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討論型世論調査で分かる深い民意、政治課題解決に有効=曽根泰教教授
2012年3月26日 / 02:27 / 6年前

討論型世論調査で分かる深い民意、政治課題解決に有効=曽根泰教教授

曽根泰教氏は政治学者で、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。同大学法学部教授、総合政策学部教授を経て現職。ハーバード大学の客員研究員などを歴任。慶應義塾大学大学院博士課程修了。提供写真(撮影:野口浩一)

社会保障、財政再建、原発問題――。政治が長期の国民的課題に有効な政策を打ち出せない背景には、政策選択の指標となるべき民意のありかが見えにくいという国民側の問題もあると曽根泰教・慶應義塾大学大学院教授は語る。

同氏が提案する処方箋は以下の通り。

<ヒントは裁判員制度、国民が政策論議に責任を持つ>

日本再生のビジョンをあれこれ語るのはたやすいが、この国の前途には世代をまたがるあまりにも多くの難題が立ちはだかっている。社会保障、財政再建、原発問題――。政治はそうした長期の国民的課題に解決策を見出せていない。

これは日本に限った問題ではないが、代議制民主主義が直面する大きな課題は、議論を尽くして合意形成を目指す「熟議」から国会がかけ離れた状況にあることだ。熟議のためには、市民全員参加よりも市民によって選ばれた代表たちが議論したほうが良いとの考えで代議制が生まれた。ところが、現実の国会は与野党の意見表明や追及・非難の場になっており、民意をもとにじっくり議論を重ねようという雰囲気にはない。

民意のほうも反応型でムードに流されやすい。ときおり訪れる英雄待望の改革ブームがそのことを示している。政治家、国民のどちらの側から見ても、この国の民主主義から熟議は失われつつある。この状況を変えなければ、社会保障から原発問題に至るまで辛い政治的決断は次々と先送りされ、そのツケが将来世代に回され続けていくことになるだろう。

熟議を取り戻す責任は政治家だけでなく、われわれ国民の側にもある。「ねじれ国会」の問題があるとはいえ、合意形成できない政治家たちに同情の余地はないが、上述したような長期的難題に対して決断を下すには、合意形成の前提となる「民意のありか」があまりにも分かりにくい。世論調査があるとの反論が聞こえてきそうだが、十分な情報に基づく討議を経てない瞬間的な二者択一の回答が、政策決定の有効な参考指標になるとは思えない。

たとえば、原発については再稼働問題から放射性物資の除染問題、そして数万年先の世代にまで影響を与えるであろう放射性廃棄物の最終処分問題まで政策を議論し決断しなければならない。民主主義の歴史の中で、これほど長期のスパンにわたる問題を取り扱ったことなどないだろう。はっきり言って、政治家だけで決断できるような問題ではない。国民の側も主体的に議論を重ねたうえで民意をしっかりと伝えていく必要がある。前置きが長くなったが、私が討論型世論調査(デリバラティブ・ポール、以下DP)の意義を強く訴える理由がここにある。

DPはスタンフォード大学のジェームス・フィシュキン教授らが発案したもので、端的に言えば、世論調査と熟議を結びつけたものだ。後述するように、すでに日本を含めた世界各国で実施されている。

仕組みはこうだ。まず議題に対して母集団を無作為抽出して(たとえば全国有権者3000人を対象に)通常の世論調査を行う。そして、その回答者のうち100─300人の希望者に討論フォーラムに出席してもらう。討論に必要な資料は事前に送付する。数日をかけて、小グループでの討論会や全体会議を繰り返し、また専門家や政策担当者への質疑応答の場も設ける。

重要なのは、一度しか回答を聞かない通常の世論調査とは違い、討論を重ねることで参加者の意見が変わっていくことだ。その変化を複数回のアンケート調査などで捕捉することで、熟議を経たより深い民意が分かるようになる。また、賛成派・反対派の意見をバランスよく揃えようと参加者選びの際に恣意的になってしまいがちなタウンミーティングとは違い、DPは無作為抽出なので参加者の構成が国民の縮図になりやすい。

ちなみに、無作為抽出による代表選出の仕組みは、古代ギリシャにもあった。アテネではクジ引きで選ばれた500人(500人委員会と呼ばれる)が市民の代表として審議を定期的に行い、重要な政治的決定を下していた。選挙と試験、そして抽選は政治的な決定の仕組みとして何ら突拍子もないことではない。

まだイメージをつかみにくい人は裁判員制度を思い出してもらいたい。無作為で有権者(市民)から選ばれた裁判員が裁判官とともに審理に参加して証拠調べを行い、有罪か無罪かの判断に加えて、有罪の場合の量刑の判断まで行っている。むろん、裁判員制度とは違い、DPの結果はあくまで補完的な参考指標であり、何ら強制力を持つものではない。しかし、ひとたび政治家が「参考にする」と口にすれば、その結果をまったく無視することはできないだろう。調査結果を政策に直結させる仕組みを、今すぐ作ることは難しいが、政策選択に対して影響を与えることは可能だと思う。

DPは1994年に英国で最初の実験が行われ(テーマは「治安と犯罪」)、その後、15以上の国・地域で40回以上実施されている。日本でも私がセンター長を務める慶應義塾大学DP研究センターが中心になってすでに複数回実施した。神奈川県藤沢市では市の長期のあり方(総合計画)について2回、また昨年5月には年金について日本初の全国規模のDPを2泊3日で実施した。

むろんDPにも課題はある。まず何百人もの参加者を全国から集めて討議するとなれば、会場費や参加者に支払う交通費・宿泊費だけでも実施コストは相当な額に及ぶ。海外では日本円にして数億円レベルになったこともあると聞く。また議題を選んでから準備し、世論調査から討論会のすべての日程を終えるまでには少なくとも3か月以上はかかる。マーケットから早急に解決を求められているようなテーマにはそぐわない。

ただ、賛否両論があって結論を出しにくい長期的課題の解決には向いている。たとえば、原発問題で政策議論の参考資料として実施するのはいかがだろうか。答えを出しあぐねている、あるいは辛い決断を避けている政治家たちも、深い民意を知ることができれば、それを基に合意形成に向かいやすくなるのではないだろうか。

(3月26日 ロイター)

(タグ:日本再生への提言 Politics1)

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