福井日銀総裁の政策運営に高い評価、世界経済変調リスク対応は新総裁に

2008年 03月 7日 18:20 JST
 
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 中川 泉記者  

 [東京 7日 ロイター] 福井俊彦日銀総裁は7日、任期満了を控えた最後の金融政策決定会合を終えて会見し「金融政策は機動性を忘れなければ、軌道から外れる心配はない」と強調した。

 失われた10年を経過してもなお不透明感の払しょくできなかった2003年3月の就任直後は量的緩和を大胆に進め、景気回復の基調確認後は一転して金利引き上げ路線を推進。「機動性」を強調した言葉通りにメリハリの利いた金融政策運営スタンスは内外から高く評価されている。ただ、米サブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン )問題に端を発した世界的な経済変調のあおりを受け、金利正常化に関しては道半ばで退任することになった。米経済の後退リスクと資源価格の上昇を背景にしたインフレリスクという2つの政策課題を前に、次期総裁には多くの課題が引き継がれることになった。

 <臨機応変な政策対応、強い信念でリーダーシップ発揮>

 福井総裁は日本経済の状況に応じて、大胆に金融政策のかじを切ってきた。福井総裁の就任当初、米国のイラク攻撃を開始で世界経済に不透明感が広がり、国内では金融機関の不良債権処理の加速に当時の竹中平蔵・経済財政担当相が取り組み、デフレからの脱却は先が見えない状況だった。

 就任からわずか5日後の金融政策決定会合では、当座預金残高の引き上げを決定。さらに金融緩和の波及メカニズム強化のために企業金融や金融調節での措置を検討するよう指示。その後も段階的に当座預金残高を引き上げ、最終的に30─35兆円とし、金融システム安定や企業金融円滑化のため、多用的に対応した。日銀内には、福井総裁の強いリーダーシップが、こうしたじん速な対応につながったとの見方が多く、不良債権処理・加速化の政策を金融面から下支えした面には民間エコノミストからも高い評価の声が出ている。

 金融緩和一辺倒かと市場が思い出した2005年後半から、福井総裁はマーケットに対し、いずれかの段階で金利を上げる時がくるとのメッセージを出し、方向転換を探り始める。

 06年3月に福井総裁は、金利機能を復活させるため、膨らんだ当座預金残高の円滑な吸収とプラスの政策金利への移行に視野に、量的緩和政策をやめ、ゼロ金利政策に移行。その年の7月には政策金利を0.25%に引き上げ、プラス金利が回復した。07年2月には0.5%まで金利を引き上げ、現在に至っている。

 日本経済が拡大基調に入ってからの福井総裁は、金利機能を通じた最適な資源配分が重要だと説き、いわゆる中立金利に向けた「金融正常化」への意欲をにじませながら、徐々に金利を引き上げていく姿勢を明確に打ち出すようになった。その姿勢は、会見などを通じて常に他の政策委員や日銀幹部らの先を行くものとして市場に受け止められ、いわゆる「タカ派」と目されるようになった。

 しかし、07年夏場からのサブプライムローン 問題による世界的な不透明感の強まりから、3回目以降の利上げに踏み切ることなく退任することとなった。 

 <政策透明性向上にも腐心、積極的な提言も>

 福井総裁はこの間、金融政策の透明性向上にも取り組んできた。05年4月にいわゆる「展望リポート」で公表する見通し期間を翌年分まで含めて2年度分に拡張。06年3月には量的緩和脱却に際して、新たな金融政策の枠組みを導入し、今後1─2年のがい然性の高い経済見通しとリスク、より長期的なリスクの点検という「2つの柱」により金融政策を運営する仕組みを取り入れた。さらに日銀政策委員がイメージする中長期的な物価安定の水準を公表。量的緩和時代の消費者物価指数の上昇率を時間軸としたわかりやすい金融政策とは一線を画し、ある程度の物差しを用意しながら、経済状況に応じて裁量余地を確保した柔軟な政策の枠組みを確保した。

 市場との対話という面にも、福井総裁は丁寧な対応を心がけた。言葉を駆使して様々な言い回しを使いながらの会見、講演は時に、メモをとる記者泣かせでもあったが、総裁の意向は市場にわかりやすいメッセージとなった。

 一方で福井総裁は、富士通総研理事長や経済同友会副代表幹事として民間で活動した5年弱の経験や幅広い見識を生かし、金融政策以外にも様々な提言を行ってきた。日本経済が人口減少社会に突入する中での成長力の維持のために生産性の向上や移民受け入れにまで言及することもあった。国政選挙を控え、中小企業の立場を代弁する政治サイドからの注文が相次ぐ中でも、そうした発言をノイズとせず民主主義の良さと捉える認識を示すなど、懐の深さをうかがわせる発言もあった。

 <ジレンマに直面する次期総裁>

 日銀は、世界経済の変調を前に、これまでの利上げスタンスをいったん「封印」せざるを得ない状況に直面している。これまで経済のエンジンだった輸出の大きな相手先である米国の景気後退懸念が強まっているためだ。日銀内にも輸出が伸びず、生産が停滞感を強めれば、景気は拡大から足踏みにとどまらず、後退するリスクに直面すると警戒する声が広がりつつある。下方リスクが急速に拡大すれば、利下げも選択肢に入る可能性が高い。

 だが、政策金利が0.5%に過ぎないという現実も日銀に立ちふさがる。仮にゼロ金利に逆戻りしても景気に対する効果に疑問の声もある。加えて財政政策に余力のない日本で、一刻も早く危機対応能力のある金利水準を回復させなければならないという課題も背負っている。

 さらに新興国の内需拡大により資源・エネルギー価格の上昇が当面続くとみられ、物価面での上昇圧力は増大するリスクも無視できない。

 金融政策にとっては相反する方向の課題に直面する中、新総裁は何を政策対応の優先順位として重視していくのか。短期・長期バランスも勘案しつつ、21世紀型の経済変化に対応するという難しい課題に直面することになる。

 (ロイター日本語ニュース 編集 田巻 一彦)

 
 
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