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特別リポート:スウェーデンで自死、難民少年は何に絶望したか
2016年10月3日 / 02:22 / 1年前

特別リポート:スウェーデンで自死、難民少年は何に絶望したか

 9月22日、難民少年の悲劇は、移民・難民に対し最もオープンな政策を取るスウェーデンのような国においてさえ、受け入れの限界にあることを露呈している。写真は、自殺したムスタファ・アンサリさん。住んでいたカールスハムンで撮影。6月提供(2016年 ロイター/Amir Hassanzade/Handout via REUTERS)

[スバングスタ(スウェーデン) 22日 ロイター] - 4月のある朝、スウェーデン南部ブレーキンゲ地方の静かな村で、アフガニスタン人の少年、ムスタファ・アンサリさんの旅は終わりを迎えた。

若い亡命希望者のためのセンターに身を寄せていた10代のアンサリさんが自室で亡くなっているのを、センターの職員が午前7時ごろ発見した。その後の調査によると、2段ベッドのシーツがあまりにきつく首に縛りつけられていたため、職員はナイフで切らなければならなかったという。

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サッカー好きだった少年の部屋には、覚えたてのスウェーデン語を書き込んだ、色とりどりの付せん紙が至るところに貼られていた。

死因は自殺と断定された。検視報告書には17歳と書かれていたが、アンサリさんの身元についての書類はない。スウェーデンに9カ月滞在していたが、移民当局はアンサリさんの亡命申請のための面接を一度も実施しないままだったからだ。

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欧州での移民・難民危機において、アンサリさんは新たな種類の犠牲者である。多くの難民が欧州にたどり着く前に命を落とすなか、アンサリさんは無事に目的の地へとやって来ることができた。だが実際には、対処しきれないほど大量の申請手続きにパンク状態となっているスウェーデンの現状に巻き込まれることになった。

アンサリさんの悲劇は、移民・難民に対し最もオープンな政策を取るスウェーデンのような国においてさえ、受け入れの限界にあることを露呈している。2015年以降、保護者不在で独り欧州にやって来た若い亡命希望者は10万人以上いるが、彼らが直面する不安やリスクをも浮き彫りにしている。

スウェーデンは長い間、難民を歓迎しており、人道的な実績を自負している。2013年9月には全てのシリア難民に門戸を開き、人口当たりでは他のどの欧州諸国よりも亡命希望者を受け入れている。

しかし昨年、移民・難民100万人以上が不法に欧州に押し寄せるなか、大量の亡命申請によって至るところで手続きが停滞しており、スウェーデンは対処しきれていないことを明らかにした。

同国で手続きにかかる時間は、過去5年で3倍近くに増加。2011年には3カ月余りであったのに比べ、現在では中央値で9カ月超を要する。2014年以降、保護者のいない未成年者1000人以上の状況が分からなくなっており、そのうち3分の1がアフガニスタン人の男子だという。

未成年の亡命希望者

未成年の亡命希望者

スウェーデンは昨年11月、移民受け入れ数を制限し始めた。ロムソン副首相は、テレビでこのことを涙ながらに発表した。

「あまりに長きにわたり、あまりに多く(の移民)を受け入れてきた」と、ロベーン首相も当時語っていた。また移民担当相は今月、保護者のいない未成年の移民に対し、スウェーデンほど処遇良く受け入れた国が他にあるとは考えていないと述べている。

亡命申請手続きに当局がてこずっている間、さまざまな問題が生まれていると精神科医は指摘する。申請者はしばしば孤立し、なかにはこれまでの経験からすでにトラウマを抱え、精神疾患や自傷行為に陥りやすい人もいる。また、犯罪に手を染めたり、最悪の場合は武装グループに勧誘されたりすることもあるという。

「待たされる時間が長いほど、怒りも増す」と、医学史と精神医学の専門家である英ロンドン大学キングス・カレッジのエドガー・ジョーンズ教授は語る。

スウェーデン移民局は職員を増やし意思決定を簡素化したが、今なお待ち時間は増加している。同局によると、待ち時間は、今年後半にピークを迎え、12カ月に達すると予想されている。

「『12カ月、14カ月と待っているが、何も起きない』というような手紙を毎日受け取る」と、移民局のミカエル・リベンビク氏は語る。

同局の記録によれば、2014年1月から8月末までに、あらゆる年齢の亡命希望者において、自殺の恐れがある、もしくは自殺を試みたケースが少なくとも500件あった。スウェーデンではこの時期、25万人以上の亡命申請があった。このうち、3人が死に至っている。動機は不明だが、一部は手続きの遅延に直接関係していることが記録から明らかとなっている。

リベンビク氏は、記録が実際より少ない可能性があることを認めた。何らかの方法で移民担当職員の勤務状況に影響を及ぼした場合にのみ、自殺行為は記録されるという。例えばアンサリ少年の場合は、記録データに含まれない。

調査によると、一般人口より亡命希望者の方が自殺を図る可能性が総じて高い。亡命希望者は、逃れてきたトラウマが主な原因で、うつ病やその他の精神疾患を患う確率が高い。スウェーデン政府や他団体の推計によれば、同国では亡命希望者の約4分の1が、うつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)のような精神疾患に苦しんでいるという。

アンサリさんは独りでスウェーデンまでやって来た。検視報告書によると、アンサリさんはうつ病と双極性障害を患っていた。友人の話では、アンサリさんはひどく家族を恋しがっていたという。手続きのための面接を何カ月も待たされたあげく、約束された面接も移民局からキャンセルされたり、手違いで先延ばしにされたりした。

「彼はよく不満を口にしていた」と語るのは、亡命を希望する仲間であり、同じアフガニスタン人のモーセン・ナガウィさん(18)だ。「ついていないと感じていた」

アンサリさんが住んでいたスウェーデン南部ブレーキンゲ地方で精神科の医務局責任者を務めるペーテル・バルベリウス氏は、2度目の面接もキャンセルされたことが決定打となったと推測。「それが引き金になった可能性は大きい」と少年の死亡調査に関わった同氏は話す。

<徴兵を逃れて>

アンサリさんは、イラン南西部シラーズに住むアフガニスタン人の工場警備員の長男として生まれた。父親によると、アンサリさんは約1カ月かけてトルコ、ギリシャを経由し、ドイツに到達。スウェーデンに着いたのは2015年7月24日のことだった。この年、同国にたどり着いた保護者のいないアフガニスタン人の未成年者は2万3000人超に上る。

多くのアフガニスタン人同様、アンサリさんは「二重難民」だった。アンサリさんは、イスラム教シーア派の少数民族ハザラ人である。ハザラ人はアフガニスタンで長い間迫害を受け、スンニ派の反政府武装勢力タリバンに狙われるようになってからは、多くが1990年代にイランへ逃れた。

数多くのハザラ人難民に囲まれ、アンサリさんはイランで育った。アジア的な顔立ちで目立つことから、ハザラ人はひどい差別に直面していると、複数の人権団体が指摘している。

公式統計はないが、アフガニスタンで活動するスウェーデンの援助団体「スウェーデン・アフガニスタン委員会」(SCA)のカシム・フセイニ氏によれば、スウェーデンで亡命申請しているアフガニスタン人の推定7割以上がハザラ人だという。自身もハザラ人だというフセイニ氏は、15歳のとき独りでスウェーデンを目指し、2001年にたどり着いたという。

人権団体によると、ハザラ人は最近、シリアで戦うためイラン軍に徴兵されているという。アンサリさんの父親がロイターに語った話では、そのことが、イランでプラスチック製品のリサイクル会社で働いていた少年を欧州へとまさに駆り立てたという。

 9月22日、難民少年の悲劇は、移民・難民に対し最もオープンな政策を取るスウェーデンのような国においてさえ、受け入れの限界にあることを露呈している。写真は、難民に付き添う警察官。スウェーデン南部マルメ郊外の駅で昨年11月撮影(2016年 ロイター/Johan Nilsson/TT NEWS AGENCY/File Photo)

当初、父親は息子を止めようとした。だが、どのみち行ってしまうと分かってからは、家族はアフガニスタンで所有する土地を貸したり、いとこに借金したりして密航業者に支払う4000ユーロ(約45万円)を工面した。世界銀行の数字によると、その額は2015年の1人当たりアフガニスタン国内総生産(GDP)の2倍以上に相当する。

<カウントダウン>

アンサリさんを知る人たちによれば、彼は思いやりがあり、笑みを絶やさず、スペインのサッカーチーム、レアル・マドリードのファンだった。

「子どものなかで一番、頭が良かった」と父親は言う。「電子機器に興味があった。スウェーデンに行ったら、モバイル技術を勉強する計画だった」

多くのアフガニスタン人のように、アンサリさんもイランから家族を呼び寄せるつもりだった。

アンサリさんが住んでいたセンターからほど近い場所にあるカールスハムンのカフェで、アンサリさんのアフガニスタン人とイラン人の友人は、旅費を途中で稼ぎながらやって来たと明かした。

「少年たちが、とても大変な責任を背負っていることを分かってほしい」と、アンサリさんの古くからの友人であるナガウィさんは話す。「家族はすべてを投げ打って渡航費を工面した。それが彼らの双肩にかかっているのだから」

スウェーデンの土を踏んだ瞬間から、責任の重みが格段に増していく。

未成年者がパスポートを持たずに到着すると、スウェーデン当局は通常、申告された年齢に基づき誕生日を与える。アンサリさんは16歳だと伝え、当局は誕生日を1999年7月24日に決めた。

当時、保護者のいない18歳未満の亡命希望者が、スウェーデンに家族を呼び寄せることは比較的簡単だった。

16歳と申告したことで、家族を呼び寄せるための猶予期間2年のカウントダウンが始まった。

<新たな生活>

アンサリさんが亡命希望の少年20人と共同生活を送っていた、政府が運営する2階建てレンガ造りの建物は、ブレーキンゲ地方のスバングスタにある。少年たちの出身国は、アフガニスタン、シリア、ソマリア、エリトリア、モロッコ、イランとさまざまだ。

このセンターの運営責任者であるサンティ・クルベルク氏は、最初の健康診断でアンサリさんに特に異常は見られなかったと語る。

同氏によると、アンサリさんは保守的で、政治と宗教について議論するのが好きだった。また時には、女性はあまり肌を露出すべきではないと語ったり、女性職員と握手するのを嫌ったという。女性との握手は禁じられているとし、代わりに手を自分の胸に当ててあいさつをしていた。

少年たちは、バスで30分ほどの場所にあるカールスハムンの学校に通った。新しい生徒は、スウェーデン人とは別の階で、スウェーデン語の集中プログラムを受ける。アンサリさんは水泳のクラスを取り、街にあるモスクにも通っていた。

未成年の亡命希望者は政府から住居を提供され、親としての法的役割を務める後見人がつけられる。彼らが18歳になるまで、あるいは居住が認められるようになるまで、亡命申請手続きを支援し、経済的に面倒を見る。法定後見人には子ども1人につき、1カ月約2000スウェーデンクローナ(約2万3000円)が支給される。

<コードレッド>

アンサリさんのスウェーデン滞在が2カ月を超えた昨年10月、手続き開始のため、移民局と面接するはずだった。当時、同国に到着した亡命希望者の数は数カ月で7万人以上に達していた。アンサリさんの後見人となったモハメド・ヤシンさんは、移民局から面接を延期せざるを得ないとする通知を受け取った。そこには新たな面接日は記載されていなかった。

冬が近づき、日照時間が短くなるなか、パリ同時攻撃の容疑者が難民にまぎれてギリシャ経由でフランスに入国していたことが明らかとなった。アンサリさんの友人のなかには、本国に送還しやすくする作戦としてスウェーデン当局が申請手続きを遅らせるかもしれないと心配する人もいたという。

移民センターのクルベルク氏によると、春が近づくにつれ、アンサリさんは欧州の習慣を受け入れ始めた。女性職員からの握手やハグすらも受け入れるようになったという。

しかしまだ移民局の誰とも会えないままでいた。

友人たちによれば、アンサリさんは何時間も自室にこもるようになり、笑顔が消え、学校にも行かなくなり、やせていったという。

センターや地方当局作成の文書によると、医師がアンサリさんの分類を「コードレッド」に変えたのは、3月ごろだった。それは自殺や暴力的・脅迫的行為に及ぶリスク、あるいは脅迫や暴力を受ける恐れがあることを意味する。

4月6日の朝、アンサリさんはようやく移民局と面接できることとなった。アンサリさんと後見人のヤシンさんは南部ベクショーに向かった。到着すると、移民局が間違ってアンサリさんの担当官をマルメに派遣していたことが判明した。ベクショーからマルメまでは、車で2時間以上かかる。移民局は誤解が生じていたとし、新たに面接日を5月3日に設定した。

ヤシンさんは翌日7日、アンサリさんから「具合が良くない」との携帯メッセージを受け取った。そのメッセージは数回送られてきたという。

それから数日後、少年たちは、センターでサッカーの欧州チャンピオンズリーグを一緒にテレビ観戦しようとアンサリさんを誘った。観戦中、職員が投薬のためアンサリさんを呼んだ。クルベルク氏が覚えている限りでは、アンサリさんは自分で自室に行き、職員が薬を持って彼の部屋を訪れたという。

アンサリさんが自殺を図ったのはその日の夜だった。

カールスハムンで、アンサリさんは、アフガニスタンの言葉とアラビア語で名前が刻まれた2人の墓の隣に眠っている。墓地内にある他の墓とは離れた場所だ。その場しのぎの墓石には、彼の名前を記した紙がビニール袋に入れられて貼られていた。

(Sven Nordenstam記者、Benjamin Lesser記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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