五輪後の中国:内陸部の投資支えに高成長続く、株価は年末以降回復へ

2008年 07月 25日 16:40 JST
 
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 [東京 25日 ロイター] 野村総合研究所(NRI)執行役員の此本臣吾氏は、北京五輪が中国の経済全体に与える影響は軽微とみており、五輪に関係なく中国経済は今後も内陸部への活発な投資などを支えに「当分高成長が続く」とみている。

 NRIコンサルティング事業本部でアジア・中国事業を統括する此本氏は22日に行われたロイターとのインタビューで、胡錦涛政権は沿岸部の産業高度化とともに、内陸部への労働集約型工場のシフトという産業再配置を進めるため「地方の経済はものすごい勢いで伸びる」と述べた。

 軟調地合いが続く中国の株式相場については、行き過ぎた株価の調整局面に入っているものの、「ある程度の調整を経て、今年年末か来年に入ればまた上がり始めると思う」との見方を示した。

 インタビューの要旨は以下の通り。

 ── 五輪後の中国経済の見通しは。 

 「中国は新規労働者が毎年1500万人増えるため、それに見合う雇用の受け皿と経済成長を維持する必要がある。原油価格が1バレル=200ドルを超えるような外部環境の変化がない限り、基本的に当分は高い経済成長が続く。貧しい人がある程度いなくなるまで成長を続ける」

 「今年は内陸部への投資がものすごいので経済は意外と底堅く、成長率は10%台に行くとみている。ただ、来年以降は外需の伸びが弱まり経済成長率が9%台になるのは確実で、悪くすると9%を切るかもしれない」

 「今までの2ケタ成長でゆがみも出ており、政府は成長の巡航速度を8─9%に落とそうと考えている。五輪とは関係ないが、今年は中国にとって変わり目の年になる。世界経済が転機を迎え、それに対応して中国も成長路線を軌道修正しているためだ。問題の1つはインフレで、今年も年間7─8%になり、農村人口の中でも所得が低い2─3億人を直撃する。政府はインフレ問題をかなり深刻に受け止めている。もう1つは成長の原動力である投資と外需。投資は過熱し過ぎているぐらいなので心配はないが、2ケタで増え続けてきた外需が米国経済の減速などで鈍化する。政府は内需依存型への転換を目指すが、時間がかかるため、成長率そのものをやや弱めに考えざるを得ない」 

 ── 北京五輪は中国経済にどう貢献するか。

 「北京五輪に伴う建設需要は国内総生産(GDP)に対し1%弱の押し上げ効果があった。ただ、ピークは05─06年で既にこの部分ははく落している。消費については開催期間が短くカンフル剤としての効果は見込めない。東京五輪やソウル五輪と異なり、北京市の経済が国全体のGDPに占めるシェアは3─4%にすぎず、北京五輪が中国経済全体に与える影響は軽微と言える。むしろ五輪開催中の厳しい交通規制で北京市の経済活動に支障が出たり、市の中心部にあった工場を一時的に外に移転しているため生産高も落ち込む」

 「2010年の上海万博は開催期間が半年と長く、地域の再開発も伴うため大きな経済波及効果が期待できる。まだ試算はしていない」

 ── 中国にとって五輪の意味は。

 「経済や産業については何の関係もない。中国が国家の共通目標を作り、中華民族の結束を固めて不平不満を押さえ込むという典型的な意味合いが、5─6年前に五輪を招致した際にはあったかもしれないが、今は全く逆だ。聖火リレーの最中に取りざたされたチベット問題など、中国がひた隠しにしていた部分が赤裸々になり、逆効果になった。今はとにかく五輪が『平安』に早く終わって欲しいというのが政府内部の本音のようだ」 

 ── 株式相場の下げが止まらない。 

 「株価が高過ぎたためで今は調整期に入っている。昨年10月の株価収益率(PER)は70倍で、だれがみてもバブルだった。また、非流通株の流通化が2年前に決まり、2010年にかけて段階的に市場に放出されることになったが、需給面での懸念要因になった可能性もある。インフレによる金利先高観も株には悪い影響を及ぼしている。しかし、今の低迷がそんなに続くとは思わない。ある程度の調整期間が終われば、そう遠くない将来にまた上がり始めるだろう。上場企業の業績も悪くない」

 「個人投資家は株価の急落で資産面の痛手を受けたが、給料が上がっているため資金フローのダメージはない。上海などで個人消費に影響は出ていないし、金融機関への影響もない。ただ、不動産価格が崩れ始めたらどうしようもない。株とはマグニチュードが全く違う。金融機関を直撃し、米国のように貸し渋りが起こる。不動産市場については上海で一部の高額な投機物件が売れない問題があったようだが、実需があるため、急激に下げ始める様子は見えていない」

 ── 社会の格差が指摘されている。

 「中国は格差の問題が非常に大きい。沿岸部は豊かになったが、中部、西部、東北部は成長が遅れた。胡錦涛政権は格差を是正するために沿岸部の産業を高度化する一方で、中部、西部に向けてインフラを整備して労働集約型工場を沿岸部から内陸部にシフトする産業再配置を進めようとしている。中国は先富論を大きく転換するタイミングにきており、今後5─10年はとても重要だ。低福祉、低人権の時代から次のステージに移ろうとしている」

 「ただ、皮肉なことに社会を安定化させようとして格差を是正しようとすると、社会を不安定にしてしまうこともある。これまで中国人が公権に逆らうことはあり得なかったが、現政権は弱者の味方と認識し、泣き寝入りはせずに苦しければ堂々と訴える風潮が広がり始めている。上からの圧力でふさがっていたパンドラの箱が開いてしまった。社会の不安定化は心配だ。今年とか来年の問題ではなく、5─10年でみて中国はこの問題で悩まされるかもしれない」 

 ── 政情不安に陥る可能性は。  

 「政治的には絶対に不安定にならない。中国共産党と公安の組織は強大で崩れることはあり得ない。胡錦涛政権の運営に上海族が批判することはあっても、共産党内部での問題で、今の政治体制が揺らぐことはあり得ない」

  ── 日本は中国にどう向き合うべきか。 

 「高成長を続けてきた沿岸部の伸び率は鈍化し、これからは地方の成長が始まる。日本の自動車もエレクトロニクスも、今後2─3年で必要なのは地方への投資だ。体力や競争力があるグローバル企業はこれから地方部の開拓を進める。地方には政府がカンフル剤を打つし、産業再配置が進めば、地方経済はものすごい勢いで伸びる」

 「内需という意味で日本や世界の企業にとって中国の魅力は高まる。工場としてのポテンシャルもある。少子高齢化が進む日本の企業は、研究開発機能を国内に残しても量産型工場は海外に移転せざるを得ない。安いモノ作り拠点としての中国の役割は終わりつつあるが、質の高い労働力を備える中国は、日本企業にとって本格的な生産基地として身近に活用できる重要な市場になる」

(ロイター日本語ニュース 大林 優香記者;編集 田巻 一彦)

 
 
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