春闘大幅賃上げは難しい情勢、消費拡大への期待後退
[東京 5日 ロイター] 今後の消費動向を大きく左右する今春闘での大幅な賃上げ達成は、かなり難しい情勢になってきた。経営者側は賃上げ容認姿勢を示したが、国内景気の先行き不透明感が強まる中で、世界的な金融市場の動揺や原材料高など企業収益の足を引っ張る材料が多く、企業マインドが慎重化しているためだ。
昨年の夏季賞与に続き前年末賞与も前年割れとなる公算が大きく、賃上げが消費拡大の起爆剤になるとの期待感は急速に後退している。
<悪化する企業環境、大企業賃上げ率改善は小幅か>
日本経団連は2008年を「次なる躍動の10年に向けたスタートを切る年」とし、10年以内に主要国中で最高水準の所得水準を達成することを目標に掲げた。しかし、景気の先行き不透明感が強い中、経営側が「賃上げ容認」を達成する余力があるかどうかは微妙だ。民間エコノミストからは「劇的な改善は見込めない」(日興グローバルラップ・シニアアナリストの一戸三千雄氏)との声が早くも聞こえてきている。
足元の賃金は依然、低調な状況が続いている。厚生労働省が発表している毎月勤労統計調査よると、12月の現金給与総額(事業所規模5人以上)は、1人平均で前年比マイナス1.9%と、04年6月のマイナス2.0%以来となる大幅な減少率となった。ボーナスなどが含まれる特別給与の落ち込みが影響したとみられている。
特別給与は11─12月平均で前年比マイナス3.5%程度に落ち込んでいるため「12月確報で上方修正され、1月に増加したとしても、3月31日に公表される年末賞与は前年割れとなりそう」(BNPパリバ証券・エコノミストの加藤あずさ氏)と予想する声が少なくない。
企業を取り巻く環境も悪化しつつある。米国でのサブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅融資)問題、建築着工の遅れ、原油価格の上昇などが圧迫要因だ。日銀が07年12月に発表した短観では、大企業製造業・業況判断指数(DI)はプラス19に悪化し、05年9月以来の低水準となった。また、財務省によると、7─9月期の経常利益は前年比マイナス0.7%と、原油・原材料価格の上昇などが影響し21期ぶりの減少に転じた。
さらに春闘を目前に、経営者側の意気込みを委縮させる材料が目立ってきた。米国の07年10─12月期国内総生産(GDP)は前期比年率プラス0.6%と、3四半期ぶりの低水準に落ち込んだ。
実質実効為替レートは1月に99.5(1973年3月=100.0、数字が小さいほど円安)と、06年11月以来の円高水準となった。こうした要因は、日本経済をこれまでけん引してきた輸出企業の収益水準が今後、プラス基調からマイナス基調にに向かうとの懸念を強める要因と市場では見られている。景気の動きと相関が強い鉱工業生産も08年1─3月期に前期比マイナスに転じるとの見方が支配的になってきた。
こうした中、労務行政研究所が発表した08年賃上げ見通しは、大幅な賃上げへの期待を一段と冷え込ませる結果となった。同研究所がまとめた学識者364人の見通しの平均は、主要企業ベースで前年比2.0%の上昇となった。07年予想(1.9%)をやや上回るものの、大幅な伸びが困難なことが示された。90年以降をみると、同研究所の見通しは、大手企業の妥結賃金上昇率(日本経団連集計)との相関が強く出る傾向にある。
<さらに厳しい中小企業の環境、マクドナルド訴訟も足かせに>
大企業では小幅ながら賃上げ率拡大が期待できるものの、雇用の約7割を占める中小企業では、状況は一段と厳しい。12月日銀短観での非製造業の業況判断DIは、大企業ではプラス16だったが、中小企業ではマイナス12となり、28ポイントもの「格差」がみられた。
第一生命経済研究所・副主任エコノミストの柵山順子氏は「原材料価格の高騰、消費の伸び悩みなどを背景に、中堅中小非製造業の業況は悪化が続いており、賞与の支給自体を見送る企業も増える可能性があることを考えると、賞与の伸び悩みが現金給与総額を押し下げる構図が当面続きそう」との見方を示す。
農林中金総合研究所・主任研究員の南武志氏も「中小企業では、すでに人件費負担増が収益圧迫に作用し始めるなど07年と比べて賃上げ状況が劇的に改善することは期待できない」と指摘する。
東京地裁が「日本マクドナルドの店長は管理職にあたらない」として、未払い残業代を払うよう命じた判決も、春闘での大幅賃上げをためらわせる要因となりそうだ。一戸氏は「派遣社員やパートの雇用改善を求める動き、60歳以上の再就職環境改善の動きなどが出てきており、総人件費は減らない」とした上で、こうした要因が企業のコスト増への警戒感を強め、賃金引上げに慎重になるとの見方を示した。
春闘全体への影響が大きい金属労協(IMF─JC)の集中回答は、3月12日に予定されている。日本経団連の意気込みとは裏腹に、各企業はそれぞれの経営環境や収益水準を考えながら「財務のヒモ」を締める方向に動く可能性が高い。
(ロイター日本語ニュース 武田 晃子記者、児玉 成夫記者;編集 田巻 一彦)
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