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オピニオン:「大人しいトランプ」演説の真意=安井明彦氏
2017年3月1日 / 11:09 / 7ヶ月前

オピニオン:「大人しいトランプ」演説の真意=安井明彦氏

過激さが抑制された最大の理由は、医療保険制度見直しや税制改革などの主要政策分野において、議会との水面下での調整が進み切っていないからであるとみられ、通商面などで日本が安心するのは早いという。

同氏の見解は以下の通り。

<通商政策は後回しに、日本に3つの不安>

1月20日の就任演説に比べ、今回の議会演説は、端的に言って、「大人しいトランプ」と呼べるものだった。

事前には一部に、今回の演説も議会など気に掛けず、自身の支持者を強く意識した過激な内容になるのではないかとの予想もあったが、実際には抑制されたトーンで議会との対話を重視する姿勢をにおわせるものとなった。

ふらついている政権を立て直すには、税制改革などの主要な公約を、議会で立法化する必要があることを意識しているのだろう。

団結を呼び掛け、法律を作り、そして変えていくという、まさに新政権に課された課題に演説の力点が置かれたことは、評価できるだろう。

法人税制の見直しに関して2―3週間以内に「驚異的な」計画を発表すると2月半ばにぶち上げておきながら、今回の演説でも具体策を語らなかった点を「期待外れ」と評する向きもあるようだが、税制改革は利害関係が複雑であり、どの政権でも議会との調整には時間がかかる。

その難しさにトランプ政権は気付いてきたところとも言え、ここからが正念場だ。むしろ、議会との調整が進み切っていない政策について、フライング気味に語らなかったことは、前向きに評価できる面もあろう。

通商政策についても、総じて「大人しい」内容だったが、これでトランプ政権が過激な保護主義から遠ざかったと見るのは早計だ。日本へのインプリケーションとしては、以下の3つの点に留意が必要だと考える。

まず通商政策について、言い方はソフトになっているものの、「米国第一」や「公正な貿易」などの主義主張が変わったわけではない。今回、通商問題で踏み込んだ発言がなかったのは、商務長官の議会承認が遅れるなど、準備が整っていなかったことが一因だと考えられる。陣容が整ってきた段階で、何が通商政策上の優先課題として位置付けられるのか、しばらくは警戒を続けるべきだろう。

次に、1兆ドルのインフラ投資に関する発言では、「米国製品を買い、米国人を雇用する」との決まり文句を付け加えた。米国のインフラ投資計画に対しては、日本企業も期待しているようだが、トランプ政権の米国第一主義との兼ね合いで、海外企業に商機がそもそもどれほど存在するのか、見極めが必要だ。

また、移民政策に関しては、合法的な移民の受け入れ方についても再考するような発言があった。日系企業が米国で米国人以外を雇用するにあたって、例えば就労ビザなどについて影響が出ないのか、不安を感じさせる内容だ。このように、通商政策だけでなく、トランプ政権の経済政策の全体像を見極める姿勢が欠かせない。

<当面の優先事項は医療保険制度見直し>

では、トランプ政策の対外的な影響は、どのくらいのタイミングで明確になるのだろうか。

オバマケア(医療保険制度改革法)の見直しに多くの時間を費やした今回の演説から見えてきたことは、トランプ政権の最優先課題は医療保険制度問題であるということだ。ゆえに当面、通商政策など対外的な部分はやや後回しとなる可能性がある。

ただ、医療保険制度の見直しが片付けば、国境税調整の行方が話題となる法人税制改革など、財政協議が本格化する。トランプ政権や議会共和党は、7月末までに税制改革の立法化にこぎ着けたい方針であり、その過程で、米国の経済政策が他国に与える影響が、より鮮明に見えてくるだろう。

言い換えれば、市場が期待するような法人税減税などの「実弾」が現実化するには、まだ時間がかかるということだ。ホワイトハウスが3月16日に提出を予定している予算教書でも、減税などの詳細な提案が盛り込まれるとは限らず、全体像は見えてこないかもしれない。

そもそも、トランプ大統領が言う法人税減税や中間層向けの所得減税、さらにはインフラ投資の推進を実行に移そうとすれば、財政赤字の拡大は不可避である。共和党には財政赤字の拡大に否定的な勢力があり、議会での調整が難航しても不思議ではない。

また、財政政策の中でも、トランプ政権が求める国防費の増額など、歳出に関する部分は、上院では総数100票のうち60票の賛成が必要となる場合がある。共和党議員だけではその数に満たず、民主党議員を取り込むことも必要となる。トランプ政権が本当に国境税調整のような米税制の歴史的大改革に乗り出すとなれば、秋口まで話し合いが続く可能性も否めない。とどのつまり、今回の「大人しいトランプ」演説は、嵐の前の静けさにすぎないのかもしれない。

トランプ米大統領が28日、議会で行った初めての演説では、選挙戦での公約実現を改めて約束するとともに、自身が掲げる政策課題について民主党の協力を呼びかけるなど、従来よりも前向きな姿勢が目立った。

*安井明彦氏は、みずほ総合研究所・欧米調査部長。1991年東京大学法学部卒業後、富士総合研究所(当時)入社。在米日本大使館専門調査員、みずほ総研ニューヨーク事務所長などを経て、2014年より現職。主な著書に「アメリカ 選択肢なき選択」などがある。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの特集「トランプ新政権」に掲載されたものです。

*本稿は、安井明彦氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

(聞き手:麻生祐司)

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