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コラム:円安のカギを握る米債務問題=熊野英生氏
2012年11月2日 / 02:27 / 5年前

コラム:円安のカギを握る米債務問題=熊野英生氏

[東京 2日 ロイター] 政治には「希望」がある半面、厳しい「現実」もある。だから、人々は政治の振る舞いに、あるときは熱狂・歓喜し、あるときは失望・落胆する。

両者は、ユートピアニズムとリアリズムと言い換えてもよい。政治は振り子のように、時代によって「希望」と「現実」のいずれかに偏る。残念ながら2012年は、「希望」の部分が消えうせて、日米政治がともに「現実」の時期であった。おそらく来年も同じだろう。

野田政権は、財政再建の理念を掲げて、消費税法案を通した後は、希望から現実一色へと塗り変わった。かつて、麻生政権、菅政権がたどった末期の経過をなぞっている。おそらく近いうちに衆議院の解散・総選挙があっても、その勝敗がいずれであっても、振り子はすぐには「希望」の側には反転しないだろう。来年には参議院選挙が控えていて、与野党が景気回復のための骨太のプランを描き出すよりは、失点をクローズアップする戦術を取りやすいからだ。

目先の臨時国会をみても、現実は希望からは程遠い状況だ。野田政権は経済再生を掲げるものの、予備費4000億円を使った経済対策は小粒であり、実体的効果はほとんど見込めない。日銀の追加金融緩和への依存が一層強まって、実効性のある景気てこ入れができないでいる。

一方、国内景気は、景気後退リスクが高まっている。生産は悪化度合いを強めて、当面は企業収益にも下押し圧力がかかることになろう。目下、既存の政策的てこ入れは、エコカー補助金・住宅エコポイントの終了(ぞれぞれ9月、7月)によって弱まっている。10月からは、公的年金の特例水準の解消が始まった。来年には震災対策効果の勢いが減衰してくるだろう。これらを称して、「日本版財政の崖」という人もいる。

日本の政治リスクは、目前の景気後退リスクにきちんと対応ができないことにある。政治の世界は、主導権を巡って混乱し、経済界からみて、貴重な時間を使い果たしてしまうことになるのが心配だ。

<再度の米国債格下げリスク>

外需依存の日本経済にとって最も大きなリスクは、米国経済である。11月6日の米大統領選挙を前に、必要とされる「財政の崖」への対応が採られようとはしない。オバマ大統領が再選されても、ロムニー候補が当選しても、財政がいきなり大きく景気を下押しする段差はある程度均(なら)されるだろう。しかし、その段差は完全には穴埋めできずに、来年初めからマイナス作用が生じることは避けられないと覚悟しないといけない。

火種は、大統領選挙と同時に行われる米議会選挙で、ねじれが継続するかどうかにある。大統領と議会のねじれが継続すれば、法案が議会を通らずに、期限ぎりぎりまで対策が出ないというリスクがある。財政の崖にいったんは手当てができても、次には債務上限問題が控える。米債務残高は年末までに上限にぶち当たり、2011年5月以降のような厳しいやりくりを迫られる可能性がある。11年のときは米国債が格下げされる苦い経験があった。今後の議会運営の混乱次第では、再度の格下げリスクも否定できない。

米経済は、何とか「財政の崖」問題を取り戻したとしても、雇用拡大ペースがかつての勢いを取り戻すのにまだ時間がかかるだろう。

<85円以上の円安は期待薄>

こうした状況下で為替レートを考えるとき、ポイントは米長期金利である。今年は概ね1%台の超低金利が続いており、それがドル安・円高とも関係している。もし景気拡大の予想が強まれば、米長期金利は上昇し、日米金利差は拡大するだろう。そのときには、ドル円レートは円安に向かう。

細かな動きを追うと、米長期金利は今年7月をボトムに緩やかには上昇してきている。しかし、年後半の米長期金利は上昇しそうであってもなかなか上昇せず、ドル円は1ドル77円近辺の円高水準からごくわずかしか円安方向に戻さない展開であった。筆者は、年末にかけては、まだ米経済が悪化するリスクは残っており、77円台に戻ってくる可能性があると警戒感を解いていない。

おそらく為替レートの方向感がいくらか変化するのは、来年2月くらいになってからだろう。この時期は、財政の崖の影響が顕在化し始めるタイミングではあるが、現時点で織り込まれていない要因が動き始める可能性が高い。米国の新政権が新しい顔ぶれでスタートするのは1月中旬である。

財政の崖の対応については、11月6日に米大統領が決まり、大統領と議会の関係が明らかになれば、その後から政策対応の行方がいよいよはっきりとし始めるだろう。

楽観的な予想を言えば、「小さな政府」を標榜する共和党が議会で思いのほか寛容な姿勢に転じて、当初考えられていたリスクが小さくなるシナリオである。債務上限引き上げ法案もすんなり通る。この場合は、景気楽観に振れて、ドル高・円安へと向かうだろう。悲観的な予想は、年末に連邦政府の債務残高が上限額に達して、財政運営のやりくりが厳しくなり、来年に入っても財政の崖への対応がずるずると後ずれする。この場合は、ドル安・円高がさらに進む。

筆者は、2つのシナリオのうち、どちらかと言えば、楽観的なシナリオに傾くと予想する。オバマ大統領にしても、ロムニー候補にしても、新大統領として就任した直後から、11年5―7月のように見栄えの悪い対応にはしないだろう。

そのときの為替レートは、年末まではほぼ横ばいの1ドル77―82円の円高水準で推移するのが、来年に入って2月くらいから警戒感が薄らぐ。2―5月くらいまでは米長期金利が上昇、為替レートは1ドル80―85円くらいのレンジで円安に向かうとみる。ただし、その後は、米経済の回復期待は、頭打ちになるだろう。米経済の力量は落ちており、それ以上のドル高・円安は期待できないと考える。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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