COLUMN-〔インサイト〕米金融緩和とドル安は相関、注目されるFRB議長の判断=第一生命経済研 熊野氏

2009年 10月 7日 13:27 JST
 
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 <G7声明だけでは難しいドル安修正>

 最近のドル全面安の背景には、米連邦準備理事会(FRB)による短期金利低下の思惑が強まって、投機的な動きが起こっていることがある。低金利の思惑を背景としたドル安の持続性を考えてみると、FRBが低金利継続の副作用を歓迎しない姿勢を採った場合、どこかのタイミングで強めに効きすぎた低金利期待に修正を加えることがあり得るとみられる。

 G7だけでは為替円高に歯止めがかかりそうもない。イスタンブールで開催されていた10月3日のG7では、共同声明の冒頭で「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与える。われわれは、引き続き為替市場をよく注視し、適切に協力する」と久々に警戒色の強い文言を使っている。

 各国が共通して警戒感を抱いているのは、通貨高が円のみならず、ユーロなど他通貨でも容認しにくい流れとなっていることを反映している。これを受けて、ガイトナー米財務長官は「強いドルを維持することは、米国にとって非常に重要」というお決まりの文句を述べ、藤井裕久財務相も「一方的に偏った動きが激しくなれば、それなりの対応を採る」と為替介入をちらつかせる姿勢をみせている。

 しかし、ドル全面安の原因は、米国自身にあると考えられるので、米国が率先して「ドル安を容認しない」と強いメッセージを出さなくては、ドル安予想の修正がにわかに難しいと考えられる。

 

 <金融緩和とキャリートレード>

 

 円高が進んでいく過程で、藤井財務相の発言が円高容認と受け取られることに注目が集まりがちだったが、円高の要因はそれだけではあるまい。背後には、米国の金融環境の要因がより強く作用しているのではなかろうか。

 2009年8ごろからのドル安には、FRBの低金利継続の期待が強まって、ドル・キャリートレードが活発化していたという特徴がある。最近のドルLIBORの推移をみると、FRBが景気底入れを前提に出口政策を進めると同時に、例外的なFFレートの低金利を長期間据え置くことを示唆したことにより、イールドカーブが平坦化する傾向が現れている。

 こうした緩和観測は、投機筋にとって、短期の資金調達を一定期間安心して続けられる条件を満たし、投機のチャンスとなっていると考えられる。シカゴのIMMポジションでも、このところ各国通貨は対ドルでドル・ショートのポジションになっていて、ドル全面安が進んでいる格好になっている。

 こうした投機筋の動きは、商品市場でも同様に起こっている現象である。投機の主体はCTA(商品投資顧問業者)とみられており、ドルで資金調達して、通貨から商品、新興国株まで幅広い範囲を投資対象にして投機を仕掛ける動きがあると考えられる。

 

 <マネーの量的指標とドル安>

 

 米国の流動性環境を考える上では、長期金利の動向もドル安と大きなかかわりがあると考えられる。米長期金利は09年6月に4.0%に接近したが、その後は一貫して低下基調にある。米金利低下が進んでいることは、内外金利差を縮小させ、ドル安圧力となっている。

 また、長期時系列のデータでマネーサプライのM2と名目実効ドルの推移を重ねてみると、両者はドル安=マネー鈍化のかたちで対応する。

 このマネーサプライの中でM2が鈍化している背景には、米国において資金需要がより高い安全資産に向かっていることがあると考えられる。米国のマネーサプライ統計をみると、FRBが過去に類を見ないような膨大な流動性供給をしているので、高い流動性のM1の伸び率は歴史的に高い伸びを示しているが、その一方でM2の伸び率は頭打ちである。

 最近、M2の伸び率が鈍化していることは、民間部門のマネー保有が、相対的にリスクのある資産にはこれ以上回らなくなっていて、追加的なマネーがむしろ安全性・流動性の高い資産へとシフトしていることを暗示している。もっと広く考えてみると、FRBの流動性供給がリスクマネーの需要増を刺激しにくくなっている図式だと理解できる。

 なお、ドルキャリーのような投機的取引が活発化していることと、民間部門のリスク選好の低下が共存することは一見矛盾するようにみえるかもしれない。だが、全般的にリスク資産収益率が低下していることは、過度にリスクテークをしてリターンを得ようとする余剰マネーが生じることの原因にもなる。投機の活発化は、健全なリスクマネーの成長が阻害された結果として捉えると整合性がつく。

 

 <金融緩和の宿命>

 

 先行きの円高の行方は、ドルキャリーの動きがどこまで活発化するかにかかっている部分が大きい。9月23日のFOMC(米連邦公開市場委員会)声明文では、短期金利が長期間据え置かれると記述されているので、しばらくはドルキャリーの動きが止まるとは考えられないと、見るのが自然な読み方になろう。

 しかし、筆者はドル安が本当に長期化してしまうという見方には賛同しない。バーナンキFRB議長にすれば、出口政策に着手する一方の痛み止めとして、低金利の据え置きを宣言しているという配慮がある。

 つまり、低金利継続そのものが目的というよりも、出口政策における混乱を止めるという意義をもって、低金利継続を強調しているのであろう。バーナンキ議長は、急激なドル安が進むことで、G7などの国際協調の足並みが乱れたり、資源インフレが加速するという投機的行動が強く表れた場合には、そちらの副作用に目をつむることはしないだろう。

 すなわち、バーナンキ議長はタイミングを見計らって、超低金利路線を修正しないという思惑を再調整するようなアナウンスをしてくる可能性がある。そのタイミングとして、次回FOMCの11月3─4日が注目点になろう。

 達観すれば、中央銀行が出口政策に取り組むときの困難は、1)時間をかけて実体経済の回復を待つ、2)その期間に起こる投機的な思惑を抑える──ことにある。かつての日本の量的緩和解除もそうだったが、景気回復が進むとともに、実質的な金融緩和効果は強まっていく。その際、中央銀行のアナウンスが杓子(しゃくし)定規になれば、思惑が先走って混乱の火種が生まれる。任期延長を果たしたバーナンキ議長が、議長の任期中に学んだのは、そうした裁量主義の重要性であったと考えられる。

 

 第一生命経済研究所 主席エコノミスト 熊野 英生

 

 (7日 東京)

 

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