〔兜町ウォッチャー〕独歩安の日本株、日経リンク債に絡む思惑くすぶる
株式市場は先物主導で軟調な動きを続けているが、その要因として日経リンク債のノックインに絡む思惑がまたぞろ浮上している。私募も含めたリンク債の実態には不透明な部分も多く、市場のかく乱要因になっているとの見方が出ている。
東京株式市場では11日後場、日経平均が第1のノックイン価格として意識されていた1万4231円にタッチ。その後下げ幅が急拡大している。
<先物にノックインを狙った売り仕掛けも>
個人向けには「リスク限定型ファンド」などとして販売されることも多い通称「日経リンク債」とは、海外政府系金融機関の債券などに日経平均プットオプションの「売り」を抱き合わせた「仕組み債」と呼ばれる金融商品のひとつ。オプションの「売り」によって得られるクーポンが高利回りの原資となる。
投資家の人気を集めているノックイン条項型の日経リンク債の場合、当初に定められた期間中に決められた「ノックイン価格(バリア)」に1度もタッチしなければ、投資家は高い利回りを得られるが、バリアにタッチすると償還額は日経平均株価に連動することになる。株価が上昇基調にある時や、変動が少ないときは問題ないが、相場が急落すると状況は一変する。「株安に乗じてノックインを狙った売り仕掛けが先物に出ている可能性もある」(ユニマット山丸証券法人営業部マネージャーの藤井勝行氏)という。
<デルタヘッジの先物買いが波乱の種に>
ノックインを狙った売りとは何か。簡単にからくりを説明しよう。投資家が購入するリンク債にはプットの売りが組み込まれている。投資家は高利回りの債券を買ったと錯覚しやすいが、実はプットの売りを購入してクーポンを得ているに過ぎない。逆に運用サイド(証券会社の自己売買部門など)はプットの買いで対応する。このプットの買いポジションを放置すれば運用サイドにとってリスクとなるため、ヘッジの先物買いまたはプットの売り(合成先物の買い)を入れて、ポジションをニュートラルにしなければならない。
デルタヘッジと呼ばれるこの手法は、株価がバリアから放れていれば少ないヘッジで済むが、バリアに接近するとオプションの発生確率が高まるため、幾何級数的にヘッジ量を増やさなければならないという特徴がある。このデルタヘッジによって積み上がる先物あるいは合成先物の買いが株価急落時に波乱の種となる。
<第1のノックイン価格にタッチ>
いま市場でかく乱要因とされているのは、日経平均マイナス20%に設定されたリンク債だ。UBS証券の調べによると、純資産残高が100億円以上の日経225種リスク限定型ファンドのなかで、最も高い株価で設定されたのは2007年6月に日経平均1万7789円で設定されたファンドで、ノックイン価格は1万4231円。ここから1万円割れ水準まで幅広くノックイン価格が分布している。
では何故ノックインを狙うのか。バリアに接触した瞬間にオプションが発生し、ヘッジが不要となるからだ。仮にバリア1万4200円のリンク債なら、日経平均が1万4200円になった時点で、リンク債を購入した投資家は元本に対して20%の損失を負う。逆に運用サイドはプットの買いポジションで相応の利益が出る。ヘッジが不要なった大量の先物は成り行きで処分されるため、株価の下げを加速させる要因になる。売り方はノックインに伴うデルタヘッジの先物売りを誘い、急落した時点で買い戻しを狙っているわけだ。
東京株式市場では11日後場、日経平均が後場にかけて下げ幅を拡大し、第1のノックイン価格1万4231円にタッチ。その後下げ幅が急拡大した。下げ一巡後は買い戻しで小康状態だが、ノックイン価格は1万4000円以下にも広く分布しているとみられている。日経リンク債の純資産残高は7000億円規模とも言われるが、「公表ベース以外の私募なども含めると残高の実態が見えにくいのが現状だ。それだけに不透明感がある」(大和総研マーケットアナリストの壁谷洋和氏)という。
ただ、「2001年頃の設定規模と比べれば格段に少ないはず。ノックイン価格も1万1000―1万2000円が中心であり、現在の水準で過度に警戒することもないのだが」と壁谷氏は指摘している。
(東京 11日 ロイター)
(ロイター日本語ニュース 河口 浩一記者 編集 橋本浩)
© Thomson Reuters 2012 All rights reserved.


ソーシャルメディア特集
欧州債務危機
拡大する反政府デモ