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コラム:財政赤字削減反対派の告白=カレツキー氏
2012年11月16日 / 08:32 / 5年前

コラム:財政赤字削減反対派の告白=カレツキー氏

アナトール・カレツキー (2012年11月15日)

11月15日、米国、英国、そしてイタリアとスペインを含む欧州諸国に財政危機などない。ギリシャは別だが、一国の惨劇だけをもって、世界全体があらゆる国の債務をめぐりパニックに陥ることはとても正当化できない。写真は昨年9月撮影(2012年 ロイター/Gary Hershorn)

告白しよう。私は財政赤字削減の必要性を否定する「ディフィシット・ディナイアー」だ。良識ある社会でこんなことを口にしようものなら、身勝手な詐欺師とののしられるだろう。気候変動を否定する者よりもたちが悪いと。

しかし米国の「財政の崖」から、緊縮への抗議活動で麻痺する欧州、財政目標を達成できずに分裂する英連立政権に至るまで、財政危機を目にする度、私はどうしても同じ結論に達してしまう。これら諸国の指導者は深呼吸してリラックスし、財政赤字の心配など止めればよいと。

というのも、米国、英国、そしてイタリアとスペインを含む欧州諸国に財政危機など実在しない。ギリシャは別だ。しかしギリシャ一国の惨劇だけをもって、世界全体があらゆる国の債務をめぐりパニックに陥ることはとても正当化できない。

統計的事実を考えてみよう。各国の金利は前代未聞の低水準にあり、つまり各国政府は過去に類を見ないほど容易に資金を調達できる。破綻が迫っている前兆とは程遠いのだ。

特筆すべきことに、熱心に国に資金を貸し出している投資家は投資素人の未亡人や孤児でも、政府が統制する中央銀行でもない。ヘッジファンドや大富豪、政府系ファンド(SWF)、ノルウェーやシンガポールなど金融面で洗練された国々が過去3年間というもの、株式や不動産、金よりも国債に多額の資金をつぎ込んでいるのだ。

洗練された投資家が財政赤字パニックに動じないのはなぜか。彼らは政府、少なくともユーロ圏外の政府が破綻状態とは程遠いことを知っているからだ。実際、債務水準は危険なほど高くはない。国際通貨基金(IMF)によると、財政の崖で想定されるブッシュ減税が延長され、財政支出の削減が一切実施されなかったとしても、米国政府の純債務は2014年から17年にかけて国内総生産(GDP)対比89%で安定的に推移する見通しだ。ドイツ、フランス、イタリア、英国、スペインでも、同様の安定的な債務水準が予想されている。債務比率が85─100%の範囲で安定するとすれば、憂慮を要するほどの高さではない。米国の債務比率は1940年代末に110%に達し、英国はそれよりさらに高かった。しかし第二次世界大戦後に国家が破綻すると真剣に心配した者はだれ1人いなかったし、その自信は正しかったことが証明された。米英両国とも、債務比率が100%を超えた後の20年間に力強い経済成長を経験したからだ。

現在、米英の財政状況は当時よりさらに問題が少ない。その一因は、2008年の金融危機以来発行された国債の3分の2を中央銀行が購入したことだ。米連邦準備理事会(FRB)とイングランド銀行(英中央銀行 BOE)はそれぞれの国の政府の一部なので、両者が保有する国債は政府が自分自身から借りている形だ。中銀の保有分を政府と連結すれば、国が実際に市民から借りている債務は米英両国ともGDPの約65%に下がる。

英国は遅ればせながら財政の現実に目覚め、財務省は9日、理論上BOEに支払うことになっていた利息を帳消しにするという革新的な措置を決断した。瞬時にして350億ポンドの政府債務と支出が削減されるだろう。

次の論理的な措置はBOEが保有する3750億ポンドの国債を全額帳消しにすることかもしれない。そうすればGDPに対する政府債務比率を約25%分削減できる。

労せずして債務負担を減らし、国家破綻をめぐる国民の不安を一掃できるこんな明白な改革に、政治家はなぜ抵抗するのだろう。理由は4つあり、うち3つは妥当性があるがもう1つはそうでもない。

第1に、2008─09年の金融危機では、政府の借金が恐ろしく制御不能になる局面があった。税収が着実に回復しなければ09年には真の財政破綻が現実化しそうだった。しかし過度の増税や財政支出の削減を見送り、経済成長によって財政赤字を抑制しようとした米国、ドイツ、中国その他の国々では速やかに景気が回復した。対照的に英国、スペイン、イタリアは過剰な財政赤字削減が裏目に出て、緊縮策により経済成長が阻まれたため公的債務負担がより速いスピードで増加した。

筋の通った第2の懸念は、先進国経済はどれも人口動態や医療コストの増大に起因する真正の財政問題を抱えている、というものだ。しかしこうした長期的課題は、2008年の世界金融危機に端を発する一時的かつ巨額の赤字とは無関係だ。

医療コスト抑制を目的とした供給サイド改革、退職年齢の引き上げ、年金物価スライド制を受給者に対して寛大でない方向に変更することなど、人口動態問題の対処に必要な厳しい決断の数々は、いずれにしても下す必要がある。現在の債務比率がGDP比40%であれ、80%であれだ。しかしこうした財政問題の時間軸は数十年単位だ。景気の弱さを深刻化させ財政見通しをさらに暗くするような緊急行動を採る必要はない。

3つ目の妥当な政治的懸案はインフレ懸念だ。中央銀行が政府に大規模な貸し出しを行う場合、金利が低くなければ多額の財政赤字はファイナンスできない。

量的緩和策が始まった時には、インフレを引き起こし通貨の減価につながりかねないとの不安があった。しかし結局、こうしたインフレ懸念には根拠がなかった。驚くには当たらない。中銀が政府をファイナンスするために印刷したマネーは、市中銀行のデレバレッジが引き起こしたマネーサプライの縮小を補う水準にはまったく及ばないからだ。

インフレ懸念が片付いたことで、財政赤字に対する態度はそろそろ落ち着いたのではないか。もっともあと1つ、財政パニックを起こすあまり妥当性のない理由が残っている。原則的に政府と名の付くものにはすべて反対する保守派の政治家は、財政赤字問題を盾に政府支出削減を要求する一方で、増税が財政赤字の削減に役立つことを否定している。

しかし既に結論は出た。6日の米大統領選を経た今、財政赤字嫌いはもはや財政支出の大幅な削減を意味しなくなった。代わりに増税、特に富裕層に対するそれが主要な論点となりつつある。

こうしたことが明白になった以上、私は多くのティーパーティ(茶会)運動参加者や増税反対ロビイストを「ディフィシット・ディナイアー」派に迎え入れようと思う。

*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKal Dragonomicsのチーフエコノミストも務める。

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