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コラム:ラインハート・ロゴフ研究の誤りに学ぶ=サマーズ氏
2013年5月7日 / 06:13 / 4年前

コラム:ラインハート・ロゴフ研究の誤りに学ぶ=サマーズ氏

5月5日、元米財務長官のローレンス・H・サマーズ氏が、ラインハート・ロゴフ研究の誤りから学ぶポイントを語った。写真は昨年10月、ニューヨークで撮影(2013年 ロイター/Carlo Allegri)

ローレンス・H・サマーズ

[5日 ロイター] 経済論壇に加え、政治論争の少なからぬ部分がここ数週間というもの、ハーバード大学のわが同僚(かつ友人)であるカーメン・ラインハート、ケネス・ロゴフ両氏(RR)の研究をめぐる議論に費やされてきた。

彼らの研究は、政府債務の対国内総生産(GDP)比率が90%を超えると、その国の経済成長が減速する可能性が高いことを立証したものだと広く解釈されている。

マサチューセッツ大学の研究者らが、この研究の間違いを証明した。RRはコーディングの誤りにより集計に必要な重要なデータが一部抜け落ちていたことを認めた上、数カ国についての最新データを使えば、自らが主張した一部統計上のパターンの強度が大幅に低下する点も指摘した。RRが結論の基とした平均値を算定する上で、情報をどのように加工したかについての問題も持ち上がった。

多くの人々の言い分では、疑問点が提起されたことで、財政赤字の早期削減を訴える世界中の緊縮論者の主張が揺らいだ。数百万人が失業したのは、RRが緊縮策に対して決定的な知的材料を提供したせいだ、と責め立てる者さえいる。

一方で、再検証された後でもなお、一連のデータは大半の先進国における財政赤字および債務削減の重要性を裏付けていると考える者もいる。もっとも今回の論争により、経済政策の論点に関わる統計研究の有用性に疑問が呈されたとの見方は残る。

この論争の落ち着きどころはどこか。相当の量の経済研究を手掛け、政策当局者としてそうした研究を利用し、財政刺激と緊縮をめぐる議論に論者として加わった私の視点から引き出される結論は、以下のようなものだ。

第一に、RRの経験は経済研究に関する慣習の進化を加速させるだろう。ロゴフ、ラインハート両氏は慎重で誠実な研究者だと見なされており、それは本当だ。経済研究の過程に詳しい者なら誰しも、彼らが犯したようなデータの誤りは日常茶飯事だというつらい事実を認めるだろう。実際、JPモルガン・チェースの「ロンドンの鯨」が取引に利用したリスクモデルには、RRが犯したのとさほど違わない誤りが含まれていた。

今後、研究の著者や刊行物、評論家は、重要な研究結果については広く流布する前にもっと検算に力を注ぐ必要がある。さらに一般的なことを言えば、単一の統計結果だけに基づいて、重要な政策上の結論を導き出すことがあってはならない。異なる方法論のアプローチによる複数の研究が示す証拠の蓄積に基づいて、政策判断は成されるべきだ。

その上でなお、「モデル」から引き出される結論を、その背後にある動機を直感的に理解することなく受け入れることは控えるべきだ。研究者が自らの研究結果を政策論議に取り入れてほしいと望むのは正しいし、理解できる。しかし彼らには、研究結果を単純化し過ぎたり、誇張する者を思いとどまらせ、場合によっては反論する責務がある。

第二に、政策論議にかかわるすべての者は、過去にさかのぼった統計分析について健全な懐疑心を保つ必要がある。数兆ドルが失われ、数百万人が職を失ったのは、1945年から2005年の60年間の経験から「米国の住宅価格は総じて右肩上がりを続ける」という教訓を得ていたためだ。データや分析の間違いではない。ある時点までは一貫していたデータの規則性が原因なのだ。

過去の経験から将来の見通しを引き出すことは常に根深い問題をはらんでおり、細心の注意を払う必要がある。今考えてみれば、約30カ国のデータによって、債務がどの水準を超えれば危険になるかを推計できると信じるのは愚かだ。そうした境界線が存在すると仮定しても、自国通貨の有無、金融システム、文化、開放度、経済成長の経験における大きな相違に関わらず、すべての国でその水準が同一であるはずはないだろう。言い古されている通り、相関性は因果関係を立証しないし、高債務と低成長が併存する傾向があるとしても、それは低成長後に債務が積み上がることを反映している。

第三に、RRの研究が財政赤字削減の緊急性をめぐる米英の右派著名人らの主張を裏付けなかったとはいえ、左派がそれみたことかと快哉を叫ぶのは概ね不適切だ。

緊縮策について彼らを批判するのは馬鹿げている。そうした政策の立案者は最初に政策を選択し、その後に学術的な裏付けを探したのだ。

債務がこの水準を超えれば自動的に破滅を招くという境界線は存在しないのかもしれないし、英米の経験はいずれも、需給ギャップがマイナスで金利がゼロに近い経済における財政引き締めの有害性を示唆しているが、無節操に債務を蓄積してもよい、あるいはすべきだと想定するのは重大な間違いだ。

極端に楽観的な予測に基づくのでない限り、景気回復後の債務水準の持続性を確保することは、ほぼすべての先進国において不可欠だろう。

今は緊縮策を採るべき時ではないが、債務による支出が支出削減や増税を代替し得ず、そうした痛みを伴う行動の先延ばしに過ぎないことを忘れると、危険な代償を伴うことになる。

(ローレンス・H・サマーズ氏はハーバード大学教授。元米財務長官)

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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