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ボトムアップで「第3の開国」を実現しよう=黒川清教授
2012年3月6日 / 04:22 / 6年前

ボトムアップで「第3の開国」を実現しよう=黒川清教授

黒川清氏は医学博士で東京大学名誉教授。日本学術会議会長、内閣特別顧問などを歴任し、現在は政策研究大学院大学教授、日本医療政策機構の代表理事。2011年12月より国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の委員長。写真撮影:佐久間哲男

明治維新による第1の開国、敗戦後の第2の開国は、外からの「黒船」のような圧力とトップダウンでなされた。しかし、第3の開国はボトムアップで実現する必要があると政策研究大学院大学の黒川清教授は語る。

提言は以下の通り。

<サプライサイドの「ものづくり神話」との決別を>

日本の低迷はいつ始まったのか。私は「失われた20年」という表現の通り、1990年代初頭に始まったと考えている。

起点はバブル崩壊ではない。およそ20年前に冷戦が終わり、世界に市場経済が急速に行き渡り始めた。それと同時にインターネットが登場し情報が国境を越えて広がり、つながることによるビジネスが創出された。90年代に出現した検索サイトやオークションサイトの隆盛に見られる「ウェブ時代」の到来である。

ウェブによる世界の変化の加速度はきわめて早く、Wiki、グーグル、フェイスブック、ツイッター、スマートフォン、iPadなどは世界のありようを大きく変えている。先進国の金融危機、中国など新興経済の急成長、パワーバランスの激変、アラブの春などの変化だ。

世界経済の牽引役は、サプライサイド(供給側)ではなく、多様なデマンドサイド(需要側)に移り始めた。にもかかわらず、日本企業の経営者はサプライサイドの発想に拘泥し、今も「ものづくり神話」と決別できずにいる。モビリティ、ソーシャルメディアの普及がますますデマンドドリブン(需要主導)の流れに拍車をかけていることを考えると、暗澹たる気持ちになる。

サプライサイドのものづくり信仰ではなぜだめなのか。それを示す良い例がある。

米アップルのiPodやiPhoneの部品はかつてその5割以上が日本製だったようだが、最新のiPadでは大きく減っているという。日本企業は「質ならば負けない」というが、需要側の要求は労働コストの低い地域で作られた部品で十分に満たされている場合もあることを知る必要がある。

多様なデマンドサイドの可能性に対してどこに強みを活かすか、差別化ができるかが大事な視点だ。さらに時々刻々の変化に対応し、予測し、決断するスピードが求められる。世界の競合相手は待ってくれない。

「強さ」を認識するのは易いことだが、「弱さ」を自覚することは難しい。しかし、グローバルに広がる世界では「弱さ」を認識し、強さを補強する適正な相手を、国境を越えて知っていることが大事なのである。

率直に言って、過去の成功モデルや栄光にとらわれ、「グローバル」という言葉をカタカナでしか理解できない日本の「タテ」社会の中から担がれている経営陣では、この20年間に世界規模で起きた変化を肌感覚で理解できるとは思えない。

これは感覚的な問題でもある。ならば潔く身を引くか、世界を知る若手を、そして多様な世界のデマンドを感じ取れる多様な人材を、もっと社内に招き入れるか抜擢するなりして、彼らの声を経営に反映すべきだろう。

今のままでは、日本は政財界の各所に巣食う「鉄のトライアングル」時代の発想を持つ支配層とともに、凋落の一途をたどってしまう。彼らは、既得権を守るために、意識してかあるいは無意識のうちに、つぶれるべき企業ですら守ってしまうだろう。そのつけを払うのは国民だ。3.11の東日本大震災・津波・フクシマで、従来からの日本の支配層の問題解決能力の低さは明白となった。日本再生のためにはまず彼らの退出を促したい。

<日本は価値観の大転換期にある>

時代遅れの支配層の後に、年齢だけ若い世界潮流の無理解者たちが座っても仕方ない。日本の将来は、言うまでもなく次代を継ぐ者たちの素養に左右される。

やや酷な言い方だが、「いい大学」「いい会社」を求め続けた親に育てられた今の50代、40代、30代の中に、前述した世界潮流を肌感覚で理解できる人はきわめて少ないだろう。

社会人として、いわゆる「独立した個人」の立場で、国境を越えた「他流試合」を実体験していないのが弱いところだ。日本が変わるには、そうした世代の中に隠れた数少ない変革者、「変人」、「出る杭」たちか、あるいはもっと若い世代へのバトンタッチが必要だ。国境を越えた人材の採用が大事だ。

若い世代にはまだ時間の余裕があるので、「独立した個人」として海外生活の実体験を進めたい。ホームステイもよし、休学もよし、休職もよし、あるいは勤務先が既得権を守るためだけに存在していると思うならば退社も選択肢だろう。若者がそこでいつまでも働く理由などない。

「独立した個人」として海外を知れば、デマンドドリブンの世界経済で生き残る術を得ることができる。たとえば、今アフリカやインドでは、スマートフォンが急速に広がっているが、その端末は何のために使われているか知っているだろうか。

ソーシャルメディアはもちろんだが、実は銀行口座の決済端末としても使われている。銀行の支店が出るほどの社会インフラができていないという状況を超えてしまうのがウェブ時代なのだ。サプライサイドの論理だけで考えていると、こうしたデマンドサイドのローカルなニーズに気付くことがなかなかできない。

海外に滞在できなくとも、ツイッターやフェイスブックで英語や中国語を用いて情報発信する努力をしてみるのも一計だろう。真剣に呼びかければ、海外からレスポンスは必ずあるものだ。

日本の外に出て「独立した個人」として外と交わり、外を感じ、外を知ること、そこから多様性(Diversity)と異質性(Heterogeneity)を感じ取る、受け入れる感性こそ、これからの日本人に必要なことである。

このような人たち、つまり日本の素晴らしい側面を知りつつ、弱さも感じ取れる、グローバル世界の一員だという意識がはぐくまれる、自然に良い意味での愛国心を培われる人たちが必ず日本の強みになる。

5年、10年、20年と経ったときに、「独立した個人」であるこのような人たちのネットワークの広がりこそが、予測できないような変化を見せていくであろう「グローバル」世界での日本という国のシステム、そして安全保障の根幹となるだろう。

明治維新による第1の開国、そして敗戦後の第2の開国による世界との関係再構築は、外からの「黒船」のような圧力とトップダウンでなされた。しかし、3.11で見えた日本の第3の開国は、ボトムアップでの広がりの可能性を示している。

東日本大震災以降の草の根レベルでの情報発信やコミュニティの形成、公的な支援に頼らないイノベーションの取り組みなどを見ると、「起業家精神」に富んだ若者たちが活躍し、そのような人たちに対する社会的認知が広がりつつあるように見える。日本もいよいよ価値観の大転換期を迎えようとしているのかもしれない。なんとしても、この変化をつかみ取らなければならない。

(3月6日 ロイター)

(タグ:日本再生への提言 Innovation1 Governance1)

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