〔アングル〕米企業のコスト削減、「節約のパラドックス」で不況脱出の足かせに

2009年 05月 6日 18:04 JST
 
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 [シカゴ/ニューヨーク 5日 ロイター] 投資家やエコノミストの間ではここ数週間、米国企業の予想を上回る業績など一見すると明るい兆しが相次いでいることを背景に、景気後退(リセッション)はほぼ終息したとの声が聞かれる。ただ、それは先走りである可能性がある。

 従業員解雇や設備投資抑制を通じた積極的なコスト削減は、確かに多くの企業がアナリスト予想を上回る利益を計上する要因になった。

 しかし、景気回復に向けた「芽吹き」とも受け取られている動きの底には、より深刻で長いリセッションにつながる「種」が隠れていると専門家は指摘する。

 モルガン・スタンレーのクレジット戦略責任者、グレッグ・ピーターズ氏は「明白かつ目の前にある危機は経済の負のフィードバック・ループだ。従業員が解雇され、設備投資が抑えられているなら、はるかに長く続くカスケード効果を経済にもたらす」と述べた。

 人員削減や設備投資と研究開発費の削減は一時的に企業収益をてこ入れすることになるが、長い目で見れば暗いニュースでもある。失業者の数が増え、賃金が減り、個人消費や企業の支出に一段とブレーキがかかることで、景気はさらに冷え込むからだ。そして、それは製品やサービスに対する需要減退という形で、企業にも当然跳ね返ってくる。

 クリントン政権で労働長官を務めたカリフォルニア大バークレー校のロバート・ライシュ教授は「企業の人件費削減とレバレッジ解消は完ぺきに合理的な行動だ」と指摘。その上で「しかし、すべての企業が同じ行動を取ったらどうなるか。さらに多くの失業者が生まれ、より深い景気の穴に落ち込むことになるだろう。企業が作り出す商品やサービスを買う人は残るだろうか」と語った。

 <勢い増す企業の人員削減>

 最近発表された米企業の四半期決算では、積極的なコスト削減が売上高減少を補い、予想以上の利益を計上する企業が多くみられた。

 決算が市場予想を上回った企業の数だけを考えれば、米国が大恐慌以来最悪の景気後退局面にあるとは誰も考えないだろう。トムソン・ロイター・ディレクターズ・リポートによると、これまでに四半期決算を発表したS&P500種指数構成企業365社のうち、65%が予想を上回る業績を発表した。

 トムソン・ロイターのジョン・バターズ氏は1日に出したリポートで「全体として、米企業業績は事前予想を10.4%上回っている」と指摘。1994年以降の「長期平均の1.6%も上回る」としている。

 しかし、その背景には企業の人員削減が勢いを増しているという事実がある。ロイターのエコノミスト調査によると、4月の米雇用統計の非農業部門就業者数について、予想中央値は前月比62万人減(前月は66万3000人減)。失業率は3月の8.5%から8.9%と、1983年以来で最も高い水準に上昇すると予想されているが。

 こうした人員削減とそれに伴う失業者の経済的苦境は、米国経済の要である個人消費に打撃を与え、企業業績を圧迫するようになると専門家は指摘する。

 <誰かの支出が誰かの所得に>

 実際、米国企業の業績見通しにそれは現れ始めている。最新の四半期決算発表ではポジティブ・サプライズが多かった反面、販売環境の悪化を理由に業績予想を下方修正する企業も少なくなかった点は注目すべきだろう。

 運用資産規模220億ドルのフィフス・サード・アセット・マネジメントのキース・ワーツ社長兼最高投資責任者(CIO)は「われわれはまだ利益見通しは下方修正されるとみている」と語る。

 確かに、当局者や経営者からは景気の見通しについて強気な意見も出ている。

 米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長は5日、信用収縮が再び起こらない限り、リセッションが年内に終息するとの見通しを示した。また、米企業経営者団体ビジネス・カウンシルからは、少なくとも米国と中国に関しては来年の景気回復を期待する声も聞かれる。

 しかし、多くの企業幹部は「コスト抑制が通年の最優先課題になるだろう」と先週語った出版大手マグローヒル(MHP.N: 株価, 企業情報, レポート)のハロルド・マグロー最高経営責任者(CEO)と同様の考えだろう。その結果、フィフス・サード・アセット・マネジメントのキース・ワーツ社長が言う「景気回復局面でも支出を渋る」企業が出てくることになる。

 誰かの支出が誰かの所得になるという経済システムで、こうした抑制は悪い方向に作用する。経済学者ケインズが警鐘を鳴らした「節約のパラドックス」は、不景気から抜け出すに当たり大きな足かせの1つになっている。

 単純化すれば、景気回復に向けて消費拡大が必要なときに消費者は節約に励んでおり、雇用安定が必要なときに企業は容赦なく人員削減にまい進している。ケインズの理論によれば、そうなると社会全体の所得は減ることになる。

 ライシュ元労働長官がオバマ政権による総額7870億ドルの景気刺激策が十分でないと考えるのも、それが理由。同元長官は「この環境では、政府は最後に頼るべき支出手として介入しなくてはならない」と語っている。

 (ロイター日本語サービス 原文:James B. Kelleher、Jennifer Ablan、翻訳:宮井伸明)

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