〔提言:財政再建〕歳出コントロールの仕組みなければ、健全化目標も「画餅」に=田中一橋大准教授

2010年 02月 10日 13:05 JST
 
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  [東京 10日 ロイター] 政府の「中期的な財政運営に関する検討会」のメンバーで、一橋大学准教授の田中秀明氏は、ロイターのインタビューに応じ、財政健全化の数値目標を設定すれば自動的に財政規律が維持されるわけではなく、政治圧力で膨張しがちな予算編成を統制する仕組みが不可欠との認識を示した。歳出をコントロールする仕組みがなければ、「数値目標は画餅であり、財政再建はできない」と述べた。

 

 政府は2011年度から13年度までの3年間の歳出歳入の大枠を設定する「中期財政フレーム」と中長期の財政規律のあり方も盛り込んだ「財政運営戦略」を6月までに策定し、財政健全化の道筋を示す方針だ。関係閣僚・副大臣や有識者からなる「検討会」では、海外の事例を参考に検討作業を開始。検討会メンバーである田中氏に、海外の事例を参考に考え方を聞いた。

 

 インタビューの概要は以下の通り。

 

 <現在の日本の財政状況について>

 

 ──現在の日本の財政状況をどう評価するか。

 

「昨年11月に発表されたOECD(経済協力開発機構)のエコノミック・アウトルックによると、一般政府(国・地方・社会保障基金の合計)の純債務残高の対GDP比は2010年に初めて3桁(105%)に達する見込みであり、イタリアより高くなる。確かに、巨額な水準だが、直ちに、経済危機が来るかと言うと、多分それはないと思う。日本は他の国と違い赤字は巨額ではあるものの、自らファイナンスできるからだ。外国人がもっている国債はせいぜい7、8%、赤字を国内でファイナンスできている」

 

「直ちに日本がそういう状況(アルゼンチンなど破たんした国)になるかというと、1、2年の短期間で日本がそうなる可能性は低い。当面デフレが続く見込みであり、資金需要が弱く、国債は買われるだろう。ただし、中長期的にファイナンスし続けられるか、リスクは高くなっている。国内家計貯蓄が減ってきているからだ。ほとんどのOECD諸国で景気対策が行われ財政が悪化しているが、他方で、市場の信認を得るべく出口戦略を発表しているが、日本は出口戦略を発表していないので市場の信認が低下する可能性がある」

 

 「ファイナンスが難しくなるというのは国債金利が上昇するということである。現在10年国債の金利は1.3%強だが、これが3─5%になったら相当厳しくなる。予算の半分以上が国債費になり、住宅ローンなどお金を借りている人は生活できなくなるだろう」

 

 <数値目標について>

 

 ──日本ではどういった数値目標が有効か。

 

 「プライマリーバランス(基礎的財政収支)の回復が第一歩。プライマリーバランスを達成しつつ、債務残高対GDP比を少しづつ下げていくことが一般的だと思う。ただし、数値目標は理論的に合理的な水準が導き出されるものではないので、数値目標やタイミングはシミュレーションを行い判断するしかない」

 

 「プライマリー赤字とは、現世代の日々飲み食いした勘定を将来世代の子供たちに転嫁しているということ。世代間の公平性の観点で問題がある」

 

 ──なぜ目標達成に失敗してきたか。

 

 「日本に限らず、多くの国でこれまで数値目標が導入されているが、多くが失敗している。いろいろな理由があるが、数値目標に内在する大きな問題は景気循環にどう対応するかということである。英国などでは景気循環を通じて財政収支を均衡させるというルールを導入している」

  

 「多くの国で失敗するのは、景気が良いときに減税し、その後の景気後退時に財政赤字が拡大することである」

 

 「1997年に制定された財政構造改革法の失敗は、財革法が景気に対して非弾力的で、予算統制に関しては弾力的だったことである。つまり景気に対する柔軟性が欠ける一方で、抜け穴が多く歳出をコントロールする仕組みが弱かった。たとえば、当初予算にしか歳出のキャップがかかっていなかったので補正予算でいくらでも調整できた。2006年の歳出歳入一体改革も、歳出コントロールが弱かった」

 

 「GDP比といったマクロの目標はわかり易いが、予算は政治的な戦い。予算を増やそうとするプレーヤーが参加するポリティカルゲームは、マクロの数字では統制できない。予算編成を統制する仕組みが必要で、特に歳出面、歳出をいかにコントロールするかその仕組みが重要だ」

 

 ──海外事例は。

  

 「先進国の中で最も厳しい歳出コントロールを導入しているのがスウェーデンだ。同国では、90年代初めに財政赤字が拡大し、財政赤字を削減しない限り、築き上げた福祉国家が崩壊するという経済危機に直面した。抜本的な予算制度改革が行われたが、その背景には、国民や政治家に危機意識が共有されていたことがある。具体的には3年間の支出総額の上限値を税収動向を踏まえ議決する。国会で議決し直さない限り上限は変えられない。日本のシーリングと異なり、決算ベースでこの上限値を守らなければならない。ただし、その内訳(医療・教育といった27分野)は支出総額を守る限り弾力的に変えることができる。たとえば教育予算を増やすのであれば、他の分野の予算を減らす必要がある。

 スウェーデンの仕組みは単純には他国に応用できるものではないが、シーリングにより予算を統制するという基本的な考え方は学ぶことができる。これがないと、数値目標は画餅であり、財政再建はできない」

 

 「マクロの数字と歳出コントロールの仕組みがないとうまくいかない。日本はいずれも欠けている」

 

 <改革が成功するには何が必要か>

 

 ──消費税増税を封印して実効性ある財政健全化目標は可能か。

 

 「消費税に限らず、歳入面での増収がないと、人口高齢化で増大する年金や医療・介護に係る費用を賄うことはできない。負担を将来世代に転嫁するだけでは、持続可能な社会保障制度とはいえない。しかし、現在の政府部門では、医療・介護なども含めて、多くの「無駄」があることも事実である。昨年行われた『事業仕分け』はまさにそれを証明した。菅副総理兼財務・経済財政担当相は『鼻血も出なくなるまで』と言ったが、無駄の削減を徹底的にやって欲しい。無駄の削減だけでは社会保障を賄えないが、それをしないと国民の理解を求めるのは難しい」

 

 「財政に限らず、世界中で構造改革がなぜ行われたかを調べると、基本的には2つ要因が必要。ひとつは国民が危機感を共有できるか。問題をこれ以上放置することはできないと、政治家もマスコミも、国民も共有できるか。スウェーデンでは、90年代初めの経済危機を受けて、4年間にGDP比8%の財政赤字の削減、すなわち毎年10兆円ずつ赤字を減らした。そのため、育児関係の予算も削らなければならず、出生率は低下した。しかし、他に選択肢はなかった。そういう厳しい改革を行うためには、危機感の共有が必要である。

 もうひとつが政権交代だ。スウェーデンも、危機に直面した時に選挙が行われた。この時ばかりは、あれもこれもという選挙演説ではなく、どのように赤字削減をするかが選挙の争点になった。そして、新政権が改革のイニシアティブを取った。カナダやニュージーランドなど、改革に成功した国では、この2つの要因が揃っている」

 

 「日本でも政権交代をしたので、改革の可能性は高まったといえるが、国が立ち行かなくなるという危機感の共有はないだろう。あったら、このように財政赤字は拡大していない」

 

 ──政治家の危機感が乏しいようにみえる。

 

 「政治家は国民を見ているので、国民の間で危機感を共有できるか。それがないと、政治は動かない」

 

  (ロイターニュース 吉川裕子記者 久保田洋子記者)

(yuko.yoshikawa@thomsonreuters.com;03-6441-1838;ロイターメッセージング:

yuko.yoshikawa.reuters.com@reuters.net)

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