い詰め、イランとの関係強化に駆り立ててしまうことだ。その延長線上で、イランともどもトランプ政権に「テロ支援国家」として指定されるような事態となれば、カタールから大量の液化天然ガス(LNG)を輸入している日本にも深刻な影響が及ぶことになろう。

もっとも、そこまで事態が悪化する可能性は、現時点では、万が一にもないように思える。いくら1人当たり国内総生産(GDP)が6万ドル超(2016年、国際通貨基金データ)と湾岸諸国で最も裕福な国とはいえ、食料品などの生活必需品の多くはサウジやUAEなどからの輸入に頼っている。代わりの調達先を見つけるとしても、陸路ではなく海路や空路となれば、当然コスト高となる。域内最大の大国であるサウジと名実ともに袂(たもと)を分かつことになれば、海外勢に敬遠されて金融センターとしての立場も危うくなろう。サウジの意向を無視して、イランにすり寄っていくことが、亡国の道であることは、カタールも分かっているだろう。

<原油価格への影響は>

この問題が、原油相場に影響を与えるルートは2つ考えられる。1つは、地政学リスクの高まり(価格上昇圧力)。もう1つは、中東産油国が中心となって進めてきた協調減産フレームワークの崩壊リスクだ(価格下落圧力)。

断交のニュースが伝わった当初は、前者のルートが懸念され、原油価格は一時的に跳ね上がった。しかし、その後は、後者の懸念から反転下落したとの解釈が一般的だ。今後も、どちらかと言えば、協調減産の枠組みに綻(ほころ)びが生じる可能性への懸念が先立つだろう。

つまるところ、この問題が原油価格上昇をもたらすとすれば、前述した最悪シナリオが想起されるようになったときだが、繰り返すが、今のところは杞憂にしか思えない。

また、そもそも原油需給は大幅に改善していく方向にはない。石油輸出国機構(OPEC)やロシアなどの産油国は5月、協調減産を来年3月まで延長することで合意したが、減産規模は据え置いた。加えて、米国では相変わらず高水準のシェールオイル生産が続いている。

需要面に目を移しても、米国景気の拡大はすでに戦後平均を大きく上回る年数に達しており、今後さらに加速していくようなシナリオは描きにくい。中国にしても、景気は減速方向にある。米国産標準油種WTIで見て足元1バレル45ドル近辺で推移している原油価格は今後数年の間、引き続き40ドルから60ドルのレンジで推移する可能性が高いとみている。

(聞き手:麻生祐司)

*芥田知至氏は、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの主任研究員。専門分野は、国際商品市況、原油価格、金属価格、為替、内外経済。1992年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、山一證券入社。1998年、三和総合研究所(現在は三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2006年より現職。2002年に青山学院大学国際政治経済学研究科修了。

*本稿は、芥田知至氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

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